これからの社会に必要な課題解決力と日本の教育の問題点

2018年の6月に経済産業省がHPで公表した「未来の教室」とEdTech研究会の第1次提言ですが,現在の日本が抱える問題点に加え,今後の教育がどのように変わっていくかについての意見がまとめられていました。

これから数回にわたってこの内容を取り上げていくことにしますが,本記事では今後社会で求められる課題解決力と今の日本が抱えている教育の問題点の2つについてみていきたいと思います。

課題解決力について

「解決」の文字

これからの社会では,今まで以上に課題解決力が求められます。

ここで言う「課題」とは,過去に例のないものであり,どんな書物を調べようとも明確な答えが載っていない新たな問題です。

例えば「超高齢化社会における働き方」についての議論を最近頻繁にニュースで目にしますが,人間の寿命が今後世界規模で延びていくとなると,どの国においても避けては通れない問題でしょう。

高齢化の進む日本はその問題にいち早く直面していることもあって,「課題先進国」と呼ばれて注目されているわけです。

もちろん成功するに越したことはありませんが,外国からすれば別に失敗しても反省材料の1つにすればよい程度に思われているかもしれません。

ところで,そんな未知の課題に対処しなければならないときにはどのような力が必要とされるでしょうか。

決められたことを決められたように忠実に行う力ではありません。

それよりも,仮説を立てては実験と考察によってその真偽を確かめようとする探求心であったり,各人がお互いの自由を承認し合える感性だったりするわけです。

こういった課題解決力について,経済産業省がいくつかの要素の関与を示唆しており,具体的には「50センチ革命,越境,試行錯誤」の3つの言葉で表されます。

以下の章から,これら要素について詳しくみていくことにしましょう。

 

50センチ革命とは

社会において目を見張るような改善(提言内では「カイゼン」と書かれています)や世界を変える発明や革新,さらには気の利いた新しいサービスを提供するためには小さな気づきが必要なのですが,それをきっかけに最初の一歩を踏み出すことを「50センチ革命」と言います。

この言わば「小さな革命」を成し遂げるために必要な力として,

  • 自己肯定感
  • 自己効力感
  • 圧倒的な当事者意識
  • 他者への共感
  • 課題の発見力
  • 思い切りの良さ

が,例として挙げられています。

そしてこれら1つ1つを色々な方法で育んでいかなければならないわけですが,例えば自己肯定感については香川県の小学校の例を中心に以下の記事でお伝えしましたし,課題の発見力を高めるには,問題の本質を見極める俯瞰的な視点や構造を理解する力が必要です↓↓

他にも,責任転嫁がお家芸で非難される対象が不在になりがちな日本社会において,圧倒的な当事者意識があれば全責任を自分が引き受けるという意思の表れになりますし,そもそも他者への共感力なくして人の役に立つサービスは生み出せないでしょう。

こういった力が革命を引き起こすことは確かにありそうです。

加えて,何か新しいことを始めるときには,思い切りの良さというのも重要な要因になりえます。

「うまくいくかわからないから」という理由で止めてしまうようでは,大きな夢は叶えられそうにもないからです。

 

越境とは

2つ目は「越境」ですが,こちらは文字だけ眺めていても意味が全くわからないと思うので,具体例をで考えるようにしましょう↓↓

  • 自らの思考の中心となる専門性
  • 異分野の視点や知見の理解力
  • 多様性の受容力
  • タテ割りや対立を溶かす対話力
  • 巻き込む力

どうやら目に見えない精神世界で境界を越えることを意味するようですが,上のような能力が越境を可能とし,総合して課題解決力を構成します。

1つずつもう少し考えてみましょう。

人がものを考える際には,その人の軸となる専門性(深い知識)が必要になるのは確かです。

お医者さんや弁護士,スポーツ選手など,みんな各自の生きる世界のことをよく理解しています。

ここでは作曲家を例にみていきますが,オーケストラのために曲を書き下ろすとして,その人が全部の楽器に精通していることは稀でしょう。

しかし大体は何か1つの楽器は極めているのが普通で,その楽器を通して得た知識や経験をもとに作曲をしていくことになるわけです。

もちろんそれ以外の楽器の特性(音域や奏法)について知らなければ正確な楽譜は作れませんので,そういった知識が上で言う「異分野の視点や知見の理解力」に当たるものでしょう。

勉強の世界だと,基礎学力や教養といったものが同義となります。

3つ目の「多様性の受容力」というのは,「前に習え」であったり「出る杭は打つ」的な標語を掲げる環境では育ちにくい能力です。

ですが,世代間を超えて上司にも対等に意見できる社風であったり,失敗を恐れず周りを巻き込めるほどのカリスマ性が,新しい働き方を考える上でますます重要になってくるであろうことは,誰もが薄々気づき始めていることでしょう。

 

試行錯誤とは

前章の用語に比べてこちらは一転,イメージするのは簡単です。

ですが,育成に大変時間を要するものであり,結果よりも過程を評価できるようになって初めて獲得が可能な能力だとも言えるでしょう↓↓

  • 遊び心
  • 創造性
  • 正解なき中での思考力
  • 省察
  • 失敗からの回復力

遊びや創造という言葉から想起されるものとして「芸術」がありますが,例えばパリにいるフランス人を想像すると,仕事はほどほどで遊ぶことに重きを置いているイメージがあります。

