教育改革が行われるたびに新しい学習法の名前を聞かされることは少なくなく,最近だと「アクティブラーニング」という言葉をよく耳にするようになりました。
これは社会人になってからも役立つ姿勢の1つで,生徒が自らの意志でもって積極的に学ぶことを可能にします。
今回は,中学や高校でアクティブラーニングを一体どのように教えているかについて,実際の教材を1つ取り上げて体験してみることにしましょう!
アクティブラーニングとは
英語にすると「Active Learning」ですから,単純に和訳すると「能動的学習」と言えるでしょう。
机に座って一方的に先生の話を聞くような従来の学習は受け身的なので,それとは真逆の学習法であることが容易に想像できます。
しかし,学習指導要領におけるアクティブラーニングは「主体的・対話的で深い学び」のことを指しており,調査学習・発見学習・課題解決学習といった主体的な学びに限らず,集団討論やグループワークといった,相手の意見をくみ取りながらも自分の意見をしっかりと述べていく学びも含まれます(参考:新学習指導要領と「生きる力」について)。
グループワークやICTを使った学習,それに体験学習も立派なアクティブラーニングです。
実際の指導にあたって教員は子どもの学びに積極的に関与し,必要な知識や技能をしっかり教授しつつも,深い理解を促すための指導体制や学習環境を整えるわけですが,言葉で説明するよりも体験する方がわかりやすいでしょう。
そこで次章において,JICA(独立行政法人国際協力機構)で公開されている,小中高生向けの社会科の授業を例に,アクティブラーニングを体験してみたいと思います。
詳しくは以下で確認できるので参照してください↓
アクティブラーニングの授業例
今回は「水と世界」の映像教材を用いてアクティブラーニングについて学んでいくことにしますが,生徒になったつもりで是非一緒に参加してみてください。
進め方に決まりはありませんが,私の知っている高校の指導案によると,1回の授業を50分とした場合,以下の流れで行われることになっています↓
50分授業の流れ
ディスカッション:8分
グループ発表:10分弱×4回
振り返り:3分
ディスカッション
今回は水の確保に困窮するルワンダが比較対象に出てくるので,まずは「アフリカにある国」について思いつくものをグループ内でディスカッションしてみましょう。
なお,今この記事をお読みの方は個人の方が多いと思われますので,話し相手に生成AIを使うようにしてください(参考:小中高生の生成AIの使い方!デメリットを知って自分らしく)↓
どんなものを思いつきましたか。
単語にすると,例えば「ヨーロッパの南,赤道,砂漠,ナイル川,貧しい,人口が多い,黒人」などが挙がったはずです。
導入時にこの作業を行うことの意味ですが,自分たちが現時点で持っている知識を確認することで,関心を持って後の映像を視聴できるようになります。
グループ発表(1回目)
ここから本格的な授業に入っていきますが,以下の映像を観て,世界における水の循環について理解したら,その内容を基,水の大切さや世界規模の課題について話し合いましょう。
皆と意見を出し合ったら,グループごとに1回目の発表をしてください↓
水に国境はなく,世界共通の財産であることがわかったかと思いますが,学校では日本での水使用量,世界の水問題に関する資料を別に配布することがあります。
日本では身の回りに当たり前にあって自由に使えるものの代表例ですが,水を利用可能な形にするために古くから多くの努力(治水事業など)が行われていることを学び取れると理想的です。
グループ発表(2回目)
今度は以下の映像を観て,水の入手に課題を抱えるルワンダについての理解を深めます。
最初に抱いていたアフリカ諸国に対するイメージがどのように変わったかを中心に,2回目の発表をしてみてください↓
生徒は日本と他国を比較することで,その国についてだけでなく日本についての理解も深まることに驚くことになるかもしれません。
蒸し暑いどころか,夏は東京よりも涼しいようですし,教育にICTが使われていることも私は知りませんでした。
グループ発表(3回目)
上で観た映像は,ルワンダの良い側面を中心に編集されたものでした。
続いて以下の映像を観て,水道がない生活について思いを馳せてみましょう↓
ここは時間を取るべきところでもあるため,都市部だけでなく村落部の映像も利用して構いません↓
必要に応じて,同じ時間に,世界の裏側では人々はどのような暮らしをしているのか,思いを馳せることは重要です。
自分の生活に必要な水の量はどれくらいなのか,災害時にお風呂に水を溜めるように言われたり,サバイバルしなければならなくなったときの注意点はどのようなことかなど,多くのことを考えるきっかけになるでしょう。
グループ発表(4回目)
水の大切さを学んだ後は,生徒たちに再び世界へと目を向けさせます↓
自然に存在しないプラスチック製品を海の生き物は正しく認識できず,例えばウミガメやクジラはビニール袋をクラゲなどと間違えて誤飲してしまうわけですが,そこらの川に浮かぶゴミも行き着く先は世界の海なわけです。
もっと小さな,一見砂と見間違えるようなマイクロプラスチックであっても,生物濃縮の問題が気になります。
