最近はコンビニやスーパーも無人化に近づきつつあり,ロボットが人間に代わって多くの仕事を請け負う時代の到来をより一層意識するようになりました。
そのような社会において必要とされる人間であるためには,ロボットが苦手とするコミュニケーション能力や理解力を備えている必要があります。
そして,そういった能力の根本にあるのが「読む力」だというのが今回の記事のテーマです。
「読む力」とは
ここでいう「読む力」というのは,国語のテストで問われる読解力のような,難解な問題を解ける能力のことを指すというよりかは「文を読んで,普通にそれを理解する能力」を示すと考えてください。
自分がこの能力について注目するようになったのは,高校時代の恩師と飲んだときにとある有名ジャーナリストが書いた記事を紹介されたことがきっかけです。
この記事は,
ツイッターやブログなどで批判されたときに,まったく自分が意図していないふうに相手に受け取られてしまっていて,とんちんかんな返答が返ってくることが多い
といった嘆きから始まります。
そして,彼女がその理由として考えたのが,「読む力」が不足している人が多いのではないかという疑念だったわけです。
例えば,自分の所属している会社について考えてみてください。
相手と議論になったとき,争点が相手に理解されておらず,不毛な言い争いになってうんざりしたような経験はありませんか。
それはまさに,相手の理解力が不足しているがために,必要な情報を理解できなかったことによるものです。
これが中学生や高校生の場合だと,誰もが理解できるという前提で書かれている教科書の内容が,読んでも理解できないということになります。
以前は私も,「全部教科書に書いてあるんだから,自分一人で勉強できるよね。」といった感じで生徒と接することが多かったのですが,「読む力」の存在を知ってからというもの,まずは生徒の読解力をチェックすることを義務付けるようになりました。
例えば,中学生に以下の問題を解かせてみてください↓↓
この問題の正答率ですが,全国の中学生のうち62%が正解できた問題です。
係り受けを問う問題ですが,正解はキリスト教ですね。
高校生の場合は以下の問題を解いてもらいましょう↓↓
こちらの問題は,高校生の正答率が平均で65%の問題です。
なお,中学生がこの問題を解くと38%しかできなかったということで,しかも中学1年生においては,勘で選んだ場合と正答率が変わらないという悲惨な結果を生んだと言います。
正解は①ですが,どうだったでしょうか。
ところで大学では,何かの資料を読んで理解することや論理的にものを考えられる能力を学生が当然備えていることが前提になっています。
そのため,「読む力」がない生徒が大学に入ってきて授業を真面目に受けたとしても得るものがほとんどありません。
ただ4年間という時間だけが無駄に過ぎてしまうことになっていると,冒頭で語った恩師(現在は大学教員)は嘆いていたわけです。
教員側がこのことを承知の上で,「気の毒だなぁ。」と思いながら授業をしているということですから,双方にメリットがありませんし,もちろんこのような事態が社会のためになるはずもありません。
「大学で学ぶことがなかった。」などと話す社会人は,もしかするとスマホや家電製品のマニュアルすらまともに読むことができないのではないでしょうか。
ロボットが大学受験した結果
最近は将棋の世界はもちろん,囲碁の世界においてもAIに人間が敵わなくなってきています。
そんな中で,最先端技術を駆使したロボットに大学入試問題を解かせてみると,「MARCH」と呼ばれる難関大学には80%の確率(つまりA判定)で合格できるそうです。
ですが,そんなロボットであっても東京大学には決して合格できません。
勘の良い方ならお分かりかもしれませんが,それはロボットに「読む力」が不足しているからなのです。
毎年,東大に何十人も合格者を出す名門中学の生徒というのは,中学に入ったばかりの時点ですでに平均的な高3生よりも高い「読む力」を保有しています。
個別指導の塾で教えていると,中学生と高校生が同じ参考書を使っている風景を見かけることがあるのですが,そういう時,特にこの事実を実感するわけです。
選択式の問題が出ると安堵して,記述式の問題を見た途端にできなくなる中高生は,答えを「なんとなく」選んでいることが多く,深く物を考えられていません。
このような態度でずっと学生時代を過ごしてしまっては,今後の社会で直面するであろう,より難しい問題を自力で解き明かすことなどできないでしょう。
人より余計に苦労してしまうことが容易に想像できてしまいます。
受験勉強を始める前にすべきこと
以上のことを踏まえると,受験勉強を始める子どもに教科書を読ませたり,受験に必要な教材を買い与える前に,まずは「読む力」が備わっているかどうかを確認しなければならないのは当然でしょう。
教育改革においても,教わった内容を生徒が理解できるのが前提で授業は進行していきます。
プログラミングや英語の早期教育を施す以前に,教師が話す内容や教科書に書かれた内容が正しく理解できる子を育てなければ,それこそ先に話した大学生と同じ道を辿ってしまう未来は避けられません。
また,論理力のない生徒たちがどれほどアクティブに議論を重ねたところで,一番最初に挙げた「争点のわからない会社の同僚」しかクラスにいない状態であれば,話し合いの結末は言わずもがなでしょう。
もちろん,テストで問題文を読めなければそもそも何を答えてよいのかすらわからないですし,「読む力」の有る無しは人生を左右するといっても過言ではありません。
さて,実際どのように「読む力」の能力を高められるかについてですが,詳しいところはまだわかっていないというのが真実のようです。
ですが,「自分の子どもが,そもそも問題の意味がわかっていないのではないか?」と疑うことさえできれば,これまでに気づかなかった解決策が見えてくるかもしれません。
きちんと教科書が読める子どもを育てるために周りの親や教師たちは何をしてやれるのか,教える側の意識を変えることも大切なのではないでしょうか。
まとめ
最後に,「読む力」が高いか低いかの明暗を分けるとされる問題を解かせてみてください↓↓
この問題の正答率は中学生で12%,高校生でも28%と極めて低いです。
答えは②ですが,私の塾に通学していて偏差値50以上の学校に在籍し,そしておそらくMARCHには最低でも受かるであろう生徒たちは,中学生であっても完璧に正解することができました。
こういった問題が解けるような読解力がまずはあって,その状態から知識を増やしていくことで初めて頭が良い生徒が生まれます。
そんな「読む力」を備えた子(地頭が良いと同義かもしれません)であれば,たとえ偏差値30台から受験勉強を始めたとしても一流大学に合格できるでしょう。
なお,今回の記事を書く上で「AI VS.教科書が読めない子どもたち」という書籍も参考にさせていただきました↓↓
新井紀子氏は「読解力は何歳になっても向上する」という希望の持てる仮説でもって,章の終わりを綴っています。
他にも筆者の主張に共感するところが多かったので,興味を持たれた方は是非読んでみてはいかがでしょう。
最後まで記事をお読みいただきありがとうございました。