今回,マンガ入りの書籍で教育改革について学べる「2020年大学入試改革丸わかりBOOK」という本についてレビューしてみることにしましょう。
教育改革関連のニュースとしては,普段文部科学省のHPから主に情報を仕入れている私ですが,このような市販本をたまに読んでみるとまた違った発見があります。
本記事の構成としては,まずは本書の特徴について触れた後,大体どのようなことが書かれているかについての概要と私なりの感想をまとめました。
発売から数年が経っており,本書で語られる改革案の中には実施を見送った内容も含まれていますが,今後の教育がどこに向かうかといった国の方針を把握することは本書において十分可能です。
それでは早速始めましょう!
大学入試改革丸わかりBOOKの特徴
- 書名:マンガで一発回答2020年大学入試改革丸わかりBOOK
- 著者:松永暢史
- 初版:2017年4月25日
- 出版社:ワニプラス
- 価格:1,430円
2020年の入試改革の影響を受ける子を持つ保護者の疑問に対して,筆者なりの答えを提示していく形で書かれた本書ですが,読み始めてすぐに感じたのは「読みやすさ」で,これが一番の大きな特徴でしょう。
それを可能にしているのが,導入部として用意されたマンガです↓↓
このように,主婦たちの素朴な疑問から毎回話が始まるので,堅い内容になりがちな話題であってもすっと頭に入ってくるように思います。
もちろんすべてがマンガで書かれているわけではありません。
この後に続くのは会話形式の解説で,教育系コンサルタントをしている著者とあたかも面談しているような雰囲気で,マンガの登場人物になりきって大学入試改革に対する理解を深めることができます。
こちらもくだけた内容になっていて読みやすいでしょう↓↓
会話部分で語りきれなかった内容については,最後に補足として出てきます。
こちらはいわゆる普通の文章の形を取りますが,導入時のマンガと続く会話部分で理解を深めた状態で読むことになるので,出ている用語自体にもなじみのものが多く,それほど苦労することなしに読み切ることができるはずです↓↓
ページ数にしてどれも数ページからなっており,例えば最初の「センター試験がなくなるって本当?」というテーマについては,マンガ4ページ+会話4ページ+補足3ページを通してその回答が語られます。
読者の理解を助ける目的として,上記画像右に見られるような図や表が挿入されることもありました。
私は現時点ですでに読み終えていますが,日数にして2日間,時間は数時間あれば読めてしまう内容ですので,ちょっとした時間を見つけて一気に読んでしまうことも可能です。
ところで,本書のもう1つの特徴として,知りたいことがしっかり書かれていることが挙げられます。
200ページちょっとの本ですが,大学入試改革の基礎知識に関する内容から始まり,受験対策についてまとめた章と,さらには家庭における対策に関する内容の3本立てです。
「共通テスト,アクティブラーニング,作文,英語,塾,国語力,スマホ,ゲーム,テレビ」といったキーワードに対して,もっともらしい回答を得られますし,こういった問題について自分でも考えてみるきっかけにもなります。
内容については次章で詳しくまとめていくことにしましょう!
丸わかりBOOKの内容と読んだ感想
本書のコンセプトは「2020年問題,高大接続システム改革」といった言葉の意味を理解し,親が自分の子どもに対してどのような視点で教育すべきかを示すことで,その構成は3部仕立てです↓↓
- 2020年「大学入試改革」の基礎知識
- これからの受験対策は何をすればいいのか
- 本当に「デキる子」に育てるために家庭でできること
大体各章同じページ量なので,内容はバランスよく3分割されています。
第1章
第1章では,大学入試改革で大きく変わることや求められる資質や能力といったところが述べられています。
ここでの内容を踏まえて,2章以降で対策方法を考えていくことになるので,まず最初に読んでおきたい内容です。
具体的には以下の2点を中心に語られていました↓↓
- 基礎学力テストと共通テストについての説明
- 内容面で詰め込み型学習からの脱却
子どもたちが,2020年以降に求められる思考力・判断力・表現力を高めるためにどうすべきかという問題については,教師だけでなく,親の方でも考えておかなければならないように思います。
そして,このことに対する筆者の答えは「文章力・表現力・読解力を磨くことが大切だ」というものです。
今後は高性能なAIを積んだ機械により,人の仕事が奪われてしまう場面も増えてくるでしょう。
そのような社会に向けて,人間にしかできない(機械が苦手とする)ことができる人材にならなければいけません。
そこで,そういった能力を問うために共通テストや一般選抜が行われるわけですが,学校における教育もアクティブラーニングなどを導入し,そういった能力の育成を目指すことも行われます。
このような話が1章で語られるのですが,用語や内容については変更になったものがあり,注意が必要です。
例えば「高等学校基礎学力テスト(仮)」は「高校生のための学びの基礎診断」となり,進学や就職の学力証明に使われることは見送られましたし,共通テスト(もとは大学入学希望者学力評価テストと呼ばれていた)も記述式は当分の間実施されません↓↓
-
-
高校生のための学びの基礎診断と認定ツールの紹介
2018年度から,文部科学省において「高校生のための学びの基礎診断」がスタートしました。 中を覗いてみると,高校生の基礎学力を測定するための一定の基準をクリアした民間試験がずらりと並んでいます。 教育改革においては「生徒 ...
