中高一貫校では,各々の指導理念のもとで12歳から18歳の生徒を教育しています。
その年齢からすれば,6年間はこれまでに生きてきた時間の3分の1から半分に相当するわけで,それだけ大きな影響力を持ち,自分の性格を形成する特別な時期です。
もちろん,大人になってからでも生き方次第で似た経験はできます。
ですが,後で振り返って多くが懐かしみ,思春期ならではの感受性や活力でもって過ごした日々とは比べものになりません。
良くも悪くも多くの経験が,その後の自分の判断基準に関わってくるでしょう。
ところで,公立中学校に進学した生徒の場合,高校から全く別の学校に通うことが普通です。
そのため,中高一貫校が6年間を通して1つの方針を貫いて教育を行うことができるのに対し,高校受験を経験した生徒は「3年間+3年間」という,異なる2つの方針で指導されることになります。
ちなみに,中高一貫校において高校から外部の生徒をいくらか募集するところもありますが,その場合,元々在籍していた内部生と後から入って来た外部生との間に何とも言えない温度差が生じてしまうことは,経験者の誰もが知っているわけです。
それほどまでに貴重な6年間を丸々費やして生徒を育てることができる中高一貫校だけに,それだけ優秀な学生を世に送り出せる可能性が高くなります。

今回の記事では触れませんが,伝統ある男子校や女子校では男女間の成長度合いの違いも考慮してカリキュラムを組んでいるほどです。
以下では,中高一貫校の名門の1つである「駒場東邦」を例に取り上げながら,優秀な学生が備えている資質・能力がどのようなものであるか,少し考えてみたいと思います。
駒場東邦について
駒場東邦中学校・高等学校ですが,「駒場」という地名がある東京都目黒区に隣接した世田谷区は池尻に位置し,「東邦」大学が1957年に設立した学校です↓
私自身は卒業生ではありませんが,塾で駒東生を教えていて話をよく聞いていますし,バスケットボールの試合を見に行ったこともあります。
1971年以降,高校で外部生を募集しておらず「完全中高一貫校」とも言われ,1学年240名ほどで,入試では4科目で合否判定される男子校です。
校長が変わると教育方針も多少変わりますが,有名なのは第二代校長の「駒東の3F精神」で,
- Friendship
- Fair play
- Fighting spirit
を指します。
以下で様々なイベントを紹介しますが,この精神が今に引き継がれていることを感じることができるでしょう。
優秀な学生は五感を通じて多様な経験をしている
駒場東邦では,実技を重視した教育法を採用することにより,五感を刺激する多様な体験を可能にしています。
例えば,2017年に行われた「技術」の授業では,ゴムを動力としたプロペラ飛行機の製作会が2日間にわたって行われ,飛行機を作る奥深さを学ぶことができました↓
これは中学1年生の話ですが,3年生にもなるとより高度な理解が可能になります。
例えば,箱根の火山見学が行われた際には,噴火口や千条の滝の観察に始まり,箱根ジオミュージアムで最終的に知識の整理をすることになったわけですが,中3生ともなれば地学の知識が活用でき,地層や水温,石の種類などから複合的に現象を捉えて,自然をより深く理解できたわけです↓
このような大規模な実習でなくても,誰しもが体験できる五感を使った授業として「理科実験」が知られています。
本来ならば最も人気が出る授業形態のはずですが,あまり良い思い出がない方も意外と多く,それはおそらく,他人にやらされている感が強すぎたり,自由度があまりに少なかったりしたがためにつまらなくなってしまったのでしょう。
指導する側の教育レベルが高くないと授業は楽しくならないわけで,教員の技量や熱意が足りないことは多くの学校で問題を引き起こしています。
もしも,学校でこうした体験ができないのであれば,自らが積極的に場を求める必要があり,これは大人も例外ではありません。
もちろん,12~18歳の多感な時期は逃しているので,得られる経験に差は生じるでしょうが,「今日が一番自分が若い日」ですし,何もせずに時を過ごすことと比べればずっとマシです。
私自身,都会で生まれ育ったために自然と触れ合う機会はほぼありませんでしたが,とある里山でアオダイショウと出会ったりスズメバチが飛び交う空間に紛れ込んでしまった際に恐怖で一歩も動けない経験をし,自然への畏怖の感情を知ることができ,人としても大きく成長できたように感じました↓
恐怖は感動に繋がりやすく,作られていない生の自然と触れ合う経験が特におすすめです。
優秀な学生は十分な教養を備えている
先の火山見学の話では,知識があるからこそ,その先のさらに深い考察ができると述べました。
駒場東邦の学習カリキュラムは「文系理系を問わず,学ぶべき教養はすべて身に付けること」を目指しています。
最近でこそSTEAM教育が広く知られるようになりましたが,同じく駒場にキャンパスがある東京大学では1949年から行われているわけで,昔から伝統として行っているところは多いです。
駒東では,たとえ文系を志望する生徒であっても,高校2年生に数学IIIの微分積分までしっかり学んできました。
よく,
数学が将来何の役に立つのですか
などといった質問をされることがありますが,知識の獲得だけにとどまらず,その教科独自の物の考え方を学ぶことに繋がるわけです。
例えば数学では数字や論理の力によって世界を捉えられるようになりますし,理科では数々の法則や自然現象の観察による分析力を養えます。
国語なら文字の力,社会なら歴史的なものの考え方といった具合に,教科書を読みながらこうした様々な視点を身に付けることが深い教養へと繋がり,今後,答えがない世の中の問題を解き明かす際に役立ってくるわけです。
これまで文系・理系という枠組みにとらわれて学び損ねた経験がある方は,今こそ学び直してみることをおすすめします。
思考獲得の一番の基本である読解力はもちろん,大人の学び直しとしては日本史や公民が良いでしょう↓
優秀な学生には母校愛がある
駒場東邦では,学びの場においてアクティブラーニングを積極的に取り入れています。
少人数制により参加率を高めた状態で行われるため,生徒の自主性を促すきっかけとなる授業が実行可能です。
例えば,教員が書道の授業で異体字と常用漢字の差異をうまく提示できると,その字の歴史的な背景や成り立ちを調べてくる生徒が出てきたりします。
勉強以外においても,例えば文化祭で
このテーマについて専門家の意見が聞きたい
と生徒が考えた際,彼ら自身にアポを取らせるのが駒場東邦流のアクティブラーニングです。
この経験を通して,
- 他人にものを頼むときの礼儀作法
- アポイントメントの手続き
などを自然と身に付けさせることができます。
その他にも,生徒たちから遠足でやりたいことについての意見を出させ,それを教員ができる限り実現できるようにサポートしてやることで,同学年の仲間同士の繋がりが深まるでしょう。
駒場東邦の場合,体育祭において先輩が後輩の面倒をみることで,学年間の繋がりをも深めています。
塾で生徒に聞いた話になりますが,中学1年生の時に,体育祭のチームカラーである「赤・青・白・黄」のうちの1色を各自が割り当てられるそうで,興味深いのはその色が高校3年生までずっと変わらないことです。
こうすることで,自分のチーム(色)を勝たせるために,高学年の生徒は積極的に低学年の生徒を世話するようになります。
この話を聞かせてくれた彼は,高校3年生になって遂に特別な服装をすることが許されるようになり,数ヶ月前から体力づくりなどのメニューを作っては自主的に体育祭の準備をしていました。
このような同学年の仲間との「横の繋がり」と学年間の「縦の繋がり」は,どちらも自分たちが時間や議論を重ねて作り上げてきたものです。
そしてその経験は,最終的に駒場東邦に対する愛に変化します。
このような母校愛があるからこそ,卒業生が文化祭や講演会に積極的に参加してくれるようになるわけで,学校側としてもこういった生徒は,かけがえのない宝物のような存在であることでしょう。
自分の手で作り上げたもの,そこには必ず愛が生まれ,大切にすることができます。
郷土愛や恋愛でも構いませんが,色々なものを愛せるということはそれだけたくさんのことに自分が関係してきた証に他なりません。
優秀な学生は,積極的に物事に関わっては,愛せるものの数が多い人物でもあります。
まとめ
以上,駒場東邦に学ぶ優秀な学生像でした。
今回紹介した資質・能力を再掲すると,
- 豊かな経験
- 深い教養
- 母校愛
の3つとなりますが,これらを持たない人の中には,何をするにも誰かが導いてくれないと自分からは何もしようとしない(できない)人がかなりの割合いるように感じます。
駒場東邦では当たり前のように行われてきた学びですが,最近の学習指導要領もそれに近いものを求めるようになりましたので,今後は「自発的に調べては考え,議論し行動する」という態度を身に付けた学生が増えることを期待したいものです。
なお,私が保護者の立場(見守る側)になった暁には,駒場東邦の平野勲(第八代校長)が言うところの,「良い環境を準備し,その子が育つのをじっと見守る」ことを心がけたいと思っています。
特に何か新しいことを始めさせるにあたって,不慣れな子どもだけにやるのに時間がかかるでしょうし,出来上がってくるものは大したものではないかもしれません。
ですが,その過程にこそ価値があり,出来上がったものの中に,大人もあっと驚くアイディアが発見できることもあるでしょう。
是非そんな日が来ることを楽しみに,できることならば駒東のような一流の中高一貫校に子どもを通わせてやってください。
最後までお読みいただきありがとうございました。