学校の先生が公の場で推奨することは少ないでしょうが,世の中には,王道ではないけれど人によっては大きく能力アップが期待できる密かな勉強法がいくつも存在しています。
簡単なものに語呂合わせがありますが,これについては小学生を中心に学校で習うことがあるかもしれません。
例えば,私は小学4年生の頃,塾の先生に九九の語呂を21×21まで暗記させられたのですが,それ以来,計算の速さはそろばんの有段者にも引けを取らないほどになりました。
当時の先生には今でも感謝していますが,教わったものは「18×18=324(一杯一杯酒に酔う)」といった幼稚な内容であり,おおっぴらに他人に教えるほどのものではないというのが正直な気持ちです。
同じく,一般的には娯楽と見なされるマンガやゲームであっても勉強に役立てることは十分可能であり,なにも勉強用に作られた歴史マンガや漢検のソフトなどに限りません。
例を挙げると,小学生が好きなゲームで遊んでいて,振り仮名のないセリフを読みだけでなく意味も含めて正確に解読していく作業を厭わずに続けていけば,中学生が驚く語彙力くらいは身に付けられるでしょう。
最近でこそ,教育用の桃太郎電鉄が教育現場で使われるようになりましたが,これと似たことを,あくまで自分が好きだと思うものを教材のように使って,創造的な方法で学んで来た人は探せば結構いるわけです。
今は昔よりもインターネットを通して情報が入手しやすくなっていますし,便利なツールも開発されているので,創意工夫でより優れた学習方法を考え付くことができるでしょう。
とはいえ,実情は玉石混合であって,しかも役に立たない情報の方が多いことを忘れてはいけません。
なので,いつも懐疑的な態度で対応するべきですが,以下では英語のリスニングとスピーキング能力を鍛えるための「YouTubeを用いた英語勉強法」について紹介してみようと思います。
無論,当記事の内容を基に,自分ならではの勉強法を編み出していただけたらというのが私の願いです。
YouTubeを用いて英語を勉強する目的
英語4技能の中で,YouTubeを使って伸ばしやすいのはリスニング力とスピーキング力になります。
もっとも,このとき同時に語彙力も伸びるので,残りの2技能にも多少なりとも良い影響を及ぼすでしょう。

なお,このときの教材となるYouTube動画は,自分が好きなもの,楽しめるものであることが絶対条件です。
動画配信者に対して好意を持っているとか,または扱われている内容が自分の興味を引くものであれば,学びたい気持ちを高いレベルで持ち続けることができます。
タイトルに「英語リスニング用教材」と書かれていなくても,予備校の講義のような形態を取っていなくても全く構わないわけです。
その理由は「勉強をしてる感」を極力抱かずにいたいからなのですが,もちろん,好きな配信者が英語のスピーキング教材を作っている場合などはその限りではありません。
ところで,数十年前の日の私は「オタク」と呼ばれる人間に良い印象を持っていませんでしたが,東大の合格発表日に「ラブひな」というマンガ(主人公らが東大に入る話)のキーホルダーをリュックに沢山ぶら下げたオタクが真横で大喜びしていたのを目撃して以来,その評価は覆っています。
それどころか,オタクこそが至高の存在だと思っていますし,自分もそう呼ばれることを夢見て,自分の興味ある領域はとことん極めてみたいと考えているわけです。
YouTube動画を使った詳しい勉強法については次章で詳しく説明しますが,従来通りの方法では決して辿り着けない高みに到達するためにも,自分が憧れを抱くことができる英語を話す配信者の動画を選ぶようにしてください。
YouTubeで英語を学ぶメリットの1つは究極的に自由であることで,多くの英語勉強法が持つデメリットを持ち合わせていません。
なので,視聴していてつまらないと感じたり,辛かったりした際はすぐにでも視聴を止めて,見る配信者または学び方自体を変えるようにしましょう。
動画を観ていて
英語を自由に聞き取ったり話せたりするようになりたいな
と自然と思えることが重要です。
ところで,本章の最初に示した動画は,とある英語ネイティブの配信者が日本語を学ぶときの様子を表していますが,辛い勉強を強いられているようには感じられませんし,外国語を学ぶ尊さ的なものを感じ取ることができるかもしれません。
英語のネイティブが日本語を学んでいるので,当記事の内容とは逆方向を行っていますが,対象がどの言語であろうと究極的には「好きこそものの上手なれ」という格言に行き着くことを思い知らされた良い動画でした。
YouTubeで英語を学ぶ際のポイント
ここではYouTubeで英語を学ぶときのポイントについて解説しますが,主に以下の3つです↓
- 興味のある英語動画を探す
- 背景知識を増やした状態で観る
- 学びを形にして残す
興味のある動画を探す
1つ目のポイントですが,これはすでに先述した通り,教材に使ってみたいと思うYouTube動画を探すようにしましょう。
英語のネイティブが話していて興味を引くものであれば十分ですが,その他,以下の点についても考慮してみてください↓
- 配信者に魅力があるか
- セリフの量が十分
- 字幕がONにできるか
動画を決めるにあたっては,当然ながら一度試しに観てみます。
検索して上の方に出てくる動画のチャンネルであれば,動画数が数えられるほどしかないということはまずありませんので,1人気に入った配信者を見つけてしまうと,その後,長期間にわたって素材選びに困らなくなるはずです。
昔から,

