運動会や大事な試験の前日など,私自身,緊張で眠れない夜をこれまでに何度か経験してきましたが,それでも「とりあえず目を瞑って横になっていなさい。それだけでも身体の疲れは回復するから」という家族の教えだけは忘れずに守ってきました。
確かに,この方法でも意識を失う時間帯は時折生まれる(睡眠は失神と同義だとされる)ので,身体の方はもちろん,精神面においても多少の回復ができるように感じています。
とはいえ,ちゃんと寝られるに越したことはありませんし,学校に通って知的活動を行うことが日課とされている小中高生であればなおさら,量的にも質的にも十分な睡眠を取りたいものです。
「早寝早起きをする」という当たり前の行動がその答えであることは明らかですが,ここではもう少し詳しく「正しい睡眠にまつわるコツ」について考えてみることにしましょう!
小中高生に必要な睡眠時間とは
睡眠は頭がしっかり働くために重要で,眠気があると注意力や判断力は低下し,慢性化すると肥満や高血圧などの病的リスクが高まる他,精神状態も不安定になってしまいます。
勉強面においては,寝ている間に記憶の定着が行われることもあって学業成績の低下に繋がることは避けられません。
勉強には体力も必要ですから,成長盛りの小中高生であるだけに睡眠時間の確保は重視したいものです。
ところで,平均的な睡眠時間とはどのくらいなのでしょうか。
現状を把握するには統計が利用でき,OECDによる公表値によると日本人は「7時間28分」でした。
ちなみに世界平均は8時間を超えているので,日本人の睡眠時間は短い方に分類されるようです。
なお,2023年に日本人が調査した結果によれば,日本人の睡眠時間の平均は「6時間43分」と見積もられてもいました(参考)。
この45分の差が大きいかどうかの判断はできませんが,調査方法によってこれくらいの差は出るということなのでしょう。
ところで,これらの調査は小中高生に限ったものではありません。
例えば,最初の国別調査は15~64歳が対象となっていて,中学生以下は含まれていませんでした。
なので,小中高生に注目するのであれば,国が2024年2月に発表した「健康づくりのための睡眠ガイド」にまとめられていた睡眠時間を目標にするのが良いでしょう↓
- 小学生=9~12時間
- 中高生=8~10時間
基本的にこのくらいの年代の子どもは,許されるのであれば何時間も寝続けられるわけですから,「小学生は最低9時間,中高生は最低8時間」と覚えておくのが良いと思います。
ところで,前回の発表は2014年でしたが,そのときとの違いは「成人・こども・高齢者」という年代別にまとめられた点です。
参考までに,このガイドによると成人は6時間以上が目標となっている他,高齢者の場合だと横になりすぎても問題が起こるため,8時間以上は寝続けないようにと述べられていたりもします。
当記事を読まれているのが保護者である場合,必要な睡眠時間は以下の式を参考にしてください↓
25歳以降の睡眠時間
7時間-(年齢-25)×1.5分
この計算式に基づけば,例えば45歳の人は45-25=20に1.5分をかけた30分を7時間から減じた「6.5時間」というのが必要な睡眠時間となります。
小中高生の実状はというと,小4~高3生を対象としたデータが発表されており,学年を経るごとに見事に減少傾向にあるものの,平日においては「6.6~8.5時間」とされていました(参考)。
なので,2人に1人以上は睡眠時間が足りていないことになります。
高齢者だと必要な睡眠時間以上,横になっていることが多かったり,加齢により自然と早寝早起きの朝型になったりするようですが,小中高生であれば長時間寝ていて身体を壊すことはないので,寝過ぎは問題にならないでしょう。
とはいえ,個人差(体質や持病)だったり後述する睡眠の質だったりも考慮に入れなければならないため,実際は授業中のパフォーマンスをみながら調整してください。
すべてを直感に任せて「よく寝たな」と思えたかどうかで判断しても構いません。
とはいえ,睡眠をどんなに十分取っていても昼食後に眠くなることは普通にあります。
