昭和40~50年代の受験英語は森一郎の参考書で学ぶのが定番だったようですが,さらに前の世代(大正生まれ)ともなると,「小野圭次郎(通称小野圭)の著書くらいしか英語の参考書はなかった」のだと祖父からは聞かされています。
もっと言えば,長男から次男,三男にいたるまで文字通り同じ本で学んでおり,学年の垣根を超えて引き継がれてきた一冊を前にすると,現代とは全く違う時代背景に戸惑いを隠せません。
現在,我が家には100年近く前に出版された小野圭次郎の参考書が数冊残っているわけですが,旧字体を用いたページは,現代の著書では味わえない独特の響きでもって読者に語りかけてきます。
沢山の印象的な解説が含まれているため,私はこうした古き書物に書き記されているセリフを引用しては受験前の生徒を励ますことが多いのですが,このたびスタディサイトにおいて「小野圭次郎に学ぶ100年前の勉強法」という内容でまとめてみることにしました。
当記事を読むことで,現代に英語を学ぶ方であっても,高度経済成長期にみられたような強い気持ちを持って本番に挑むことができるようになり,テストで臆することがずっと少なくなるはずです。
小野圭次郎と英語参考書
私が小野圭次郎(1869-1952)について知ったのは祖父の話がきっかけでしたが,彼ら2人のお墓が多磨霊園というところにも妙な縁を感じます。
福島県の生まれで東京高等師範学校で英語を学び,その後は松山高等商業學校などいくつかの学校で教鞭を取りますが,1921年(大正10年)に出版した処女作の英文之解釈が150万部を超えるロングセラーになりました。
その後,確認できただけでも20冊以上の著書が生まれ(参考),2011年に河出書房新社から「英文解釈研究法」という本が復刻された際には,実に50年ぶりのサプライズということで喜んだ方も多かったはずです。
なお,昭和初期に行われた高校生への調査や雑誌の受験期によれば,合格者の51~82%は小野圭次郎の英語参考書を使っていたとされています(山海堂出版部英語の作文より)。
キャッチコピーの1つは「二點間の最短距離は之を結ぶ直線」ということで,無駄のない効率的な学習が重視されていたのは今も昔も同じようです。
英語を学ぶ上での基本姿勢
まずは大まかなところから,英語を学ぶ姿勢についてみていきますが,みなさんは「真面目」という言葉を聞いてどのような印象を抱くでしょうか。
ここですぐにマイナスのイメージが浮かんできてしまう方は,これまでにあまり勉強面での成果が得らていないはずで,その経験が影響してしまっているのだと考えられます。
逆に,周りからからかわれても「真面目で何が悪い!」などと即答できる生き方ができる方であれば,非常に効率良く成長することができ,受験勉強でもさほど苦しまずに良好な結果を修められるはずです。
実際,小野圭次郎の著著にも以下のようなセリフがあります↓
試験合格の秘訣は徹底せる準備にある,而して徹底せる準備は結局勉强の二字に歸着するのである。
受験生になってようやく必死になって勉強しても報われないのは,これまでサボってきたツケを払わされているからです。
現実的に,中学受験をした生徒とそうでない生徒の間には,1年生の時点ですでに5000時間もの勉強時間の差がついてしまっています。
その後も高3に至るまで両者の勉強時間の差は広がる一方なわけで,1日24時間勉強しても追いつけっこありません。
なので,普段から真面目に勉強することを心掛けてください。
さて,小野圭次郎の英語学習において重要視されているのは「反復・単語・暗唱」の3つです。
加えて,毎日5分でも音読とリスニングを行うように推奨されていますが,こちらも現代とあまり変わりません。
精読と多読については,理想は両方とされているものの,時間がないときには精読を優先すべきで,余裕がある人のみ洋書などを読むようにしましょう。
前者では英文解釈(文構造の理解)と文法の両方をしっかり学ぶようにします。
参考書は一科目につき一冊で十分で,いたずらに多くをかじり散らすのは良くないことだとされます。
順序ですが,中高生ともに文法学習が先で,後から英文を読む練習を積むのが原則です。
ところで,小野圭次郎の著書には以下のような言葉もあります↓
平静の精神鍛鍊が大切である。得意も平然失意も泰然たる膽力を養って置かねばならぬ。受驗に際しては度胸の据つて居ると否とは成功に大關係がある。
受験の成功には度胸が関係しているという指摘は盲点でした。
その観点でみてみると,確かに運動部の生徒は受験に強いです。
授業であろうと自習している時も,彼らは心を引き締めて一心不乱に頑張ることに長けています。
これまでは体力的に鍛えられていることが原因だと思っていましたが,試合で精神鍛錬をしてきた経験の方がより有効に働いているのかもしれません。
小野圭次郎に学ぶ試験での心構え
