教育改革にまつわるニュースを聞くと,なんだか大変そうなことばかりで「面倒くさそう」とか「大丈夫かなぁ」といったネガティブな気持ちに陥りがちですが,そんなときはその先に待ち受けている未来について妄想してみることがおすすめです。
今回は,政府が「Society5.0(ソサエティ5.0)」と呼ぶ社会について思いを馳せると同時に,将来役立つ21世紀型能力を身に付けるために学校が果たす役割を中心にみていきたいと思います。
Society5.0について
Society5.0は,2018年6月5日に公表された政策ビジョンの中に登場しました。
「人工知能」や「EdTech」といった単語に関連付けて説明されるこの社会は,数字が示すように,人類史上5段階目に位置する新しい社会を意味しています。
ここでの数値はコンピューターの世界で目にするバージョンのようなもので,最初のSociety1.0が示す社会は,はるか昔の狩猟社会です。
その次にver.2.0となる農耕社会が来て,そこからかなり時が経ちますが,蒸気機関がもたらした工業社会がver.3.0に,そして昨今の大人が体験した情報社会がver.4.0と続き,いよいよver.5.0の超スマート社会が来ることになります。
IoT(Internet of Thingsの略),ビッグデータ,AI(人工知能)やロボットにドローンといった技術がその立役者となるわけですが,進化した人工知能がいろいろな判断を下し,求めるモノやサービスを必要な人に必要な時,必要なだけ提供することで,あらゆる人が恩恵を受けられる社会です。
サイバー空間と物理空間は高度に融合し,煩わしい作業から解放され時間に余裕が生まれ,より便利で安全かつ安心な生活が実現されます。
昔読んだ記事の話ですが,ピザが食べたいと思ったときにはすでに自宅にピザが届いているような社会が本当に来るのかもしれません。
経済発展はもちろん,現在の日本が直面する社会問題(少子高齢化や希薄な人間関係,自然体験の減少,そして最近のコロナ問題など)をもそれらが解決してくれることが期待されています。
思えば1995年のスマホ普及率は10%もありませんでしたが,それから20年経って100%を超えました。
それほどまでに数十年という年数は大きな変化をもたらすものであり,最近は科学技術の進歩が目まぐるしく,これまで以上に革新のスピードは上がっていると聞きます。
次章では,そんな超スマート社会でできることについて,いくつか具体的にみていきましょう!
Society5.0が実現できること
1つ目に紹介するのは「ドローン宅配」です。
指定日時になると,自分の元にドローンが荷物を届けに飛んできてくれます。
ドローンを飛ばすと言うと,悪いニュースも頭に浮かびますが,安全かつ便利にドローンを運用できさえすれば,配送コストも安くなり人手不足に悩まされることもありません。
特に,山奥などにある地域や脚が悪くて出歩けない方にとってみれば,大変役立つ技術となるでしょう。
同様に,「無人自動走行バス」も地方都市での試験運転がすでに済んでおり,特に乗り場を設けることがないためにバス停に移動する必要がなく,AIによる制御が働くので事故の心配も不要とのことです。
続いて紹介するのは,ロボットによる「ICT栽培」という,ビッグデータの恩恵を受けられる技術となります。
これはまさにビッグデータが働き方に大きな影響を与えている好例で,農家がこれまで培ってきた知識や経験をデータ化することで,未来の農家は過去のデータに基づいて栽培を管理したり,出荷に至るまでの多くの煩雑な作業を簡略化してくれるでしょう。
昨今でも,AIに野菜の形やサイズを学ばせては,仕分けを自動化している農家もあるくらいです。
そちらの農家の話によれば,技術を導入する前は仕分け作業に労働時間の7割近くを割かれていたということなので,ICT栽培がどれほど作業の効率化に影響しているのかがわかります。
動画は以下からどうぞ↓
Society5.0で求められる資質・能力
前章のような例は,自ら発案し,積極的にAIを生活に取り入れた結果です。
Society5.0において,各種技術と上手に付き合っていくためには,正しくデータを扱える能力であったり,技術そのものの仕組みをしっかりと理解する必要があります。
ここでは以下の問題を使って,1つ考えてみましょう↓
Society5.0にまつわる問題
店のショーウィンドウ(SW)を作るための予算はいくらに設定すべきでしょうか。なお,半年でその費用を回収できるものとします。以下の条件とデータを用いて計算してください。
条件1:店の前を1日10000人が通る
条件2:客単価は1200円,購買率は20%,利益率は50%とする
データA:SW有の画像を解析したところ,入店率は15%だと判明
データB:SW無の画像解析をしたところ,入店率は10%だと判明
データAとBを比較すると,SWがあると1日に5%(500人)ほど入客数を増やせることになるので,1ヶ月で約15000人の差になることがわかります。
これに客単価と利益率,そして購買率をかけてみましょう。
すると180万円(15000人×1200円×0.2×0.5)が,SWを設置したことによる,1ヶ月あたりの客数の押し上げによる粗利益だと計算できます。
よって,もし仮に1000万円かけてSWを作ったとしても,半年あれば元は取れてしまうという結果です。
ちなみに上の例は,画像解析AIを用いて来客予測を行っている老舗食堂が実際にやっていることを簡略化したものとなります。
2019年の時点で,通行人の性別はもちろん,年代までをすでに分析できていましたが,今ではもっと様々な分析ができるようになっていることでしょう(余談ですが,オンラインでテストを受ける際に導入される監督用ソフトにおいて,AIが受験者の目線を上手に分析できるようになりました)。
しかし,その際,どのような点をAIに分析させるかについては,あくまで使い手側の予測によるという点がポイントです。
前提となる予測自体が間違っていれば,結果としてうまくいくはずもありません。
そして,その予測は単なる勘ではなく,経験や知識に基づいたものであるべきです。
その際に役立つ能力として,21世紀型能力が知られています。
次章で詳しくみてみましょう!