と言われていましたが,疑似行為は現代のYouTube配信者に対しても実行可能で,好感・憧れ・尊敬といった気持ちを持つことができれば大いに学習効果を高めてくれます。
ボイスチェンジャーで性別や年齢を偽っていようが大した問題ではなく,自分の都合が良いように受け止められる,いわゆる妄想力が成功の鍵です。

次にセリフ量ですが,基本的には長い動画をおすすめするものの,その反面,長尺の動画に配信者が丁寧な字幕を付けるのはより困難になってしまいます。
となると,代わりに自動生成された字幕を使うことが多くなるわけですが,幸いなことに英語の自動翻訳の精度は日本語などと比べるとずっとマシなので,そこは国際語である英語に感謝ですね。
とはいえ,短いものを深く狭く学ぶか,長いもので浅く広く学ぶかは各自の判断に委ねます。
個人的な意見ですが,リーディングやライティングと異なり,スピーキングやリスニングでは言いたいことが伝わりさえすれば良いと思っているので,一字一句正確な字幕のある動画よりも,英語圏の人が日常的に使用する英語を大量に聞ける動画の方をおすすめします。

日本語で背景知識を増やした状態で観る
観たい動画が決まったら,次はその動画と似た内容で「日本語で」語られるもの(上で選んだ動画とは別の配信者によるもの)も用意してください。
日本語の別動画を通して背景知識を増やしておくことで,英語でYouTubeを観た際にも
このような内容のことを言っているはず
と想像しやすくなります。
想像する訓練と言いますか,わからない単語が出てきて後で調べるときにおいても,まずは「このような意味だろう」と推測してから正解を確認する方が英語力はアップしやすいものです。

先ほど自動生成される字幕の話をしましたが,英語であっても正確でない訳が表示されてしまうことは普通にありますし,できるだけ字幕を頼りにせずに観る方が良いはずです。
似た内容の日本語動画がYouTube上に見当たらないというのであれば,内容的に関連した本を読んでみたり,インターネットで関連資料を探したりするでも構いません。
例えば,ロンドンの都市について現地の人が案内する動画を観るのであれば,日本語の観光ガイドを予め読んでおきます。
なお,本章の最初に示したようなDisney系の動画を使うのであれば,すでに背景知識はあるでしょうからわざわざ動画を探す必要はないでしょう。

この他,体験型のもの(例えばプラモデル紹介やゲーム動画)であれば,自分で遊んでみるのも良いでしょう。
学んだものを形にして残す
新年になると,決まってとある洋画を字幕なしで観ることにしている私ですが,毎年の感想メモ(英語の聞き取り具合を記録している)を見比べることで,年々できるようになっていく様子がすぐに確認できます。
また,英語のスピーキング勉強をするにあたっては,一番最初に解いたときの拙い解答例を録音して残しておき,試験の前日に聞き直してみて「よくもまあ,こんなにひどい状態からここまで成長できたな」などと,自分を鼓舞するために一役買わせているわけです。

