「子どもが一番勉強する場所はどこでしょう?」と尋ねれば,多くの方は「学校」と答えると思いますが,例えば夏休みに尋ねればその答えは「塾」に変わるかもしれませんし,年間通して過ごす時間が一番長いのは,実のところ「家」かもしれません。
特に,勉強する対象を,他者とのコミュニケーションや社会のルール的なものに拡大してみたり,1人で深く集中して学ぶことに限れば,やはり一番の勉強場所は自宅であると言えるのではないでしょうか。
中には授業中にすべてを理解して,休み時間に復習までして一日の勉強を終えてしまう生徒もいますが,私のように学校だと気が散ってしまって勉強に身が入らないようだと,家庭学習こそが頼みの綱です。
そしてそれと同時に考えるべきはやる気に関する問題で,才能があるかないか以上にやる気の有無は重大な問題となってきます。
たとえ勉強があまりできない子であっても必死に頑張っていれば応援したくなりますし,才能があっても努力していなければ叱られることもあるはずです。
2020年の3月以降コロナによって,多くの子どもが自宅で学習せざるを得ない状況に陥りましたが,家で学習するというのはなかなかに難しいものでしょう。
そこで今回は,そんな自宅学習におけるやる気を高めるための秘訣について,いくつか考えてみたいと思います。
ちなみに「自宅学習」という単語を聞いて,学校に通わず,家を拠点に教育を受けるホームスクール(home-school)の方を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。
そこでは親が学校に通わせることを拒否したり,色々な都合で学校に通えない子が家や私的な機関において教育を受けるわけですが,本記事では「自宅学習」を単なる家庭学習の意味で使っていることにご注意ください。
自宅学習を成功させる要因
自宅学習に限りませんが,一般的に何かを学ぶ際に大切とされる要因は「才能,勉強法,やる気」の3つです。
このうち才能は,生まれ持った能力で変えることができないのでここでは考えません。
とはいえ1つだけ付け加えると,子どものうちは才能の差が出にくいとされ,例えば外国語の習得を例に挙げれば,大人の場合は「音の認識,分析(文法),暗記(記憶力)」に対する3つの才能が影響してしまうのに対し,子どもは暗記しか影響しないことを裏付ける研究結果もあります。
「家の子には才能がない。」と諦めてしまうのは,少なくとも高校生になるまでは控えておくのがよいでしょう。
次に勉強法についてですが,これは結果に影響してくる要因ですので,色々な試行錯誤によって自分の子にうまくいく方法の目星を付けておくことが大切です。
人によっては小学生のときに教わった方法を高校生,はたまた社会人になってからも踏襲する場合も少なくありません。
私は今やノートをマインドマップ(マインドツリー)の形でしか取らなくなりましたが,ノート術に加え問題集のやり方(書き込みをしない,その日の最後にやったことを振り返る)など,どういった勉強法を身に付けられるかは,教師となる人の責任が大きいです。
しかしこれについては1つ注意が必要で,他の誰かにとって上手く行った方法が自分の子にも合うとは限りません。
多くの人に合う方法はもちろんあるのでしょうが,ニュースなどで注目を集めた奇抜な方法は,その人にしか当てはまらなかったり,その人だからこそできたもの(すごい才能や環境が整っていたからこそできたもの)である場合がほとんどです。
反省材料の1つにすることはあってもよいですが,自分を卑下するきっかけにはしないでください。
そして最後の「やる気」が今回のテーマです。
ちょっとの期間であれば「よし頑張るぞ!」という気合だけでなんとかなるかもしれませんが,長期間に及ぶとなるとやはりやる気維持のための工夫は必要だと思います。
ただでさえこの時期は,成功体験を積み重ねて自己肯定感を高めるために重要となるわけですから,ずっとやる気が出ない状態で数年間を過ごすのは大変にもったいないことです。
それでは次章から,具体的なやる気の出し方について考えていくことにしましょう!
