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新学習指導要領と「生きる力」について

学習指導要領」は社会的な実状を踏まえながら大体10年ごとに改定されるものですが,教科書内容や時間割を変えてしまうほどの力を持っています。

とりわけ,2020年度から順次実施された際には大学入試改革も同時に行われ,人生の方向性を決めると言っても過言ではない大学受験に大きく影響を及ぼすことになったわけです。

学校指導要領が新しく改訂されることになると,基本的には小学校→中学校→高等学校の順で実施されていくことになります。

当記事で,最新のものの実施スケジュールと改訂内容のポイントを理解しましょう!

新学習指導要領の実施スケジュール

2020年の学習指導要領改訂のスケジュール

内容を詳しくみていく前に,最新の学習指導要領がどのような感じで実施されるのか確認してみようと思います。

2017年に中教審答申(「中央教育審議会」と呼ばれる,文部科学省にある委員会で,文部科学大臣などと意見を交換する場)の結果を踏まえて,手始めに小学校と中学校の学習指導要領が,そして1年遅れて高校でも改訂が行われました。

とはいえ,いきなりすぐ明日から実施とはなりません。

教科書や授業の時間割など,学校の具体的方針を決めるための移行期間が必要です。

大体3~4年となり,具体的時期については以下のようになります↓

  • 小学校は2020年度から
  • 中学校は2021年度から
  • 高等学校は2022年度から

小・中学校は上記年度に全面的に(全学年で)実施となりますが,高当学校のみまずは1年生,次に2年生などと学年ごとに実施されていくことに注意してください。

よって,後者において全学年の教育内容が新学習指導要領に基づいたものに置き換わるのは,2022年4月入学の高校1年生が高校3年生になる2024年度です(ちなみに,幼稚園では2018年度からすでに始まっています)。

なお,センター試験に代わる大学入学共通テストが2020年度から実施されており,2025年1月の共通テストから7教科20科目に変更となりました↓

 

 

新学習指導要領の概要

新しい学習指導要領のイメージ画像

最新の新学習指導要領では「生きる力を育む」という大きな目標が目立っていますが,Society5.0と21世紀型能力についてで述べたような,予測困難な時代に生き残るための力をまとめてこのように呼んでいます。

想定されているのは2030年の日本であり,この力は「教育現場で身に付く21世紀型能力」とも言えるでしょう。

とはいえ,1998年や2008年に改訂された際にも「生きる力」という言葉は目標の中に登場してきており,実はそれほど目新しいものではありません。

これはつまり,学習指導要領が変わるたび(約10年ごと)に目標が大きく変わるわけではないことを意味しています。

さらに言うと,新学習指導要領には「主体的・対話的で深い学び」や「社会に開かれた教育課程の実現」といった耳慣れない文面も出てくるのですが,それらが目指すところは,2008年の学習指導要領に盛り込まれているものと同じなので,本質は変わっていないわけです。

管理人
管理人
言葉を変えるのは意味をよりわかりやすくするためで,似た例として「AO入試」は「総合型選抜」に,「プレテスト」は「試行調査」に呼び方を変えています。

その他,聞こえの良い「思考力・判断力・表現力」を重視するあまり,地味な印象が強い「知識及び技能」を軽視しないようにしましょう(後述)。

また,こういった目標を明確にしては広く皆で共有し,さらなる指導改善を引き出す取り組みが期待されているため,子どもの周りにいる大人も新しい教育方針を理解し,その実現に向けて手助けすることが求められていることも見逃せません。

教育は協働作業であり,成功させるためには子どもが属する地域社会にいる人たちの共通理解が欠かせないため,教員以外の方であっても積極的に教育に関わっていくことが求められています。

子どもの一番近くにいる大人は親となりますが,例えば学校でどんな授業があったか尋ねることも,子どもからすれば貴重な振り返りの時間となり,結果的に教育効果を高めることに繋がるわけです。

もちろん学校組織の方も,幼稚園から小・中学校そして高校と,教育の成果を上手く連結させる必要がありますが,最新のものは大学入試も併せて改革されたので,例えば英語4技能の勉強(特にライティングやリスニング)が大学受験で無駄にならずに済み,良いタイミングだったと言えるでしょう。

なお,テレビなどでよく目にする「高大接続改革」という言葉は,上記連結を示す1つにすぎません。

実際は「幼小接続」や「中高接続」にも十分配慮する必要があります。

 

 

新学習指導要領が目指す資質・能力

これまでの内容を整理するとともに,新学習指導要領が目指す資質・能力について大まかに把握するためにも,上記動画を観ておきましょう!

2020年度以降の学習指導要領が目指す「生きる力」とは,主に以下の3つから成ります↓

  1. 実社会や生活で役立つ「知識及び技能」
  2. 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」
  3. 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」

補足しますが,上の動画に出てきたようなディベートを満足に行うためには,1に挙げた知識や話す技能を十分身に付けていることが必要です。

多少性質が変わっているところがありますが,それでも詰め込み学習はこれからの時代においても重要で,その価値を全く失っていません↓

とはいえ,ディベートを行うことで知識や技能がさらに深まることになります。

続けて,2に挙げた「思考力・判断力・表現力」ですが,これはPISAのテスト結果などで論議されてきた力(様々な情報をまとめて判断したり,プログラミング的に考えたり,批判的に物事を捉えたりする力)のことです↓

これらは詰め込み教育で得られる能力と対極にあるものと誤解されがちですが,知識がなければ思考ができないように,上に挙げた1と2のどちらもバランスよく身に付けることが,これからの社会で求められることです。

もっとも,これら2つの資質・能力は,以前の指導要領の中ですでに述べられていました↓

2008年の学習指導要領の目標

  • 生きる力の育成
  • 基礎的・基本的な知識や技能の習得
  • 思考力・判断力・表現力等の育成のバランス

つまり,新しく追加されたのは先の3番目に挙げた「学びに向かう力・人間性等」であり,学校での学びが社会にどう繋がるかを理解した人材であれば,社会に送り出されても戸惑うことなく対応できると文科省は考えています。

「これこそ,学習指導要領が新しく目指すゴールだ」と彼らは言いますが,確かに時代のニーズにマッチした考え方です。

経済産業省も「課題発見・解決能力」という似た能力の必要性を提言していますが,働き方は多様化し,仕事を引退してからの老後も今では10年以上あることが普通ですから,それぞれの生き方は自分自身が考え出さなければなりません↓

管理人
管理人
一言で言うと,上の1や2で得られた資質・能力を,人生や社会のために生かそうとする力が3です。

 

 

個別最適な学びと協働的な学び

生きる力の身に付け方

さて,以上3つの資質・能力は,個別最適な学びや協働的な学び,そして主体的・対話的で深い学びを通して獲得されることになるわけですが,ここでは前の2つについてまとめましょう。

「個別最適な学び」とは,知識及び技能の定着を助けるためのデジタルドリルを筆頭に,子ども1人1人に応じた指導方法や,子どもの学習状況を把握するためのシステム,さらにはAIが最適な教材を提示することや,不登校や障がいのある子どもの支援を充実させるための支援を指しています。

同じ説明を聞いても,1回で理解できる子どもと何度も聞かないとわからない子どもがいるように,学ぶペースは人それぞれで,早く課題が終わった子どもは別の教材を使って学ぶことができ,時間を持て余すことがありません。

次に「協働的な学び」ですが,デジタル教科書やグループ学習,海外や各種施設または大学との連携授業を指しており,例えばグループ学習において,各人の意見はICT機器を通じて即時共有されては可視化されるなど,GIGAスクール構想がそれを可能にします↓

教員側においても,研修や採点,他校への連絡といった校務を効率化することができると同時に,子どもの学習履歴や行動のようなビッグデータを利活用することで,子どもたちの効果的な学びを実現できるようになりました。

 

 

主体的・対話的で深い学び

学習指導要領をふまえた授業内容

前章で述べた学びが本格化してくると,いよいよ主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)が実現できるようになりますが,ここでは何を学ぶかだけでなく,どのように学ぶのか,そして何ができるようになるかを踏まえた授業が行われるのが特徴です。

ここで用語について解説しますが,「主体的な学び」というのは,学ぶ対象に興味・関心を持ち,自己のキャリア形成と関連付けるようにしては見通しをもって粘り強く取り組み,自分の学習活動を振り返って次に繋げていく態度のことを意味します。

続いて「対話的な学び」ですが,子ども同士だけでなく,教師や地域の人,あるいは書物を通して作者との対話を通じて,自分の考えを広げて深めていく方法のことです。

今後は外国からの労働力が増え,文化背景が異なる人たちと働く機会が増えることが予想されています。

その際,相手の気持ちが理解できなかったり,共通語である英語がそもそも話せなかったりすれば,良い未来が実現できるはずもありません。

最後に「深い学び」についてですが,各教科の特性に応じた考え方を用いて,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,問題を発見してその解決策を考えたりすることを意味します。

管理人
管理人
国語だったら文字によるアプローチ,数学だったら数に注目したアプローチを通して,1つの問題を多角的に解決しようとする試みのことです。

このように,一言で「アクティブ・ラーニング」と言っても学ぶ内容が多岐にわたるので,具体例を通して授業の雰囲気を体験してしまう方がわかりやすいかもしれません。

いわゆる「総合的な探求の時間」で行うものがそれですが,興味がある方はアクティブ・ラーニングを体験してみた記事を参考にしてください。

なお,2020年度以降は,上記3つの資質や能力を明確化して授業を改善していくということで,以下の授業が新設(一部変更)されます↓

最近新設された授業

小学校:外国語活動(小3~小4),外国語(小5~小6),特別の教科道徳

中学校:特別の教科道徳

高等学校:理数,総合的な探求の時間

外国語では「聞く・読む・話す・書く」の4技能を総合的に学ぶことになりましたし,道徳では,ある問題を自分のこととして捉えて議論することによって道徳心を育むことが可能です。

高校における理数教育では,観察実験を通して得たデータなどを分析し,統計的に処理することを学びますが,他にもプログラミング教育や消費者教育(契約の重要性や消費者の権利と責任などについて学習し,自立した消費者として行動できる力の養成)が重視されています。

管理人
管理人
従来の名を冠した教科であっても,先述した資質や能力の取得を第一に考えた授業構成に改善される予定です。

 

 

まとめ

新学習指導要領における子どもたちの学びの進化

以上,最近の学習指導要領のスケジュールと目標を中心にみてきましたがいかがだったでしょうか。

新学習指導要領が目指す「生きる力」について,2016年5月付で出された文部科学大臣の文言を最後に引用しておきましょう↓

将来の変化を予測することが困難な時代を前に,子供たちには,社会の変化に受け身で対処するのではなく,現在と未来に向けて,一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し,自らの人生を切り拓き,よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが求められています。

これからの時代に生きる子どもが社会に出るのは2040年頃になります。

その時代に照準を合わせてアクティブ・ラーニングを行い,知識及び技能や思考力・判断力・表現力,学びに向かう力・人間性を柱とする「生きる力」を身に付けていくことになりますが,周りの大人や社会が子どもの学びをできる限り応援すべきだということを忘れないでください。

親ができる働きかけの例として,家庭内での会話を増やす,TVやゲームの時間を制限する,読書を勧める,価値あることについて教えるなどが知られています↓

今回紹介した内容の多くは文科省のサイトで確認することが可能です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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スタディサイトの管理人

通信教育の添削や採点業務に加え,塾や家庭教師を含めた指導歴は20年以上になります。東大で修士号を取得したのはずっと昔のことですが,教授から数年に一度の秀才と評してもらったことは今でも心の支えです。小学生から高校生にまで通じる勉強法を考案しつつ,気に入っているスタディサプリのユーザー歴は7年を超えました。オンラインでのやり取りにはなりますが,少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。

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