よりマイルドに言えば,仕事以上に自分の時間を大切にしている国民性とでも言いましょうか。

ところがこれが日本だと,「遊んでいないで仕事(勉強)をしろ!」などとすぐに言ってくる人がいます。

しかし,その人が素晴らしい作曲スキルであったり,立派な絵や彫刻を造り上げる能力を持っていた試しがありません

彼らはそれとはほぼ真逆を行く生き方をしています。

面白いことに,これからの時代ではそういうタイプの人間が生き残れないということです。

なお,次の「創造性」とは普段から物思いにふけったり,静かに瞑想して考える時間があってこそ伸びる能力で,こちらにおいても,たえず何かが誘惑してくる刺激の中で生活していたり,頭の中が仕事で埋まっている多忙な日常では到底獲得できそうにはありません。

「正解なき中での思考力」とは論理力や分析力を意味するのでしょうが,4つ目の「省察」と合わせて,「論理的にものを考えられる人であれ!」という意味です。

「失敗からの回復力」は,捲土重来の精神を持ち,落ち込むときはとことん落ち込んで悔しがっても,そこからまた復活できる,某アニメの主人公みたいな人物をイメージすればよいでしょう。

 

日本の教育が抱える問題

これまで,課題解決力に関与する3つの要素についてみてきたわけですが,これらは日本の教育が得意とするところではありません。

本章では,有識者との話し合いにおいて挙がった,現在の日本が抱えている問題点についていくつか挙げていきたいと思います。

学ぶ意味を知らない

ただ黙って言われるがまま,与えられるがままに受け身的な勉強をしていると,結局,課題を自ら発見したり設定しては,それを解決することのできない大人になってしまいます。

どうしてこの教材を学ぶのか。

今の日本には,勉強をする意味を答えられない子どもが多く,自立した人間が持つ基本姿勢が身に付いているとは言えません。

批判的な思考が育たない

批判的思考(クリティカルシンキング)については大学で初めて教わる場合もあるでしょうが,なるべく早い段階で獲得しておくことは重要です。

ですが,それを教えるためにプロジェクト型学習を行ったとしても,先生のシナリオがまずありきで結末が透けて見えていたり,ただ体験し協働して感動するだけが授業の目的になっているようではいけません。

ただし,このことについては教える側にも弁明の余地があり,教員自身が探求の時間やアクティブラーニングを楽しむ時間が取りづらい状況に置かれているという問題もあります。

秩序やルールを大人だけで作っている

所属している集団に存在する秩序や常識に疑問を感じたら,それを積極的に変えにいくための機会となるのが「特別活動」や「総合学習」と呼ばれる授業です。

しかし現状,自分を秩序に合わせるための時間になってしまっているのは問題でしょう。

自分の学生生活を振り返っても,先生に意見するようなことはありましたが「俺が辞書だ!」などと一喝されて終わりでした。

偏差値の高い学校だと学校運営を生徒に任せるところが多いですが,程度の差こそあれ,どんな学校であっても,生徒と教師が立場を超えて議論できる場を設けることは必要です。

他者への共感の精神を教えるためにも,学校という場所が,おかしいところはおかしいと言える空気に変わっていくことを望みます。

基礎を終えるまで応用問題を扱わない

従来の教育方針では,「浅く広く基礎を固めてから初めて応用問題を解く」という順番で授業が進みました。

しかし,応用問題を先に提示することでまずは当事者意識を持たせてしまい,その問題をどう解くか探求していく中で必要な知識を学び取らせていく学習スタイルもあって然るべきではではないかというのが経済産業省の提言です。

ロボットのプログラミングをしていた中学生が最先端の海外の論文を読むだとか,物理の計算に必要な三角関数をまず先に学ぼうとすることがあってもよいと思います(もちろん全部をこういうスタイルにしろと言っているわけではありません)。

 

まとめ

以上が,これからの日本社会に求められる課題解決力の育成に必要な要素と,現在の教育現場に存在する問題点でした。

2020年の教育改革以降,こういった能力の獲得が目標の1つになったのは明らかですが,学ぶべきとされる内容が減らず,かつ学習効率も従来のままでは,上記に述べたような課題解決力の育成に時間を割くことは到底できないでしょう。

新しい教育方針だからといって,これまでの教育をなおざりにしてしまうようでは,日本がこれまで積み上げてきた成果を否定してしまうことにも繋がりかねないですし,最悪,現在よりも状況が悪化してしまうことも考えられるわけです。

そこで,これからの教育で考えるべきキーワードとして「学びの生産性」というものがあります。

これは,費やした時間に対して得られた能力の価値を意味する指標のことで,簡単に言えば「費やす時間と見返り能力に関するコスパ」のようなものです。

そんな学びの生産性を最大限に高めることができれば,これまで述べてきたような解決力は獲得できるというのが経済産業省の見解となっています。

実際にどのような学びの形があるのかについては以下の記事を参照してください↓↓

最後までお読みいただき,ありがとうございました。

-教育改革

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