これは最近解いた入試問題の英文に書かれていたことですが,狩りをした動物が食事後に休息を取る本能にその根拠を求めることもできるでしょう。
なので,そのときの眠気を睡眠不足によるものと勘違いしないようにしてください。
小中高生の睡眠時間について
- 8~9時間以上を目安にする
- 6時間未満は少ない
- 個人差があることを忘れない
小中高生の早寝早起きと工夫できること
良質な睡眠を取るために必要なこととして,「早く寝るのが先か,それとも早起きが先か」という議論があり,「ニワトリが先かタマゴが先か」的な難問のようにも思えますが,眠くならなければ夜眠れませんから,当サイトの方針は早く起きることを優先して習慣化につなげることとします。
その際,人間が本来持つ「起きてから眠るまでの周期(体内リズム)が25時間である」ことに注目しましょう。
1日は24時間ですから,体内リズムがこれより1時間長くなってしまっているところが厄介です。
つまり,何もしないでいる限り,起きる時間は1時間ずつ後にズレてきてしまうのが自然の摂理ということになります。
加えて,睡眠導入に関わるメラトニンの分泌開始時刻が遅れて,夜に眠たくなりにくくなるのが小中高生の特徴です。
ですが,人の身体には面白い機能が備わっていて,朝に日の光を浴びることでその刺激がスイッチとなり脳を覚醒させて(起こして)くれます。
小中高生であれば,登校することで勝手に目が覚めることになり,これは曇りや雨の日であっても変わりません。
なお,朝に多くの光を浴びるほど,夜の室内灯などのLED(本体はブルーライト)の睡眠への悪影響が緩和されるとも言われています。
逆に,早起きができないと夜に寝付けなくなって睡眠の質が下がってしまうわけで,勉強していて眠たくなってしまえばもう何をしても頭に内容が入ってこないことは誰もが経験していることと思います。
私自身,塾で生徒が眠たそうにしているときは,ノートを必死で取ってもらって手を動かしてもらったり,一緒に立ちあがった状態で授業を進めたり生徒に授業を代わってもらったりと工夫していますが,それでも効果が出ない際は昼寝をさせることにしています。
ところで,いち早く昼休みに眠ることを導入した学校として明善高校が有名ですが,実践例を通して小中高生の昼寝に関するヒントを得ることが可能です。
まず昼寝をする時間ですが,これは「10分間」とし,できれば15時までに済ませるのが良いとも言われていました。
私も試してみましたが,昼寝時間が20分間を超えてしまうと脳は深い睡眠に入ってしまい,目覚めた際に頭の中がぼんやりとしてしまいがちです。
もっとも,眠い状態で昼寝しているので20分以内の睡眠程度ではまだまだ眠いのですが,しかしそこで2度寝を許してしまえば最悪ですので,ここでひとまず断ち切ります(自宅では,布団に入らず第三者にしっかり起こしてもらえるように頼んでおくのが理想的です)。
なお,昼寝の回数は複数回取っても構わないとされていますが,夕方以降の昼寝は夜に眠るのを妨げてしまうのでできるだけ避けましょう(とはいえ,先ほどの塾でのケースのようにやむを得ない状態も存在するのは確かです)。
ところで,昼寝時のBGMにモーツァルトを流す小学校もあると聞きます。
銀行でも業務中にクラシック音楽がかかっているところもありますが,目を閉じて安静にしていると脳に対する刺激が遮断されるとも聞くので,昼寝の時間に音楽の力を借りるかどうかは各自で判断してください(一般的に「モーツァルト効果」と言われます)。
小中高生の睡眠のコツ
- 日の光を利用して早起きする
- 眠い時は10分程度昼寝する
体内リズムと光の関係
現代は周りにICT機器が溢れています。
もちろんそのおかげで便利に生活できているのですが,パソコンやスマホでブルーライトを浴びてしまう機会は確実に増えていますし,それ以外のTVやコンビニ店の光であっても体内リズムを崩すのに十分です。
先の国のガイドを参照するに,2時間以上デジタルデバイスをみる時間が続かないように心掛けてください。
スマホで勉強する場合もこの時間に含まれます。
なお,室内の灯りを消して真っ暗にした状態でスマホをいじってしまうのは最悪だとされています。
