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経済産業省が考える,現在の教育の問題点

2018年6月25日に経済産業省がHPで公表した,「未来の教室」とEdTech研究会の第1次提言ですが,現在の日本の教育界が抱える問題点に加え,今後未来の教育がどのように変わっていくかについての意見がまとめられていました。

これから数回にわたってこの内容について取り上げていくことにしますが,初回となる本記事では,日本の教育が現在抱えている問題点について見ていきたいと思います。

課題解決力を構成する3要素

今後の社会では,今まで以上に,課題を解決する力が必要になってきます。

しかもその課題は過去の先例の中にその答えが載っていない,新しい時代に生み出された問題であることがほとんどです。

例えば,「超高齢化社会における各人の働き方」についての議論は最近になって頻繁にニュースで目にするものですが,「人間の寿命が今後世界規模で延びていくとなるとどの国も課題となるであろう高齢化問題に先駆けて直面している」という意味で,日本を「課題先進国」と呼ぶこともあります。

そんな未知の課題に対処しなければならないとき,必要とされる力というのは,決められたことを決められたとおりに行う力よりもむしろ,仮説を立て,実験と考察によって確かめようとする探求心であったり,各人がお互いの自由を承認しあう感性なのでしょう。

こういった解決力については,経済産業省の中でいくつかの要素の関与が示唆されており,具体的には,「50センチ革命・越境・試行錯誤」の3つだと言われます。

それでは,これら3つの要素について,以下の章で詳しく見ていくことにしましょう。

 

「50センチ革命」とは

社会において,目を見張るような現場での改善(あえてカイゼンと提言内では書かれています)や世界を変える発明や革新,さらには気の利いた新しいサービスを提供するためには小さな気づきが必要で,それをきっかけとして最初の一歩を踏み出すことを「50センチ革命」と言います。

この小さな革命を成し遂げるために必要な力には,

  • 自己肯定感
  • 自己効力感
  • 圧倒的な当事者意識
  • 他者への共感力
  • 課題の発見力
  • 思い切りの強さ

が,具体的な例として挙げられています。

このうち,1つ目の「自己肯定感」については成功体験などを例に別の記事でお伝えしましたが,その他の「課題発見力」においては,問題の本質を見極める俯瞰的な視点や構造を理解する力が必要です。

ともすれば,責任転嫁が永遠に続いて責任の当事者が不在になりがちな日本社会において,「圧倒的な当事者意識」は全責任を自分が引き受ける(自分の力で成し遂げる)という意思の表れにもなりますし,そもそも「他者への共感力」なくして人の役に立つサービスは生みだせないでしょう。

何か新しいことをするときは,根拠のない自信による「思い切り」も必要な力の一つだと思います。

「うまくいくかわからないから」という理由で止めてしまうようでは,大きな夢は叶えられそうにありません。

 

「越境」とは

この「越境」については,その文字だけ眺めていても意味が全くわからないと思うので,具体例をまずは挙げてしまいましょう↓↓

  • 自らの思考の中心基盤となる専門性
  • 異分野の視点や知見の理解力(本来の基礎学力と同義とされる)
  • 多様性の受容力
  • タテ割りや対立を溶かす対話力
  • 巻き込む力

以上の力が「越境」を可能にし,これもまた課題を解決するのに必要な力となります。

人がものを考える際には,その人の軸となる専門性(深い知識)が必要になるのは言うまでもありません。

例えば,作曲家になってオーケストラのための曲を書き下ろすような人が,全楽器について精通しているのは稀でしょう。

しかし,大体は何か1つの楽器においてはプロと呼ばれるほどのレベルにまで極めているのが普通であり,その楽器を通した音楽経験をもとに基本作曲していくことになります。

もちろんそれ以外の楽器の音域や奏法についても知らなければ全員のための楽譜は作れませんので,そういったものが上で言う「異分野の視点や知見の理解力」にあたるものでしょう。

「多様性の受容力」は,「前に習え,出る杭は打つ」的な風土においてはかなり実現する見込みが薄いと思いますが,世代間を超えて,上司にも対等に意見できる社風や,失敗を恐れず周りを巻き込めるほどのカリスマ性が,これからの新しい働き方にはますます必要になってくるであろうことは,誰もが薄々気づき始めているような感じを受けます。

 