無理にでもやる気を引き出す方法
そもそも一体どういったときにやる気は出るのでしょうか。
何となく気分で,と言えばそうなのですが,その気分になるのを何もせずにじっと待っているわけではありません。
例えば,全くやる気が出なくて夕飯の準備をしないでいても,時間が経てばお腹も減ってきて,仕方なく買い物に出かけることになるでしょう。
その場合,実は「食欲」が無理矢理やる気を引き出した格好となります。
食べなければ死んでしまうわけで,こういった命に関わる欲求であれば,ちょっと格好が悪い形にはなりますが,やる気を出すことが可能です。
もっとも,勉強に命の話が直接関係してくるとは考えられません。
そこで,ここでは無理にでもやる気を引き出す方法をいくつか紹介します。
危機感を募らせる
勉強でも危機感をあおり,「受からなければものすごい損害を自分が被ってしまう!」という意識を持てるようなら,同じような形で勉強できるようになるでしょう。
例えば,「勉強で良い点を取れないと医者になれない。」ということを悟った生徒は仕方なく勉強するようになるわけで,その子が心の底から医者になりたいと思っていればいるほど,やる気は高まることになります。
逆に,勉強することに意味を見出せなければ子どもは勉強をやりません。
将棋の藤井聡太さんも中学生のとき,「どうして宿題をする必要があるのですか。」などと教師に尋ねたそうですが,その際に納得のいく答えを得られてからはちゃんと宿題をやってくるようになったと言います。
とはいえ,私が今ここでみなさんに「このように子どもに言えばOK」的な回答リストを挙げてみても,その実用性は皆無でしょう。
というのも,子どもは親をよく観察しているので,親本人が思ってもいないようなことを言っても,その嘘はすぐに見透かされてしまうからです。
勉強をする意味について本当に思っていることを伝えるのでなければ,むしろ逆効果になってしまいますのでご注意ください。
ゆえにこの場合,本当に宿題の価値をわかっている教師(または信頼のおける家族)に答えてもらうのが正解でしょう。
罰則を設ける
若干上記の方法と似ていますが,家庭内で罰則を設けることで,勉強のやる気を高めることができます。
私自身,「やる気」と聞くと,なんとなく良いイメージのものをきっかけにして高まるものだと思っていたのですが,塾に来る生徒の様子をみているとどうやらそうでもなさそうなのです。
「現役で入らなかったら学費は自分で稼いでください。」と親に言われ続けた子が難関大に合格するのをみていると,当人は落ちて浪人することを心底恐れていたようで(実際は就職を覚悟して勉強しており),罰則は子どもの心にかなり影響するのだと思うようになりました。
もちろん限度はあります。
虐待レベルになってしまえば明らかにそれは間違いでしょう。
ですが,テストの成績が悪かったときにスマホを金庫に隠すくらいのことは結構している家庭が多いようです。
罰則を設けることの対極に「ご褒美をあげる」というものがありますが,これについては後述します。
勉強以外の選択肢をなくす
これも無理矢理感が満載の方法になりますが,勉強以外の選択肢をなくしてしまうことも有効です。
例えば刑務所に入った中卒の子が「漢字検定の本しか獄内になかったので,それを読んで1級に合格しました。」と話すのはその極端な例でしょう。
自宅でもっと簡単に実践できることとしては,勉強する部屋を変えてしまうことが1つです。
「リビング学習」という言葉があるように,自室のように遊ぶものがあるところに身を置かず,家族の目があるリビングで勉強をすることはやる気を引き出すための有効な方法となります。
もっとも,誰かがリビングで勉強している間は家族もテレビを見たりスマホをいじったりする姿勢をみせないことが大切なので,例えば,一日のどこかのタイミングで家族みんなが各々真面目に勉強する時間を設けてみるのはいかがでしょう。
実際,休日にそういった協力を呼び掛けることでうまくいった家庭がありました。
ちなみに,誰かの目を意識するというのは,場合によっては命を投げ出す理由にもなるほどの行動力にもつながります。
その典型的な例は宗教ですが,海外から来た人の様子から信仰心が強い人ほど「神様がいつでも見ているから悪いことができない。善い行いをしよう。」と考えているのは明らかです。
ここでは無理にでもやる気を引き出す方法について考えてきましたが,こういった方法をできるだけ避けてほしいと言いたいわけでもありません。