試験前の2~3日はあまり勉強をせずに脳を休めることとし,特に前日は早く眠ることが大切です。
短期間でのテスト勉強に当てはめてよいかはわかりませんが,ノー勉でない限り,定期テストで徹夜するのは避けることをおすすめします。
筆記具の用意は前日のうちに済ませておきますが,普段使用しているものを数本用意しましょう。
芯の硬さはHBが一般的ですが,2Bのように柔らかい方が長時間の筆記には有効です↓
受験会場には早めに行って着席をし,心を落ち着かせておくことが良い結果に繋がります。
心臓の音が聞こえるくらいに緊張してしまった際は深呼吸をしましょう。
なお,試験場は学力以外に人物をも試験する場所であることを忘れてはいけません。
小野圭曰く,
試驗は何か恐ろしきものの如く思って怯氣を起こしてはならぬ。
となります。
雰囲気に飲まれて委縮してしまってはいけないということですね。
加えて,大胆かつ最新の注意を払いながら解くことを肝に銘じてください。
学力と同じくらい,心構えが結果に影響するとのことです。
早く解き終えた場合であってもすぐに退場したり机に突っ伏して眠るようなことをせず,若さを発揮して,終了時刻までは何度も答案を見直すようにしましょう。
その他,時計を何度も見ないことや,訂正などの指示を見落とさないようにすることが書かれていました。
いよいよ問題用紙が配られても決して慌てることがないようにしてください。
先づニ三分閒は名目して膽玉を据え心臟の鎭まつた後靜かに讀み始めよ。膽が据らず恐怖して居ては自分の有する實力の半分も發揮することが出來ない。
上の言葉はかなり心に響きました。
毎回のテストで必ず最初の数分間を瞑想に捧げるわけにもいきませんが,心があまりに乱れてしまった際は,数分を費やしてでも心を落ち着けるだけの価値があるということは覚えておきたい教訓です。
問題用紙全体を通覧してはどんな問題があるのかを確認した後,いよいよ丁寧に読んでは解答を考えますが,問題によっては自分にとって一番解きやすい順番についても考えるようにします。
深く考えずに,ただ何となく前から順番に解答欄を埋めれば安心はできますが,そのときの正答率は思ったほど高くないことについては多くの方が経験があるのではないでしょうか。
頭が良い生徒の陥りやすい過ちとして,早合点して問題の意味を取り違えたり,細かいところに時間を使いすぎて大切なところまで解き終わらないことが挙げられます。
大体で構わないので,どのような時間配分でもって問題を解くかはあらかじめ決めておくのが良いでしょう。
ただし,いったん解き始めたからにはできるだけその問題を最後まで片付けるようにしてから次の問題へと移るようにしてください。
もちろん,簡単そうな問題から解き始めることにし,答えはすべて埋め,問題によって雑に解いたり丁寧に解いたりと力配分をしてはいけないのは当然です↓
合格試驗でなくて競爭試驗であるから,問題の難易に依て落膽したり,やけを起したり又は安心したりする譯には行かぬ。
私は小学生に「敵がスライムでも全力で倒しに行け!」などと指導していますが,易しい問題の時ほど注意が必要です。
もしも小学生が高校生にテスト結果で勝とうと思ったら,簡単な問題で勝負するのが最善だということを忘れてはなりません。
実際,ちょっとしたケアレスミスが合否を分けることも少なくないわけで,これは偏差値が高い学校の入試問題においてこそ顕著です。
実際は自分の想像以上に問題が難しいこともありえるのですが,いずれにせよ,自分の最善を尽くすことだけを考え,「他人より一点でも多く取って競争に勝利するんだ!」という強い気持ちで挑むようにしてください。
逆に,問題の難易度が高い時に受験生は落胆しがちですが,自分にとって難しい問題は他人にとっても同じくらい難しく感じられるわけです。
また,記述式問題を解く際によくあることですが,できないところを誤魔化して書くことのないようにしてください。
そのようなことをすると,採点官に自分の品性までをも見抜かれてしまい,結果的に自分の損へと繋がってしまいます。
巧みである必要はありませんが,字は丁寧に大きな字で真面目に書き,簡単明瞭な答えにするため,最良と思われるものだけを書くようにしてください。
ここでも採点者が不快な気持ちにならぬよう,整頓した書き方を心がけます。
小野圭次郎の本には試験後の心構えについても言及されていました↓
試驗が思ふ樣に行かなかつたとて,決して悲觀してはならぬ。どこまでも落ち着いて居るべきである。
一喜一憂する危険性をこの言葉は表しているように思います。
合格したからと有頂天となって羽目を外した結果,病気になってしまったり,入学後に退学になったりする人もいるくらいです。
残念ながら不合格の憂き目に出会ってしまった方は,2倍の勇気を奮って再度突撃をなす準備へと取り掛かりましょう!