暗闇にしたことで瞳孔が開いた状態(暗順応した状態)になるわけですが,こうして目に光が入りやすい状態になっていると,ディスプレイからの光がより強烈なものへと変わってしまうわけです。
そういえば,スマホには明るさ調節モードがあり,暗闇だとほぼゼロの明るさになりますし,中には寝る時間に合わせて自動で光を弱めてくれるものもあります(近距離になるほど光量は増加するので特にスマホは注意が必要です)。
これも,上のような事態に陥らないための施策だと言えるでしょう。
着信音がなって起こされてしまうのも嫌でしょうから,スマホは寝室に持ち込まないのがポイントです。
もちろん,ゲームや動画でストレス発散をするのも重要ですが,ならば,それらを夜にするのではなく朝にしてみるのはどうかという話になります。
とはいえ,小中高生は普段学校に通っているので,生活リズムが崩れたとしてもそれは週末だけであったり,長期休暇の期間中だけで済むのがまだしもの救いかもしれません(広島大の調査によれば,平日と休日の睡眠時間の差が大きくなるほど不健康になるとされているので注意が必要です)。
この先,大学生になって1人暮らしを始めてしまえば,誰かに強制されることがますます少なくなるわけで,寝たり起きたりは各自の自主性に任されることが多くなりがちです。
いったん崩れてしまうと簡単には元には戻りませんから,そうなれば朝寝坊はもちろん,欠席や遅刻が増えてきてしまうのも当然だと思うのですがいかがでしょうか。
知り合いの大学生たちをみていると,「身体本来のリズムに従って気ままに生きてしまうと,こうも社会に対応できなくなるのか」としみじみ実感します。
睡眠と光
- 起床や就寝時間を早くするのは難しい
- 朝に光を浴びるのが重要
- 夜に強い光を浴びない
- 動画やゲームは夜ではなく朝に楽しむ
睡眠導入を助ける光以外の要因
ここまで光を中心に見てきましたが,夜に部屋をやや暗めに工夫するのも同じ理由からです。
また,それ以外にも睡眠に影響を与える要因はたくさんあります。
例えば,周りの温度や音,飲食物や運動のような生活習慣がそれです。
ここでは,睡眠の導入を助けてくれる行動をいくつか紹介しましょう!
まず1つ目ですが,運動を1時間以上行うことです。
つい最近も,「寝る前にルームランナーなどで走って疲れるとすぐに寝られる」と言っていたイラストレーターさんがいましたが,寝る2時間前までの運動であっても有効だとされています。
ただし,寝る1時間以内の激しい運動は控えるべきだとされていることは覚えておきましょう。
もっとも,小中高生の多くは運動は足りていると思います。
次に,日光を浴びるのと同じくらい重要なのが朝食を食べることだとされていて,確かに先の大学生たちの朝食も不規則でした。
朝食を取らないために睡眠や覚醒時間が遅くなり,朝早く起きられないために欠食が増えると,さらなる悪循環に陥ってしまいます。
逆に夜食は控えるようにしなければなりませんが,受験勉強に励む中高生に家族が親切心から夜食を作ることもあるかと思うので,それが睡眠を妨げる結果になっていないか気を付けるようにしてください(夜食を食べて満腹になって眠くなりやすくなることもあります)。
もっとこだわると,夕食を2回に分けることもあるくらいです。
同時に,カフェインの摂取が1日に400mgを超えることの無いようにしてください。
とはいえ,これはコーヒー700mlに相当するので,エナジードリンクなどを飲むのでなければ小中高生がそこまで心配するものではありません(お茶だと2L)。
それよりも,夕方以降に取らないのがポイントで,18歳~65歳の実験結果にはなりますが,100mgのカフェインであっても悪影響を及ぼすそうです(詳しくは先の国の睡眠ガイドを参照のこと)。
この他,就寝前に入浴することで睡眠状態に入りやすくなると言われていて,お薦めの時間は寝る1~2時間前とされています。
季節が冬の場合は,寝る前の部屋温度が高い方が良いと言われてもいるので温かくして眠る他,逆に夏は涼しくしましょう。
逆にどうしても眠れない場合は,暗めの空間に移動し,音楽やアロマ,瞑想などのリラックス方法を試して,眠たくなってから寝室に戻ることも考えるようにしてください。