人によっては勉強的な要素を感じてしまうかもしれませんが,後で自分が英語を話すときに「メモしておけばよかったな」などと後悔することが多いので,簡単なところだとメモ帳やLINE英語翻訳などを使って,いくつかの表現を残しておきましょう↓
次章では実際の動画を使って,具体的なやり方を解説しますが,あくまでそれは一例にすぎません。
基本的には,本章で触れたポイントさえ押さえていればどのような動画や方法で行っても構わないということを忘れないようにしてください。
YouTubeのライブを用いた実践例
それでは「Shadows of Rose」というYouTubeライブを用いた実践例で確認してみましょう!
これはカプコン社から2022年10月に出たバイオハザードヴィレッジの追加DLC(ダウンロードコンテンツ)になります(基になったBIOHAZARD VILLAGEは2021年10月の販売です)。
なお,今回は
- 日本語の動画を観る
- 英語の動画を観る
- 覚えたい表現を書き出す
といった手順で行いますが,絶対にこれに従わないといけないわけではありません。
1と2が前後したり,2の最中に3を併せて行ったりすることもあるでしょう。
1の代わりに実際にプレイしてみるのも良いですし,すでにプレイ済みの方であれば1は省略可能です。
少なくとも,初回に観る動画はネタバレになってしまうことがほとんどなわけですから,ならば本命である英語動画をまずは観たいと考える方も多いと思います。
そんな時には,まずは英語の動画を観てから,上の3つの手順を実行するのが良いでしょう。
英語配信者のライブの1回目と2回目とで,聞き取れる英語量に変化が生じたことを実感できるかもしれません。
日本語の動画を観る
背景知識を増やすために,まずは,Shadows of Roseの日本語実況プレイ動画を観てみましょう!
今回は「うちだのおうち」チャンネルのものを利用しますが,こちらはアナウンサーの内田敦子さんが配信を行っており,音声が大変聴き取りやすいのが魅力です。
人の印象は見た目がほぼすべてなどと言われますが,私は声の良さも重要だと思っています(ただし,実生活で他人にそのようなことを言うと引かれてしまうのでご注意ください)。
背景知識を得る目的で本動画を視聴する場合,ストーリーをしっかりと味わいながら,オリジナル版とDLC版の繋がりにも言及してもらえるところが非常にわかりやすく,かつゲーム内に登場する文書はもれなく丁寧に読み上げられ,さらには彼女自身の理解を声に出してくれる点が役立ちます。
この動画を観ることなしに英語動画だけを観てしまえば,本作の世界観を把握するのは大変だったでしょう。
ちなみに上の動画は2本立てなのですが,特に後編は圧巻の内容で,大変鋭い論理で考察を行っては視聴者を驚かせる一方,主人公に感情移入して涙するなど,彼女の持つ聡明さに加えて,好きという気持ちを大切にしながら実況を行う姿勢が視聴者の心を打つ,大変素晴らしい動画でした。
英語の動画を観る
続いて,英語版のShadows of Roseを観てみましょう!
今回は「がうる・ぐら」と呼ばれる配信者の「Gawr Gura Ch. hololive-EN」というチャンネルを選びましたが,当記事の冒頭部分で紹介した動画も彼女のものでした。
「ホロライブプロダクション」という日本のVTuber事務所の傘下にあたる海外グループに所属するストリーマーですが,2020年9月にデビューしてから2023年1月までの間に426万人ものチャンネル登録者を獲得することに成功しています。