例えば,勉強の意味について納得できない子がテストまであと2週間切っている状況となれば,もはやリビング学習を採用してもらう以外にないでしょう。
次章で紹介する方法と比べてどちらが優れているというわけでもないので,必要に応じてできることをするのが一番だと思います。
自然とやる気を出させる方法
今度は自然とやる気を出す方法について考えてみますが,こちらは何となく良いイメージがありますね。
ですが,早速紹介するのは「テストで1番になったら10万円をあげる!」みたいな内容ですので,そこまで善良なものではありません(笑)
報酬を用意する
いわゆる「報酬と罰」と言えばラットを使った実験みたいですが,私の後輩は結果を出すたびに報酬方式で親からお金をもらい続け,大学入学時ですでに100万円以上の預貯金を持っていました。
この方法で彼が手にした称号は,水泳や将棋の県代表,成績学年トップを数回,そして東大合格といった輝かしいものです。
ちなみにここまで能力を高めてしまうとその先の勉強も簡単なことが多く,2週間くらい実験室にこもって公務員試験も軽々突破していましたね(わざわざお金を払って資格学校に1年間通っても落ちてしまう人がいるわけで,なんというかそれまでの生き方は大事だなと思います)。
そして今や彼は地元に就職し親孝行しているわけで「良い子に育ったなぁ。」と周りのみんなが思っているわけです。
ちなみにもっと簡単なところでは「1つの参考書を終えたら見たい映画を鑑賞する」でもいいですし,「1問終えたら飴を1つ食べる」ことでも構いません。
報酬制についてはマイルールさえ作れれば1人でもできるので,大変おすすめの方法です。
もちろん報酬内容と難易度は比例するように工夫してください。
なりたい目標を見つける
自分が将来なりたい像が決まっているなら,身近でその夢を叶えた人を見つけてしまうとやる気をアップさせるのに困りません。
尊敬できる恩師に出会うことで,その人の考え方(多くの確率で喋り方や思想までも)を吸収してしまうのも子ども時代にはよくある話です。
ですがそれ以上におすすめなのは,「この人くらいにならなれそう。」と思える身近な目標を探すことでしょう。
なんだか自分と境遇が似ていて,その人のことをちょっぴり下に見ているところがポイントです。
例えば,自分の志望している学校に入った先輩がいるなら,その人を超えるように努力することで,モチベーションを維持したまま頑張れるはずです。
逆に,あまりに完璧すぎて超えるのが無理そうと思うような人を目標に選んでしまえば,逆に打ちのめされてやる気の低下にもつながりかねません。
仲間と勉強する
「自分1人では勉強できないけれど,仲間がいれば勉強できる」というのは,やる気を高める際に覚えておきたい秘訣です。
こちらは先ほどの「家族や他人の目」に近い部分もありますが,あくまで1人だと勉強のやる気が上がらない人同士が,積極的に相手を求めているところに違いがあると言えるでしょうか。
部活動やコーチをつけたオンライン教育が結果を残せるのはこの影響が大きく,個人では限界があることをも示唆してくれます。
もちろん,1人でできる人はわざわざ群れをなす必要はありませんので,誘いに乗らないことが大切です。
しかし,学校が始まる朝ちょっと前に友達と集まって勉強したり,自分で試験範囲の数学の問題を作って友達に出し合うなどといった工夫をしている子たちを見ると楽しんで勉強しているようですし,これは「社会ストラテジー」という名前で,やる気アップのための由緒正しき方法にもなっています。
まとめ
以上,自宅学習において実践できるやる気アップの方法についてみてきましたがいかがだったでしょうか。
今回紹介した方法のうち,すぐに家でも実践できそうな方法だけを箇条書きにしてみると以下のようになります↓↓
- 勉強をする必然性について話し合ってみる
- 「できなかったら○○」といった罰を設ける
- 自分の部屋以外で勉強させる
- 遊び道具を片付ける
- 頑張ったらご褒美をあげる
- 身近で頑張ったら超えられそうな人を探す
- 友達を自宅に招いて一緒に勉強する
今回紹介した考え方自体は,子どもに限らず大人にも応用可能です。
例えば,カフェや自習室で勉強するのも立派な勉強法ですし,プチ贅沢をするのはご褒美作戦だと言えるでしょう。
上に挙げたものはあくまで一例に過ぎませんが,広くみなさまの役に立つことを願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これ以外に良い案があれば,是非教えてください!