なお,睡眠時間をこれと決めた際は,その30分前には予定が終わるように計画することも重要です。
例えば,夜の23時に眠ろうと思えば,22時30分にはすべての予定が終わるように計画しなければなりません。
なんやかんやで,すぐには布団に入れないのが現状です。
楽に睡眠に入るためのコツ
- 1日1時間運動する
- 朝食を規則正しく取る
- 夜食やカフェインは避ける
- 入浴時間や室温,リラックスも重要
- 予定は少し早めに終わるように計画する
小中高生の長期休暇の過ごし方
以上のことを踏まえると,夏休みを筆頭とする長期休暇というのは,小中高生が夜更かしをして朝寝坊してしまうには格好の時期です。
一生続くわけでないにしろ,休みは長期間に及ぶわけですし,特に夏は季節的に朝早くから明るくなる上,部屋に遮光カーテンや雨戸がなければ,本来寝ていなければいけない時間に目を覚ましてしまうこともあるでしょう。
逆に朝にカーテンを閉め切った部屋にいると日光を浴びれないので良くありません。
ところで,塾の夏期講習期間中,学校があるときに比べてやたらと元気な生徒が目につきます。
「久しぶりの長期休暇を楽しんでいるからかな」などと最初はのんきに構えていましたが,実のところ,彼らは朝の強烈な光で無理矢理覚醒させられた状態であり,その無理がたたって,秋から冬にかけて一気に疲れやすくなってしまうことがわかってきました。
学校によっては,「夏休みの諸注意」などのプリントを配るところもありますが,以下のようなルールを決めている学校の生徒は,比較的うまく過ごせているように思います↓
長期休暇のコツ
- 朝寝坊や夜更かしをしない
- 冷房の利いた部屋にいない
- 外で運動するか家事手伝いをする
なお,こういったルールの対象者が「勉強ができない子限定」かといえば,決してそのようなことはありません。
実際,某私立の有名男子校では,夏休みに6時起床の勉強合宿を執り行うほどの熱の入れようで,むしろ,偏差値が高い学校ほどこういったルール決めを厳密にしているように思います。
昔ながらのラジオ体操を早朝に行うというのも,実は理にかなった方法だったのですね。
まとめ
それでは最後に,良質な睡眠をとるために有効な工夫というのを箇条書きにし,今回の記事のまとめをしようと思います↓
- 最適な睡眠時間は人によってさまざま
- 小学生は9時間,中高生は8時間以上が目安
- 土日の朝寝坊は翌週の夜更かしにつながる
- 朝は日光を浴び,夜間の強い光は睡眠を妨げる
- 朝食や日中運動することも重要
- ゲームや動画は夜ではなく朝に楽しむ
- 昼寝の長さは10分程度とする
- 音や飲食物,室温や学習計画も睡眠に影響する
こうしたことを小中高生の段階でしっかり実践できていれば,社会人になってから睡眠に悩まされることも少なくなります。
学生時代は特に育ちざかりなので,睡眠の時間だけでなく質についてもしっかり考えるようにしましょう。
日中眠くなる理由としては圧倒的に睡眠不足が多いわけで,平日に睡眠が不足しがちだからと週末にその分,多めに寝ても,その程度の努力で劇的に改善されるようなものではないですし,翌週以降のリズムが崩れてしまいがちです。
最後になりましたが,物事にはベストなタイミングというものが存在します。
学生時代というのは勉強するのに最適な時期で,将来どんな職種に就くにしても,各教科を勉強することで得られる独自の物の見方は重要になってくるでしょう。
数学は数字を生かした方法で,国語なら文字による方法,そして社会なら歴史や地理に基づくような考え方ができるようになるわけです。
しかし,授業が始まった途端に眠たくなってしまったり,頭に内容が入ってこなかったりする状態で授業を受けていては,わざわざ学校まで来て机に座った努力が無に帰してしまいます。
そういった意味でも,正しい睡眠についての理解を深めて,規則正しいリズムで学生生活を送れるようになることは,もはや立派な勉強法の1つと言えるはずです。
是非,周りの友達や家族と助け合いながら,自分にとっての理想の睡眠パターンを模索していきましょう!