小野圭次郎に学ぶ英文解釈
ここからは問題のタイプ別に,小野圭次郎の学び方についてまとめていきましょう!
まずは英文解釈からです。
基本方針としては,教科書の予習に注力してください。
「1時間の予習は2時間の復習に相当」します。
教科書(特に3年生でやるもの)は何度も精読し,よく目にする普通レベルの語句を確実に自分のものにしておくことが大切です。
徒に六かしい語句の記憶や解釋のみ努力して,普通の語句を輕視してはならぬ。どこの入學試驗に出る單語でも熟語でも普通一般のものが大部分を占めて居るのである。
毎日20~30分は音読しろとの指摘がありますが,確かにこの方法は英作文や会話能力を高める上でも有用ですし,語学の勉強では音読をするに限ります。
英文は全体をみるようにして,前後の関係を考え,常識に訴えては道理に合うように意味を取る習慣を身に付けましょう。
国語もそうですが,論理的に破綻している文章は試験で出ることはありません。
必ず根拠が文内に存在するものです。
英文を訳して日本文を書いてみることが思った以上に重要で,口で訳すのは簡単でも,文にして書いてみると非常に難しいことに気づく場面が多々あります。
大意を掴むためには,文をそのままの順番(英語を英語のまま理解すること)で直読直解しながら読み進められることも重要で,会話やリスニングの勉強,そして単語の暗記も平時から行うようにしてください。
英語雑誌や英字新聞も最新の英語に触れられる方法なので,差をつけたい方は是非採用しましょう!
これらは精読目的ではなく,多読を行うための教材になります。
わからない単語に出会った際は辞書を引き,余裕があれば英英辞典を使うことも視野に入れてください。
このとき,重要な英文に下線を引いておくと,しばらく経ってからそれらだけを復習することができます。
構文のうち,特に語句の修飾や省略が複雑なものは和訳問題として出題されることが多いので,普段から意識的に覚えましょう。
ノートはきれいに整頓して書き,予習段階においては余白を取っておきますが,詳しくは以下の記事を参考にしてください↓
小野圭次郎に学ぶ英作文
直前になって焦った時に詰め込んだ知識というのは,根本的な学力に繋がってきません。
最初に述べた通り,教科書を真面目に普段から勉強しておくことが重要で,練習問題を飛ばすことなく自らの手で行ってきたかどうかが問われることになります。
和文英訳は以下の順番でやってください↓
- 主語や句を見つける
- 馴染みのある単語や句を選択する
- 原文と同じ意味でなるべく簡単な文を作る
- 構文と語句の配列を考える
- 文法ミスがないか確認する
- コンマやピリオドを忘れない
- 大文字やスペルミスにも注意する
- 最後に読んで,口調を考慮する
個人的にですが,butやandで長い文を続けるのではなく,短くかつ誤りのない文をいくつも並べた方が得点は高くなりがちです。
文法の知識が最も問われるのが英作文なので,主述の関係や単複,助動詞や動詞の活用(特に不規則動詞),自動詞・他動詞,前置詞,冠詞,関係代名詞の他,時制の一致には注意を払いましょう。
基本例文を暗唱することも有効です。
単語力の不足が英作文ができない理由になっていることも少なくないため,正確に理解した単語の数を増やすように心がけてください。
和文英訳は解けば解くほどできるようになるので,1日何個と決めて1ヶ月やってみただけでも見違えるほどに上達します。
実際の入試問題を解いた際は,できれば教師にみてもらいましょう。
平易な文章で文法上の誤りのない樣に,自力で工夫する閒に進步して眞の實力がつくのである。
和訳と英文を比較することで英語特有の癖みたいなものが見えてきたら,それを真似れば良いです。
より詳しい解き方は以下の記事を参考にしてください↓
小野圭次郎に学ぶ英文法
近年文法の問題を出さない學校が多くなつたからとて,平素文法の硏究練習を輕んじて怠つてはならぬ。
英文和訳であろうと和文英訳であろうと,基礎的な文法知識がなければ必ず間違えてしまうものです。
文法は文法として覚えているだけでは役に立たず,実際に英作文や和訳問題に活用してこそ初めて価値が生まれるもので,応用力を身に付けるよう努力しましょう。