ChatGPTとの会話は以下のように進みました↓
このように,水問題だけにとどまらず,道徳的だったり文化的な内容だったりも学ぶことができましたが,生成AIを使うことで1人でも十分なディスカッションが行えることも覚えておきましょう。
振り返り
最後にその日の振り返りを行いましすが,これをするとしないのとでは理解の定着に大きな差が生じてしまうので蔑ろにしないでください。
今回の映像を通して,水の重要性について知ることができ,大切に使っていかなければいけないと思い直したはずです。
そのことで家庭の水道料金が減り,ゴミ捨ての態度も変わるかもしれませんが,同じかそれ以上に大切なことは,グローバル化が進む現代において異文化を理解することの重要性について体験できたことではないでしょうか。
気になったことをきっかけとして,自分で沢山のことを調べては知識を増やせることに気づけたはずです。
人によっては,将来,就きたい仕事のビジョンが見えたかもしれません。
こうした学びはアクティブラーニングを行ったからこそ得られたものだと言うことができます。
アクティブラーニングの評価方法
とはいえ,客観的な評価も必要で,最後に授業でアクティブラーニングを行う時の評価方法についてもみておきましょう。
お気づきのように,各自の取り組み方次第で,アクティブラーニングの効果は大きく変わってくるわけです。
なので,保護者の中には
一体何のためになるのか?
時間の無駄ではないか?
といった疑問を持つ方もいるでしょう。
そこで学校側は採点基準を明確化し,採点者によって評価に差がつかないよう,細部にまで言及するなどと工夫しています。
上の授業であれば,一般的に以下の4つの観点で評価されるはずです↓
- ディスカッションや発表で積極性が見られたか(関心・意欲・態度)
- 観た動画に対して的確に考察できたか(思考・判断)
- 的確な表現を使って自分の意見を発表できたか(技能・表現)
- ルワンダや水問題について理解できたか(知識・理解)
積極的に参加しコミュニケーションするのは学習指導要領の主体的や対話的な学びに関係し,問題点を発見する観察眼を育みます。
なお,上の授業で学んだことを高校の学習指導要領と比べてみると,アクティブラーニングの効果がよくわかり,わずか50分の授業であっても,地理・世界史・日本史・現社・倫理・政治経済の教科を横断した学びが得られたことになるわけです↓
1つの単元について知識を深めることも大切ですが,今回の授業例のように,複数の教科に渡る知識をいくつか結びつけることによって,総合的な物の考え方ができるようになります。
もちろん,上のようなことを生徒が考えながら行うことはないのですが,授業を行うからにはその裏にしっかりとした意図が存在することを知っておくことは大切です。
まとめ
以上,アクティブラーニングについての概要を述べ,実際の授業を体験しては,最後に生徒の評価方法についてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
今回は水問題だけでなく,アフリカについて理解することになったため,アクティブラーニングを行う前と後で自分の視点が広がったように感じられたのではないでしょうか。
特に中学生や高校生で,前提となる知識が少ない生徒ほど,その広がりをより強く認識できたはずです。
こういった総合的かつ多角的な学習を行う際にはアクティブラーニングが有効で,記事の冒頭部に言ったように,社会人になっても役立つ勉強法であることに異論はもはやないでしょう。
深い学びによって,元々あった知識も深まったはずです。
とはいえ,従来の詰め込み型の教育スタイルが悪いと言っているわけではありません。
教育改革に関する座談会などで,「これまでの知識詰込み型の勉強スタイルが,実社会では全く役に立たない」という論調の意見を耳にしたこともありますが,それは,大学ですべきことをしてこなかった大人の大いなる勘違いであるように思います↓
一見,社会の役に立ちそうにない知識を社会に役立つ形に変えていくことを学ぶことが大学の存在価値であり,実用的でなさそうな学問(哲学や数学など)こそ,実は社会において役立つことが多いことも知っておいてください。
最後になりましたが,知識や技能は短期間で伸ばすことができるのに対し,思考力や表現力,そして判断力といったものは,養成するのに長い時間を要します。
加えて,そういった力を実際に評価するのは労力や時間がかかって大変なわけですし,教える側の能力もかなりのものが問われることになるでしょう。
ひょっとすると,授業自体がうまくいかないこともあるかもしれません。
そこで,生徒側の態度としては,なるべく独学できる内容(例:詰め込み学習)は自宅で行い,集団でしかできないこと(例:アクティブラーニング)を学校で行うというのが正解になります。
そういった理由で,「学校は能動的な学習ができる貴重な場所である」と考えられるようになる意識改革も教育改革で行うべきことの1つと結論付けられるかもしれません。
もちろん,自宅においても生成AIのようなICTを活用し,いつでもどこでも積極的に学んでいきましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました。