将棋の藤井聡太さんの活躍ですが,29連勝を達成した後も少しも陰りを見せず,毎局本当に楽しく見ています。
今回はそんな彼の学び舎「名古屋大学教育学部付属中学校・高等学校」も指定校とされている,
スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)
と教育改革の共通点について考えてみたいと思います。
スーパーグローバルハイスクールについて
2017年10月,文部科学省のホームページで,平成27年度に指定されたスーパー・グローバル・ハイスクールの中間評価の報告がされました。
全国56校の指定校の中から,「貴校は優れた取り組み状況にあり,研究開発のねらいの達成が見込まれ,さらなる発展が期待されるSGHである」との最高評価を受けたのは,以下の4校です。
名古屋大学教育学部附属中学・高等学校
京都府立鳥羽高等学校
愛媛大学附属高等学校
関西創価高等学校
このうち,最初の『名古屋大学教育学部附属中学・高校(名古屋大附属・名大附属)』という学校名に,なんとなく聞き覚えがあるのはなぜかと思ったのですが,そうでした。
将棋界の天才,藤井聡太さんが当時通っていた中学がここだったわけです。
名大附属は中高一貫校であり,藤井聡太さんは自動的にこの高校に進みました。
TV番組でこの中学校の様子が映ったときは,しっかりと管理が行き届いている感じを受けたのですが,それはカメラが入ったからでなく,学校全体がそもそもそういう雰囲気だったからなのですね(東京の学芸大附属の生徒を教えていましたが,「附属」校では教育の随所に,最新の理論や研究結果の実践を見て取ることができます)。
ここで,スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)とは何かについて,今一度確認してみたいと思いますが,SGHとは,
『グローバル・リーダーにふさわしい人材の育成に力を入れている高等学校』
を指します。
ここでいう『グローバル・リーダー』とは,『これから全世界をまたにかけて活躍する人物』のことで,国際機関の職員であったり,政治家だったり,はたまた社会起業家であったり研究者などが例として挙げられますが,世界的社会問題への高い関心に加え,広い分野における教養を身に付けている必要があります。
そういった知識・技能に加え,特に今後重視されるのは,論理的な思考力・判断力・表現力といったものです。
こういった力はこれまでの教育ではあまり実践されてこなかったもので,教育改革の目玉とも言えるでしょう。
そして最後に,主体性を持って多様な人々と協働する力が加わって,これらを『グローバル・リーダーに求められる資質や能力』と呼んでいます。
実は,ここで求められる資質や能力というのは,まさにこれから2020年を中心に変わっていく一連の教育改革(入試改革や高大接続改革)で望まれているものとまったく同じです。
ということは,SGHの実際の取り組みをみることで,近い将来の教育改革について,現段階からすべきことが見えてくるわけで,以下で一つ一つ見ていきたいと思います。
知識と技能+α

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従来のセンター試験では,とにかく知識や技術を詰め込み,正しい一つの答えを導き出すことがほとんどでした。
周りで頭が良いと評判の人は,高い記憶力や知識を持つ人であることが多かったように思います。
しかし,コンピューターが人間の脳に代わり,知識はインターネット上に保存しておけばよくなりました。
そうなってくると知識の量や正確さは,誇るほどのものではなくなります。
もちろん思考する上で必要になってくる最低限の知識や技能はあります。
ですが,さらにその先の態度,つまり
十分な知識や技能を基盤として,答えが一つに定まらない問題に,自ら解を見出していく
能力が,今後の時代でより求められるようになってきたというわけです。
とはいえ『最低限』の知識と技能と言っても,かなりの水準を要求されるというのが現実のようです。
アクティブラーニングで予習し討論の準備をする際も,そもそも,議題の言葉について何もこれまでに考えたことがなければ,インターネット上で検索することもできません。
従来の詰込み学習をしなくてよくなったわけではないので,ご注意を。
高校や大学を卒業した社会人が,教養として身に付けておくと特に役立つ科目については以下に記述しています。
参考にしてください↓↓
思考力・判断力・表現力

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十分な知識と技能を生かすためには,論理的思考力・判断力・表現力が必要ですが,これらは探求型の学習活動で養うことができます。
『仮説を立ててそれを検証する。』
これは研究者の特権ではなく,日常生活でもやっている人はやっています。
そして,その対象を国際的な課題にまで広げているのがスーパーグローバルハイスクールでやっていることですが,詳しい内容については後でみることにし,ここでは,記述・論述問題の意義について考えてみることにしましょう。
入試問題で,選択式に比べ,記述・論述問題は敬遠されることが多かったのですが,それは,実際には有意義ということを誰もが知っているのにも関わらず,面倒くさいという理由によるものがほとんどだと思います。
生徒側の視点だと,マーク式は,「ただ知識と照らし合わせればよく,人が書いた答えを〇か×か判断するだけでよい」ため,ここには,自分の頭で考えるという『面倒くささ』が欠如しています。
また,採点する側も,「採点官によって評価がバラバラであったり,採点に時間がかかる」といった問題を,社会に指摘されるのが『面倒くさい』と感じているのではないでしょうか。
大学入学共通テストは。そんな面倒くささからの脱却を目指した試みです。
しかし「痛みなくして得るものがない」ように,面倒くさいことをしなければ,人はどんどん楽な方に楽な方にと流れていきます。
改革された入試に対して,特別な対策を部分的に施すことに留まらず,そもそもの高校や大学の授業の在り方自体を大きく変えていくことこそ,それに関わるあらゆる人の考え方を変えていくことにつながり,真の意味での高大接続改革がなされたと結論付けられるわけです。
多様な人々と主体的に協働できる力

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グローバル・リーダーに必要なスキルの最後は,主体性を持って,多様な人々と協働する力です。
各国の文化やものの考え方に対する理解はもちろん,コミュニケーション能力を磨くため,社会と積極的に関わり,他者に共感する機会を増やすことが大切になります。
もちろん読書でも新たな世界に触れることができますが,その場合,自分の考えを書いて発表したり,ディスカッションすることを忘れないようにしないといけません。
2020年の入試改革でも推薦やAO入試の割合が増えることが明言されています。
つまり,生徒自身によるエッセイや,活動報告書,資格検定,集団討論やプレゼンなどの価値が増し,1点刻みの学力検査ではない,意欲・適正をみるための面接・小論文・調査書による評価(複合かつ多角的な入試)が,今後一般的になってくるわけです。
「あいつは推薦入試で,自分の実力以上の高校や大学に運良く合格できた。」
という妬みの声を聞きませんでしたか。
これこそ,大いなる誤解で,むしろ推薦入試で結果を残せた人ほど,今後の社会で求められる人材だということなのです。
教え子(推薦で名門大学に合格した子)の中には,ミスコンでグランプリを取ったり,海外を飛び回って見識を広めていたり,国内でアイドルをしている子もいますが,その子たちの積極性だったり,コミュニケーション力(発信力?),そしてバイタリティには,会うたびに毎回驚かされます。
話を戻しますと,多様な人々と協働する際に用いるツールはやっぱり英語です。これが日本語だと,残念ながらグローバルではありません。
そして英語の「読む・聞く・書く・話す」の4技能のうち,「読む」ことしかしていないと,後で大きく後悔することになります。
特に,「聞く」と「話す」能力の育成には時間がかかりますから,毎日細々とでも英語の音に慣れて,話す練習をすることを忘れないでください。
現在は英語の全能力を伸ばせるオールインワンのアプリも出てきています↓↓
SGHにおける実際の教育例

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以上の資質・能力を鍛えるために,SGHではどのような試みが行われているのでしょうか。
ここでは,藤井聡太さんの通う名古屋大学教育学部附属中学校・高等学校の授業を例として取り上げてみます。
今回の文科省の中間報告において,この中学・高等学校は,
・北米やアジア圏の生徒と積極的に交流を計画・実施している点
・モンゴルの学校とテレビ会議システムを利用して,教育環境をグローバル化している点
が高く評価されました。
以下は,8月に行われたSGH的試みの一つになりますが,テーマと目的を見ただけでも,通常の高校と授業内容に差があることは明らかです↓↓
そもそも『自由主義経済』・『保護主義経済』についての十分な知識がなければ,何も考えることはできませんから,この後の討論のために,主体的に学ぶことから始まります。
さらにディベート中は,相手の主張に理解を示しつつも,自分の意見を論理的に述べていく必要があります。
もちろんこの際,英語が公用語ですので,言いたいことを英語で,それもわかりやすく相手に伝えなければいけません。
これまでに述べたような資質や能力が多角的かつ複合的に問われていることがわかりますね。
名大附属高は,このような活動を頻繁に行っているわけですから,通う生徒の,『深い理解・判断力・有用な情報の収集力』が特に伸びているという評価や,協働的探究学習を取り入れた授業改善が優れているという評判には納得です。
教育改革に必要な能力まとめ

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思えば藤井聡太さんは,幼稚園ではモンテッソーリ教育を受けていましたし,将棋を始めとする知育玩具も,親や祖父母から積極的に与えられて育てられたように思います。
名大附属高を選んだのも,もしかすると,今後の社会情勢における数手先を読んだ結果なのかもしれません。
私の周りだけかもしれませんが,最近は,「自分の子を,世界に通じる人材に育てたい」と思う大人が増えているように思います。
立命館アジア太平洋大学のような国際色豊かな学校に入学を希望する高校生や,もっと身近なところでは,中学生で英検2級はおろか,準1級を取得する子もかなりの頻度で目にするようになりました。
今回のSGHのような取り組みは,個人で行うのは非常に難しいため,何か外部の機関に頼ることが勧められます。
アクティブラーニングでどんどん学べるスタディサプリを始め,コミュニケーション力を育成するディアロ(Z会)のような塾も増えてきたわけですから,自分の子に何が足りないのかを早急に見極め,補ってやることが,できる親の資質・能力と呼べる時代になってきたのかもしれません。
今後も考え続けていきましょう!最後までお読みいただきありがとうございました。