英語特有の心地良いリズムに乗りながら(例:Eeny, meeny, miny, the big gray doors♪),声色の変化や歌,さらにはカメラワークから自分のアバターを利用した配信芸まで,視聴者を楽しませるための工夫が動画の至る所に詰まっています。
彼女の持つ陽気さは,私が思うアメリカ人のユーモラスな感じそのものであり,上の動画からも英語という言語が持つ魅力を十分に感じ取ることができるはずです。
YouTubeライブの性質を良く理解しているからか,サバサバとした性格だからなのかはわかりませんが,あくびすら自身の魅力に変え,ネイティブらしい速さで文書を読み上げては,時にはゲーム内の暗号を視聴者に教えてもらいつつ,テンポ良くゲームを進行させています(例えば1:58:00~2:00:30を観てみてください)。
ゲームの操作自体も大変上手です。
特筆すべき点として,彼女が英語ネイティブながらも日本語に明るいことが挙げられ,日本人が好感を抱きやすい外国人の配信者たらしめています。
日本語での絡みが多少なりとも期待できる英語動画を配信することが多いので,より気楽に視聴できるところが語学向きのチャンネルだと思いました。
覚えたい表現を書き出そう
動画をただ観ただけで終わらせないことこそ,この種の学習を長い目で見たときに成功に至るためのコツでしょう。
是非とも,気になった表現や単語を書き残しては,自分で実況の真似事をしてみたり,今後似たようなゲームを自分でプレイする際に使ってみてください。
俗語や話し言葉なども含めていますが,前章の動画から学びとなった単語をピックアップしてみると60語以上になりました↓
今回の動画から学べた単語例
coffin, weird, blob, smudge, poke, forehead, eyeball, mortal, unto, evoke, yield, duplicate, flaw, vessel, warrant, graciously, dispossess, intruder, realm, husk, disgusting, freaky, glowing, werewolf, mold, sideboard, sappy, stumble, creepy, charcuterie, crucify, harsh, messed up, bully, tummy, shears, mannequin, hanky, fetus, caveman, leap of faith, inventory, dude, tetanus, immersion, respawn, compensator, condescending, peekaboo, lumpy, gross, spawn, crouch, carcass, icky, figment, darn, peculiar, abide
前章の動画は,ゲームの性質上,話し言葉が中心となり,文の形にしてしまうと文法的におかしいものも多く存在したので暗唱用に書き出すことはしませんでしたが,例えば,以下のような表現を耳にしています↓
We should craft something. Oh, this is where we fought the vampire lady!(ドミトレスク城のとある部屋にて)
I looked at chats at the perfect time, sorry ma'am!(ベネヴィエント邸でとある敵と遭遇して)
ゲームとは関係のないところでも,視聴者のコメントやスーパーチャットへの返答内容から,これまた多くの表現を学ぶことが可能でした。
その場合,アメリカ英語のスラングについての知識を付けておくと理解を助けてくれるでしょう↓
まとめ
以上,YouTubeを用いて英語の勉強をする方法について,その目的から方法論までをまとめてきましたが,いかがでしたでしょうか。
今回,実践例としてゲームの実況動画を選びましたが,これはどちらかと言えばやや攻めた内容となり,よりストレートにQ&A形式や購入品紹介の形で英語を話し続けてくれる上のような動画も沢山あります。
そのようなライブ動画を利用する場合,自分でコメントを書き込んでみるのも良い方法でしょう。
YouTube動画を利用した勉強法には実に多くのものが考えられます。
日本人の動画であっても,以下のように英語に長けた指導者の手にかかれば,ユニークな視点で楽しい授業が展開されるわけです↓
こういった動画は何度も繰り返してみることがないでしょうから,ためになると感じた際は積極的に書き残しておきましょう!
いずれにせよ,これまでに紹介したような動画を観たことがきっかけとなり,自分でも英語を聞いたり話せたりするようになりたいと願う日本人は少なくありません。
これはとても大きなチャンスだと個人的には思っていて,誰かにやらされているわけでなく,純粋な好奇心から英語を学びたいと思ったのであればその気持ちは本物です。
是非,そのチャンスを見逃さず,良い英語習慣を身に付けていただけたらと思います。
ちなみに私自身,TOEICで表彰されるくらいには英語4技能の実力が身に付いたものの,今回紹介した動画において聴き取れなかった英語はたくさんあり,字幕を利用しても意味が把握できない表現も結構ありました。
それくらい,英語のYouTube動画を理解するのは難しいことなのですが,普段学校で習わないような刺激的な英語だからこそ楽しくて惹かれるようにも感じられます。
「Why do they suck in their souls?」などという英文に出会うことは,今回の動画を観ない限りは決してなかったでしょう。
ですが,こうした英文ですらYouTubeライブの中では自然に発せられ,多くの海外勢はそれを当然のように理解しているわけです。
もちろん,上のような英語の多くは日本の試験問題に出てきませんが,こうした英語の学びが無駄になってしまうとも思えず,いわゆる「普通の」受験勉強をしているだけだとどうしても軽んじてしまうところにこそ英語上達のコツが転がっているような気がしてなりません。
職業柄,「こういったYouTube動画を理解できるようになりたいのですが」と相談されることも多いですが,「中学英語が英会話の基本だから,教科書や参考書を使ってしっかり学びなさい」などと返答する指導者にだけはなりたくないと思っています。
実際の英語のやり取りで簡単な英単語ばかりが使われることは稀ですし,折角やる気を出している生徒に向かって中学のときの教科書を音読させたり文法をしっかり学ばせたりすると,すぐにやる気を失ってしまうでしょう。
彼らに必要なものは,揺らぎない英語の基礎力ではなく,英語に対する情熱や狂気じみた愛,そして自分の質問に答えてくれるだけの英語力を備えた人の存在となります。
是非,今回紹介した3つのポイントを念頭に入れて,YouTubeの英語動画を思い思いの方法で楽しんでいただけたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。