学習指導要領

アメリカの教育改革におけるSTEAM教育とPersonalized Learning

今後AIがますます発達することで,「人間にしかできない職業とは何か」について,考えさせられることが多くなってきた昨今ですが,そういった危機感は,別に日本固有のものではありません。

世界中の国々も,将来の産業競争力を見据えた教育改革を実行しつつあります。

今回はその中から,『アメリカにおける教育』について,近年どのような取り組みが行われているのか,みていくことにしましょう。

 

 

アメリカが抱える,教育に対する課題

mpewny / Pixabay

世界中に大きな影響力を及ぼしているアメリカですが,主流とされる教育において抱えている悩みは,実は日本と大差ありません。

今回は,現在の米国における教育システムにおいて指摘されていることとして,以下の4つの課題について取り上げてみましょう。

 

相変わらずの詰め込み教育

「先生は講義をすることで,生徒にただ知識を授け続けるだけである。」

教育改革が起こるたび,生徒が学ばなければならない知識の量というものが徐々に増えていきます。

だからといって,増えた分の知識を学生に教えるために先生側が,従来それ以外の活動に使っていた時間まで費やしてしまっては本末転倒でしょう。

 

「今後,学校で教えるべきことはそもそも何なのか」

 

それはこれから触れていくことになりますが,日本における2020年の教育改革においても,従来の受験勉強(詰め込み教育)が批判されています。

『今後は今後の時代に求められる能力を身に付ける必要がある』ということについては,これまでにいくつかの記事の中で書いて参りましたが,根本的な読み書きそろばんの重要性がないがしろにされるというわけではありませんでしたね。

『受験勉強』といった単語でイメージされるような従来の詰め込み教育は,なるべく家庭内でやってもらって,学校では必要な知識があることを前提として授業が行われるという方針に変わっていくことでしょう。

そのため,学校外で独学する機会がますます高まるというのが,今後の教育改革において予想される事柄です。

 

批判的思考力が育ちにくい

「好奇心は授業の邪魔になる」

アメリカの授業風景で,頻繁に目にしてきた討論形式での話し合い。

誰かの意見を鵜呑みにするのではなく,自分の頭で考え納得のいかないものはとことん意見を出して話し合う。

そんなシーンは,アメリカの教育現場を代表する光景の一つでしたが,現在の米国は先述したように,詰め込み教育に追われています。

そうなると,カリキュラムを終える時間がどうしても足りなくなってしまうことになり,そういった大切なディベートの時間が犠牲になってしまっているのも課題の1つ。

英語だと『Critical Thinking(クリティカルシンキング)』と呼ばれる批判的思考力ですが,これまでにおいても,常識を疑うこと,普通の人なら目に求めないようなことに疑問を持ち,なんでだろうと考えてみることが,世紀の大発見につながってきました。

『多数決』などという,「(正しいかどうかさえ疑わしい)常識こそが正しい」などと考えているようでは,創造性は育まれないのは当たり前のように思えます(もちろん社会的な場面における民主主義の精神を批判しているのではなく,あくまで教育の世界においての話になりますが)。

 

認知能力がもてはやされる

認知能力とは,教わった知識を蓄積し,必要に応じて再現できる能力を指しますが,

「学生は試験を受けて,ただ点数でのみ評価される」

というのも現在のアメリカが抱える問題の一つ。

学んだことをただ覚えて,それを実際の試験で再現してみせることだけが勉強だと勘違いされてしまっては困りますね。

確かに,答えが1つに決まっているのを評価するのは簡単で,信頼できるデータの一つにはなりますが,日本の大学入試においても今や面接で合格が決まる学校が半分以上を占めるとも言いますし,知識はコンピュータ上に蓄積されていますから,必要なときに引き出して,それを使って何をするかの方が大事だと言うことは忘れてはいけません。

特にこの3つ目の課題は,既出の2つの課題を受けたものになっていると思います。

 