「試行錯誤」とは

こちらは一転,イメージするのは簡単ですが実は大変に時間を要するものであり,結果よりも過程を評価できるようになって初めて育つ能力だとも言えるでしょう。

  • 遊び心
  • 創造性
  • 正解なき中での思考力
  • 省察
  • 失敗からの回復力

例えば,芸術の育つ国というのは,仕事をせずに遊んでいる国に見えることが多いと言われます(実際は,自分の時間を仕事以上に大切にしているだけかもしれませんが)。

ところで,「遊んでいないで仕事(勉強)しろ」などとすぐに言ってくるような人というのは,その人自身,作曲が出来たり立派な絵や彫刻を造り上げる能力があるでしょうか。

彼らはそれとはほぼ真逆を行く生き方をしています。

また,「創造性」というのも,普段から物思いにふけったり,静かに瞑想して考える時間があってこそ伸びる性質です。

こちらにおいても,たえず何かが誘惑してきたり,多忙で頭の中が埋まっている日常では到底実現できそうにありません。

「正解なき中での思考力」は論理力や分析力を意味するのでしょうが,次の「省察」と合わせて,「論理的にものを考えられる人であれ」という意味です。

「失敗からの回復力」は,捲土重来の精神を持ち,落ち込むときはとことん落ち込んで悔しがってもそこからまた何もなかったように復活できる,某アニメの主人公みたいな人物をイメージすればよいでしょう。

 

現在の日本教育に足りないもの

これまでに,課題解決力に関係する3つの要素についてみてきたわけですが,これらは日本の主流の教育が得意とするところではありませんでした。

本章では,有識者との実際の話し合いにおいて挙がった,現在の日本教育が抱える問題点についていくつか挙げていきたいと思います。

学ぶ意味を知らない

ただ黙って,言われるがまま与えられるがままに受け身的な勉強をしていると,結局は「課題を自ら発見・設定し,それを解決する」ことができない大人になってしまいます。

「どうしてこれを学ぶのか」,その教材をやる意味を知ってこそ,自立した人間の基本動作は育まれるというわけです。

批判的な思考が育たない

クリティカルシンキングについては,私の場合,大学で叩きこまれたように思いますが,プロジェクト型学習(PBL)であっても「先生のシナリオありき」で,結末が透けて見えてしまっていたり,ただ体験し協働して感動するだけが,授業の目的になってしまっていないでしょうか。

単に自分を今の実力以上に高く見せるためだけの演出であったり,派手さの方に重きが置かれてしまっている場合もあります。

このことについては教える側にも弁解の余地があり,実際に先生たち自身が探求の時間やアクティブラーニングを楽しむ機会が少ないというのも問題だと言えるでしょう。

秩序やルールを大人だけで作っている

現在所属している集団に存在する秩序や社会常識に疑問を感じたら,それを積極的に変えにいくための機会となるのが「特別活動」や「総合学習」と呼ばれる授業です。

しかし現状はと言えば,「自分を秩序に合わせる」ための時間になってしまっているのは問題でしょう。

自分の学生生活を振り返っても,先生に意見するようなことはありましたが,「俺が辞書だ」などと一喝されて終わりでした。

偏差値の高い学校だと学校運営を生徒に任せるところが多いですが,程度の差こそあれ,どんな学校であっても,他者への共感の精神を教えるためには,学校という場所が,おかしいところはおかしいと言える空気に,そして生徒と教師が立場を超えてとことん疑問について話し合える場へと変わっていくことを望みます。

基礎を終えるまでは応用問題を扱わない

従来の教育方針においては,「浅く広く基礎を固めてから初めて応用問題を解く」という順番で授業は進みました。

しかし,応用問題を先に提示することで,まずは当事者意識を持たせてしまい,その問題をどう解くか探求する中で必要な知識を学び取らせていく学習スタイルもあって然るべきではではないかというのがここでの提言です。

ロボットのプログラミングをしていた中学生が海外の論文を読みたいとか,物理の計算に必要な三角関数について真っ先に学びたいと思うのは,確かにあっていいことだと思います(もちろん全部をこういうスタイルにしろと言っているわけではありません)。

 

まとめ

以上が,これからの日本社会に求められる課題解決力の育成に必要な要素と,現在の教育現場に存在する問題点です。

2020年の教育改革で,こういった能力の獲得が目標の1つになっているのは明らかですが,学ぶべきとされる内容が減らず,かつ学習効率も従来のままでは,上記に述べたような課題解決力の開発に時間を割くことは到底できないでしょう。

新しい教育方針だからといって,これまでの教育をおざなりにしてしまうのは,これまで日本が積み上げてきた成果を否定してしまうことにもなりますし,最悪,現在よりも状況が悪化しかねません。

そのために,2020年の教育で考えるべきキーワードの1つとして「学びの生産性」というものがあります。

これは,費やした時間に対して得られた能力の価値を意味する指標のことで,簡単に言えば,「費やす時間と見返り能力に関するコスパ」のようなものです。

「学びの生産性を最大限高めることができれば,これまで述べてきたような解決力は獲得できる」というのが,経済産業省の見解となっています。

実際にどのような学びの形があるのかについては以下の記事で紹介しています↓↓

最後までお読みいただき,ありがとうございました。

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スタディサイト管理人

都内の塾運営にかかわってから,講師歴も15年以上になりました。小学生から高校生まで学校の定期テストから大学入試まで幅広く教えています。最近の関心事は「教育改革」で,塾に入ってくる情報に加え,セミナーや書籍,信頼のおける教育機関より得た情報をWebにまとめてみました。ネットを介したやり取りにはなりますが,少しでもみなさまのお役に立てたらと思います。
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