21世紀型能力について
国立教育政策研究所の教育課程の編成に関する基礎的研究報告書によると,21世紀型能力は基礎力・思考力・実践力の3つから構成されます。
基礎力は,基礎的な読解力を中心とした言語スキルと数学的な思考力に代表される数量スキルに加え,情報スキルは読み書きそろばんに次ぐ第3の能力(情報活用能力)として重要視されている点がまずポイントです。
そして,21世紀型能力の中核をなすのは思考力であり,問題解決・発見力と創造力,論理的で批判的な思考力,そしてメタ認知と適応的学習力から成ります。
社会を眺めては,自分で課題を発見することが重要視され,加えて,誰かに言われたことを忠実に受け入れる代わりに,自らの頭で考える姿勢も大切です。
前章で解いた問題を解く際には,まさにこの思考力が必要でしたね。
そして,その上に位置する能力が実践力で,これは社会や他者との関係や,その中での自律にかかわる社会スキルのことで,実践力に関してはまだ最適解は得られていません。
今のところの候補として,自律的活動・人間関係形成力・社会参画力・持続可能な未来づくりへの責任など,価値や意義といった概念が含まれる能力が挙げられています。
そして,これら3つを高い次元で備えることで,Society5.0を生きる力が生まれてくるわけですが,学校で何を学ぶかについては,これらをベースにして考えることになるわけです。
実際,教室外にある無数の現実問題を解決しないといけないわけなので,同じものにはなりませんが,例えば,実践力にある自律的活動力を培うために,校則を生徒が主体となって決めるような取り組みは最近見受けられるようになったもので,昔は先生の言うことが絶対でした。
それに比べると,学校で学ぶ内容もだいぶ変わってきましたね。
学習指導要領については以下で語っているので,ここでは学校ver.3.0についてみていきましょう↓
学校ver.3.0とは
Society5.0において重宝されるのは,ICTやデータを最大限活用でき,技術革新を様々な問題解決につなげられる人材です。
なるべく多くの優秀な人材を輩出するために,学校は従来の詰め込み教育を行うだけの場から,アクティブラーニングを行う学習の場に変わっていきます。
その学び場は「学校ver.3.0」と呼ばれ,
- 公正に個別最適化された学び
- 基礎的読解力,数学的思考力,情報活用能力
- 文理分断からの脱却
という3つの目標が掲げられているのが特徴です。
そこでは,EdTechにICT,スタディログ,リベラルアーツ,STEAM教育などが重要な役割を果たすことになります。
小学校でのプログラミング教育必修化もそれを目論んでのものですし,しっかりとした目標があってそれに向かって歩んでいくわけですから,一連の教育改革は決して悲観する内容ではなく,むしろそういった教育を受けた子の将来が楽しみになるものだということがわかっていただけたでしょうか。
なお,現在特に政府が力を入れているところとしては,個別最適化された学びと協働的な学び(ICTの活用と新学習指導要領を踏まえた教育)です。
個別最適化された学び
個に応じた指導ということで,子どもの成長やつまずき,悩みを理解し,1人1人の興味や意欲に応じた指導または支援を行うことになります。
それにより,教師は子どもに知識や技能を確実に習得させ,思考力であたり自立の力であったりを育成することになりますが,子どもの方としても自分の学習状況を把握し,主体的に学習を調整できるようにならなければなりません。
そして,そのときこそICTが活用できるわけで,スタディログを始め,生徒指導上のデータを用いたり,教師の負担を軽減(板書や採点を効率化)することができます。
協働的な学び
ただし,それだけだと孤立した学びに陥りがちです。
友達の家に遊びに行って,各々が別のゲームをやって解散になることや,家族1人1人が別の食事を食べているような状況は良くありませんが,勉強においてもこれと同じことが言えます。
そこで探求的な学習(実験や実習)や地域での体験活動を行うことで,他者の価値を認めて尊敬できるようになり,協働的な学びが行えるようになるわけです。
この際,かつての授業形態では1人がずっと発言しているような状況もありましたが,これからは全員の意見を反映し,組み合わせることが重要視されています。
また,子ども同士であっても学年を問わなかったり,時間や場所の制約がなくなったことで,これまで出会えなかったような専門家であったり海外の人たちと協働することも可能です。
まとめ
以上,Society5.0の概要と,21世紀型能力,加えてその育成を担う学校の新しい学びについてみてきました。
今の子どもの7割弱は,今は存在していない職業に就くだろう。
今後10~20年で半数近くの仕事が自動化される可能性が高い。
こんな話を10年前からすでに耳にしていましたが,その時点ですでに,世界時価総額ランキングの上位に日本企業は入っておらず,2019年1月の時点で日本トップのトヨタ自動車ですら42位でした。
1989年のトヨタは11位でしたし,上位トップ10に7つの日本企業が含まれていたことを考えると,30年で実に社会は大きく変わるのですね。
現在ランキング上位を占める企業を見てみると,マイクロソフト・アップル・アマゾン・グーグル等といった具合に,シリンコンバレーに本社を置くIT企業がほとんどを占め,今後は国内においてもIT人材の需要が高まっていくことが経済産業省の調査において予想されています。
そのような社会が到来した際,的確にAIなどを使いこなせるようになっていれば,大いに楽をして生活を送ることができますし,「そのために必要な学びを今,自分は学校で学んでいるのだ」と考えられれば,一見大変そうな授業も乗り越えられるのではないでしょうか。
ただ単に道具としてAIを使えるだけではなく,本質(仕組み)を理解し,創造的に使えるようになれば,その子の未来は大変に明るくなります。
最後までお読みいただきありがとうございました。