やり抜く力が育たない

「人生で最も大切な経験は失敗なのに,現代の若者は失敗の準備ができていない」

ロバート・ゲイツ元国防長官はこのように述べます。

  • 失敗は成功のもと
  • 若いうちに挫折を味わった人の方が強い

などと聞いたことがありませんか。

失敗することばかり恐れていては,何か思い切ったことができず,ただ無難かつ,誰でも(それこそロボットでも)できるようなことしかできない大人に育ってしまいます。

これではAIに職業を奪われる時代において生き残れません。

中高生によく言うのですが,学校のテストにおいて悪い点を取ってしまったときはむしろ喜ぶようにしてほしいものです。

というのも,100点満点を取った子の場合,その答案から得られるのは単なる満足感だけにすぎませんが,もし50点の子であったなら,今の自分よりあと50点分賢くなれるチャンスがあることになり,テストを受けた恩恵を確実に受けられることになるわけですから。

 

そして,このような指摘について,アメリカはいち早く教育改革に乗り出しています。

次章では,具体的な取り組みの例についてみていくことにしましょう。

 

 

明確な国家戦略~STEAM教育~

DGlodowska / Pixabay

アメリカでは,未来の産業競争力が低下しないよう,オバマ大統領の時代にSTEM教育が国家戦略として位置付けられました(2011年の一般教書演説内)。

STEM教育というのは,

Science(科学), Technology(技術), Engineering(工学), Mathematics(数学)

の頭文字をとったものですが,これにArt(デザイン・芸術・人文・社会)を加えたSTEAMと呼ばれる分野が,テクノロジーが進化した現代においては注目されるようになってきています。

 

さらに連邦教育省が発表したこととして,

  1. 学校におけるブロードバンドの推進(ConnectED Initiative)
  2. EdTech(教育技術)を活用する政策プラン(National Educational Technology Plan)
  3. EdTech開発者向けのガイドライン(EdTech Developer's Guide)

などが知られており,実証プロジェクトも推進されました。

やはり,国が先導して導くことで,できる選択肢の幅が広がることになりますね。

ですがこれを成功させるためには,支持する側(我々)の意識改革も必要になってくるのは言うまでもありません。

国民全員が関心を持って,国の取り組みを支えたいものです。

 

 

実戦的なSTEAM教育

先端を行くような企業や研究所を中心に,実践的なSTEAM教育は生まれてくることがわかります。

アメリカでの実例としては,

  1. ある惑星からサンプルを持ち帰るミッションをNASAのチームと一緒に設計するプログラム
  2. 1つの地域で風力による発電量を調べ,3Dプリンターを用いてオリジナルのミニ風車を作成するプログラム
  3. ハッカーに破られない,自分のみが開け方を知っている箱を作るプログラム

など,どれも具体的なミッション(目的意識)が明確に存在していて,そこから逆算して自分の行動を考える教育が行われているというわけです。

こういった試みについては日本でも行われるようになってきていますが,『自由研究』と聞いた途端,嫌だった夏の思い出が蘇ってしまう私のような人間には,なかなかに根の深い問題なのかもしれません。

 

ちょっと逸れましたが,上記のようなプログラムがもっと日常的に行われるようになれば,子どもたちが明確な意識を持ちつつ,純粋に楽しんで学んでいけることになります。

何が我が子の将来を決める転機になるか分かりませんからね。

今回のプログラムにおいても,色々な企業を始め,やはり我々自身もSTEAM教育の重要性を理解し,周りにもっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。

 

なお,以下の動画は上記でいうところの3つ目のプログラムの例です。

この箱は,普通に開けると警報が鳴ってしまう仕掛けが施されていますが,これを音を出さずに開けるために,リボンの位置をずらす必要があるとは,まさに自分だけしかわからない開け方ですよね↓↓

 

 

High Tech Highの試み

アメリカの教育改革を描いた『Most likely to Succeed』という映画が舞台にしているのが,サンディエゴにあるHigh Tech Highという学校で,そこでは教科横断型で課題解決能力を育成しています。