続きを見る
-
-
大学入学共通テストとは?センター試験と何が違うの
大学入試センター試験に代わる新しいテストですが,2017年にはその正式名称が決定し,以降は「大学入学共通テスト」と呼ばれることとなりました。 その後,数回の試行調査が行われ,難易度調整以外は順調かと思われていましたが,2 ...
続きを見る
第2章
本書の第2章では,知識は丸暗記しただけでは意味がなく,使える形で身に付けることの大切さが強調されます。
最低限の道具をもとに自分でしっかり物を考えていくという姿勢は応用も効きますし,何より忘れにくくなるものです。
大きな内容として,以下の2つが目を引きました↓↓
- 年号とは異なり,漢字の暗記は重要
- 作文対策として良い文章を音読すべき
漢字の覚え方についての記述もありましたが,後者の方法論についても普段から著者がそうやって教えているのでしょう。
良い日本語を音読することについては私も同意見で,私の塾でも小学生を指導する際,日本の名著(例えば宮沢賢治の作品など)を音読させることも多いのですが,本書では古今和歌集をすすめていました。
なお,作文を得意で好きにさせる方法として「子どもに原稿料を払う」という具体策が提示されていることからもわかるように,筆者が書きたいように書いている記述が目立ち始める章でもあります。
もちろん中には合わない考えもあるでしょうが,どれも示唆に富む指摘であることは確かです。
例えば上の原稿料の話を聞いて,私の後輩が「何かで1番になるたびに親から賞金をもらって,東大に入った時には100万円以上貯金できていた」と語っていたのを思い出しました。
学内のテストで1番になるのはおろか,水泳や将棋で県代表になるなど色々とハイスペックなやつでしたね。
そんな彼でも,やはり現金がもらえることは嬉しかったようです。
今の時代は入試改革を見据えた作文の通信教育すらありますから,こういったものを利用して原稿料を支払ってみるのもよいかもしれません↓↓
-
-
ブンブンどりむの評判を分析!カリキュラムから料金まで
今回は「ブンブンどりむ」という通信教育を取り上げ,評判と思われる理由について分析してみました。 誰もが感じているとは思いますが,作文をメインに扱った教材というのは非常に珍しいものです。 私自身,作文を習ったのはいつだった ...
続きを見る
子どもをよく観察し,親なりの教育方針を持つのは今後ますます重要になってくるでしょう。
その他,教育改革における英会話教室や塾の必要性,附属校の存在や本格的に勉強を開始する時期についても言及されていました。
第3章
一流大学に入って一流企業に就職するのがすべてではないのはその通りですが,これからの時代に適した能力を身に付けるため,子どもだけでなく親も努力する必要があります。
真の意味で「勉強ができる」ようになるためには,日本語の高い理解力が必要で,好奇心を持ってアクティブラーニングする習慣を身に付けた子どもを育てるべきだといった内容です。
私はこれを「読む力」と同等だと見なしました↓↓
-
-
頭が良い中高生は「読む力」が高い件について
最近はコンビニやスーパーも無人化に近づきつつあり,ロボットが人間に代わって多くの仕事を請け負う時代の到来をより一層意識するようになりました。 そのような社会において必要とされる人間であるためには,ロボットが苦手とするコミ ...