極めて普通のことを正確に覚えておくべきであり,例えば,主語と述語の数の一致,動詞の時制,受け身の作り方,助動詞と本動詞の続け方,不規則動詞の変化,形容詞の作り方,関係代名詞の用法,前置詞の用法,冠詞,スペリングには特に注意したいものです(おまけで仮定法,不定詞や分詞も)。
なお,問題が簡単なときにも見落としというものが起こり得るので注意してください。
文法上の議論や理屈は學生にあまり必要がない,實際に應用すると云ふ事に重きを置いて硏究すべきである。
小野氏の主張をまとめると,文法対策は練習問題を解くに限るという結論になります。
小野圭次郎に学ぶリスニング
リスニングの学び方ですが,毎日20~30分の音読時間を設けることが最優先事項です。
音読は自分の耳に英語の音を聞き分ける力を授けられる,大変効果が高いトレーニング方法であると言われます。
小野圭次郎によると,仲間と一緒になってディクテーションやリスニングの練習をし,試験の2~3ヶ月前は特に頻繁に行うと良いとのことです。
授業で英語を聞く時は集中し,/l/と/r/,/b/と/v/,/a:/と/er/などの似た音を聞き分けられるようになってください。
同様に,Iとeye,seeとseaとshe,catとcutのような同音または類似の音にも注意です。
これらについては,発音記号についての記事に詳しく書きました↓
綴りが難しい単語は何度も書いて,手が覚えるまで行います。
要するに書取には耳の力,文法の力,解釋の力,字を書く力の四つを養ふことが必要である。
今でもディクテーションは非常に得られることの多いトレーニング方法です。
以下の方法で,是非やってみてください↓
小野圭次郎に学ぶスピーキング
スピーキングでは,耳と口を使う回数が多くなるほどに上達度合いが高まります。
この両者を練習する機会を多く設けることを心がけてください。
會話熟達に最も大切なる要素は大膽であると云ふことである。過失を恐れず英語でどしどし話すことである,西洋人に對して話す場合は殊に然り。
今の時代にはオンライン英会話も利用できますし,失敗を恐れず英語でどんどん話しましょう!
基本となる対話は参考書の中にあるものを朗読して暗唱しますが,友達とロールプレイをしたり,片方が話した内容に対して,どんな意味だったのかを述べることも有効だとされます。
こちらも毎日20~30分は朗読する時間を設けたいものです。
なお,スピーキング特有の問題として,話す相手の挙動や気分にも注意しなければなりません。
英米人や英語をうまく話す人を周りで見つけたら,彼らの具合や調子を真似ることが大切です。
まとめ
以上,小野圭次郎の英語参考書から,現代にも役立つ内容を中心に紹介してきましたが,実際,書かれている内容は100年前も今とさほど変わらないように思います。
古き伝統を「悪」と見なすか「王道」とみるかは人それぞれですが,私は後者の立場です。
少なくとも,すべてが間違っていることはないですし,特に精神の持ちように関しては現代のそれとは明らかに違う力強さを感じ取れます。
本に挟まっていた栞一つ取ってみても,上の画像にある通り,様々なことわざが書かれており,私は本を開くたびに以下のような例文が目に入ってきて,大変に励まされました↓
- Industry is the parent of success.(勤勉は成功の母)
- Idleness is the root of all failure.(怠惰はすべての失敗の根元)
- Rome was not built a day.(大事は一朝一夕に成るものではない)
- Slow and steady wins the race.(孜々として勤むるものは競爭に勝つ)
当記事で述べた内容のうち,英文解釈や英作文といった個別の対策はともかく,試験における心構えは特に役立つものであると自負しています。
みなさんが試験会場で不安に陥らず,実力が発揮できることを祈り,終わりの言葉といたしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。