社会に出ると,

観察→考察→記録→結果発表

といった段階を経ることで,何か(家でも映画でも本でも)を作り出すことになりますが,この時必要になる能力として,

  • 知識を活用して何かを創る創造性
  • 批判的思考力
  • 課題解決能力
  • コラボレーション能力
  • 失敗から学ぶマインド

といった,非認知能力が役立つこととなります。

High Tech Highのような先進校が日本人に認知されるまでには,まだまだ時間はかかるのでしょうが,こういった活動をして毎日を過ごしている子供たちもどこかにいるということは,頭の隅に留めておきたいものですね。

 

なお,上記映画については,日本でも上映会を開催している団体があります。

FutureEdu TOKYO

 

 

Alt Schoolの取り組み

その他には『Alt School』という,次世代の初等教育を行っている学校もあります。

このAlt Schoolは,元Google社員が創設し,マークザッカーバーグ氏が出資した学校として知られており,EdTechを活用し,個別最適化した教育体制を可能にしています。

 

Alt Schoolの大きな特徴は何と言っても,学年という物差しが存在しないこと。

それにより例えば,「英語は1年生レベルだけれど,数学は3年生レベル」といった生徒がいた場合に,その子の得意不得意に合わせて柔軟に学べるような教育が可能になるのです。

生徒1人1人の興味・関心,強みはたまた弱みなどに応じてプログラムを個別に提供できるのは,EdTechによるデータ収集とAIによるデータ解析があってのことです。

このような学習の個別化(Personalized  learning)は,これからの教育で主流になっていくことでしょう。

 

 

Personalized Learning

アメリカでは2016年の振興計画において「テクノロジーが可能にする学習経験の変化をすべての人が享受できる」ことを国民に呼びかけ,それを実現するためにPersonalized Learningを指摘しました。

この内容ですが,以下の3つの組み合わせからなるとされています。

  1. オンライン学習:ヴァーチャルスクールを例とする,学習内容と指導がインターネット状で提供される学習
  2. ブレンド型学習:教室で教員が始動する伝統的な学習にオンライン学習を組み合わせたもの
  3. コンピテンシーに基づく学習:履修した授業時間に関係なく,コンピテンシーの習得が証明されることで進級進学する学習

です。

特に最後の学習は,まさにAlt schoolで実践されているものでしたが,自分でどんどん学んでいける上,その内容は自分にとって最適化されたものです。

学校や先生の果たす役割も変わってくることでしょう。

 

 

まとめ

igormattio / Pixabay

以上,先進国の中でもひときわ大きな存在のアメリカにおける教育改革の課題と,STEAM教育やPersonalized Learningについて具体例をいくつかみてきたわけですが,今後のAI社会においては,従来の認知能力だけでなく,非認知型能力が重用される時代になることが予想され,そういった能力の開発を担うものとして,EdTechとAIの存在が挙げられていました。

日本でも,ひと昔前は『子どもや大人の理科離れ』がしきりに騒がれた時代もあり,企業も子どもの理科離れを食い止めるべく,上記のような試みを行っていたのも確かです。

ですが今や,その時以上にICTは発展し,これまで不可能だったことが可能になる時代が現実のものとなってきています。

 

人は,自分が教わったようにしか教えられないことが多いため,教える側も混乱しているように見受けられますが,2020年の教育改革を大きなきっかけとし,国の方針に従って新しい教育を生徒に施してやれる教師というのが沢山出てくることを望みたいですね。

もちろん,子どもの教育を教師だけに任せておくのではなく,保護者含む国民が一丸となって,国の宝である子どもたちを,今後の競争時代を生き残れるような立派な人材に育てあげることこそ,2020年以降の日本における課題なのではないかと思います。

今後も各国の取り組みについては,ちょこちょこ記事にしていくつもりです。

 

最後までお読みいただいた方,ありがとうございました。

  • この記事を書いた人

スタディサイト管理人

都内で塾運営にかかわってから,講師歴も15年以上になりました。小学生から高校生まで,英数を中心に学校の定期テストから大学入試まで幅広く教えています。最近の関心事は「教育改革」で,塾に入ってくる情報に加え,セミナーや書籍,信頼のおける教育機関より得た情報をまとめています。すぐに実践できる勉強法やオンライン教育サービスを利用した学習戦略も意欲的に掲載。ネットを介したやり取りにはなりますが,少しでもみなさまのお役に立てたらと思います。

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