続きを見る
最近,子育てをしている同僚に習い事が続かないことを相談されましたが,まさに本書で語られていた内容そのままに「嫌なら辞めさせていいんだよ」と回答しました。
私も生徒に「学校の先生と同じことを言わないから好きだ」などと告白されることがありますが,わざと変わったことを言っている自覚はありません。
あくまでその子自身のことを思った意見として言うだけですが,意外な言葉が子どもの救いになることもあるのだなぁと実感しています。
ところで,子どもを正しく導くためには親自身が理想的な教師になることが必要です。
これについては本書で何度も語られていることですが,是非子どもと過ごす時間を増やすようにしてください。
目的によっては,親自身がスマホを使わなかったり,テレビを見なかったりといった意識革命をする必要があるでしょうし,どのような言い方をすべきかについてもアドバイスがありました。
親の教育意識に関しては,以下の記事を参考にしてください↓↓
-
-
親の教育意識や働きかけが子どもの学力に与える影響について
いわゆる名門校に入学した中学生を見ていると,大人の私をはるかに超える能力を持っていることに気づかされます。 過去には芦田愛菜さんが女子学院に受かったことが話題になりましたが(最終的に芸能活動を優先して慶應中等部に入学しま ...
続きを見る
まとめ
以上,2020年大学入試改革丸わかりBOOKのレビューでした。
丸わかりというほどの内容は正直書いていなかったように思いますが,大きな教育方針を考える際の参考となる知識を数多く授けてくれる本だと思います。
アクティブラーニングを学ぶためにフィールドに出ることについては私も大賛成です。
とはいえ,著者の考えをベースに議論していることに注意は必要で,文学を専攻していたからでしょう,「バルザックやマークトウェインを読んだ体験がまったくない人生は豊かな人生とはいえない」などという思い切った物言いも出てきます。
しかし,それも1つの問題提起だと考えれば,この一冊だけでなかなかに楽しめるでしょう。
「小学生のうちから塾に通わせて勉強させることは悪で,遊ばせることが重要」という筆者の主張について私の脳裏に浮かんだのは,麻布中学に入ったK君と東大理3の親を持つ小学生のS君の2人です。
K君は小学4年生から毎日3時間以上勉強していましたが,受験時までにその勉強時間は合計5,000時間に達していました。
この頃の子どもというのは記憶力が抜群なので,特に理社の一般常識を身に付けることは何かを判断する際の引き出しの多さにつながっているように思います。
実際それだけ勉強すると,そこらの高3生より知的レベルは高くなっていました。
逆にS君は「塾で厳しく勉強させてくれ」という親の教育方針からもわかるように,毎日習い事や塾があり,息抜きと言えば移動中の車の中でやるゲームくらいでした。
結局塾で泣いてしまうくらいにまで追い詰められ,結局辞めてしまいましたね。
ここでの結論として言えることは,「極端は良くない」ということでしょうか。
塾に通って読書もしつつ,遊びまでできれば最高です。
もちろん,子どもが好きなことを一生懸命にやっていたら(特に自然相手であったり読書であれば),親はそれを暖かく応援してあげるといった点については異論が入りこむ余地はありません。
ただし,過去のセンター試験で高得点を取れる子どもが発想力に乏しいわけではありませんでしたし,テストの点もある程度取りつつ発想力豊かな子どもに育つことを目指してほしいですね。
子どもが興味や疑問を持ったとき,親がすぐその子をどこか連れて行ってあげられることは大事なことでしょう。
「センス・オブ・ワンダー」という本の中でレイチェル・カーソンは,「台風の日に傘もささずに子どもと出かけてごらんなさい」とアドバイスしています。
田舎住まいだと自然が身近ですので,川を子どもとシュノーケルを使いながら下ったり,山菜取りにすぐ出かける家庭が現実的にあるわけです。
都会だとそうはいきませんよね。
そんな時は本書の最後に紹介されていたキャンプの利用も考えてみたいものです。
本書を通じて「入試改革は大人の意識改革でもある」という気持ちが一段と強くなりました。
今は中古でも買えると思うので,本書に興味を持った方は是非読んでみてください。