教育改革にまつわるニュースを聞くとなんだか大変そうなことばかりで,「面倒くさそう」とか「大丈夫かなぁ」といったネガティブな気持ちに陥りがちですが,そんなときはその先に待ち受けている未来について想像してみることがおすすめです。
今回は,政府が「Society5.0(ソサエティ5.0)」と呼ぶ社会について思いを馳せるのと同時に,将来役立つ21世紀型能力を身に付けるために学校が果たす役割についても考えてみようと思います。
Society5.0について
「Society5.0」という言葉は,2018年6月5日に公表された政策ビジョンの中に登場してきました。
「人工知能」や「EdTech」といった単語に代表されるこの社会は,数値が示しているように,人類史上5段階目に位置する新しい社会を意味しています。
ここでの数値はコンピューターの世界で目にするバージョンのようなもので,最初のSociety1.0が示す社会は,はるか昔の狩猟社会です。
日本だと,稲作の技術が伝わる約2700年以上前になります。
その次にver.2.0となる農耕社会が来て,実際は現在まで続いているのですが,上に重ねていくイメージです。
18世紀にイギリスで発明された蒸気機関がもたらした工業社会がver.3.0とされ,知識や情報が優位となる1970~1980年代の情報社会がver.4.0と続き,いよいよver.5.0の超スマート社会が来ることになります。
IoT(Internet of Thingsの略),ビッグデータ,AI(人工知能)やロボットにドローンといった技術がその立役者となるわけですが,進化した人工知能が複雑な作業を任され,求めるモノやサービスを必要時,必要な人に必要なだけ提供することで,あらゆる人が恩恵を受けられる社会です。
サイバー空間と物理空間は高度に融合し,人々は煩わしい作業から解放されて時間に余裕が生まれ,より便利で安全かつ安心な生活が実現されます。
昔読んだ記事の話ですが,ピザが食べたいと思ったときにすでに自宅にピザが届いているような社会が本当に来るのかもしれません。
経済発展はもちろん,現在の日本が直面する社会問題(少子高齢化や希薄な人間関係,自然を体験する機会の減少など)も超スマート社会が解決してくれることが期待されています。
1995年のスマホ普及率は10%もありませんでしたが,それから20年経って100%を超えました。
それほどまでに数十年という年数は大きな変化をもたらすものであり,最近は科学技術の発展が目まぐるしく,これまで以上に革新のスピードは上がっていると聞きます。

次章では,そんな超スマート社会でできることについて,いくつか具体的にみていきましょう!
Society5.0が実現できること
1つ目に紹介するのは「ドローン宅配」です。
指定日時になると,自分の元にドローンが荷物を届けに飛んできてくれます。
ドローンを飛ばすと言うと,悪いニュースが頭に浮かびがちですが,安全かつ便利にドローンを運用できるようになれば,配送コストが安くなり人手不足に悩まされることもありません。
特に,山奥などにある地域や脚が悪くて出歩けない方にとってみれば大変役立つ技術になるでしょう。

2つ目ですが,「無人自動走行バス」も地方都市での試験運転がすでに済んでおり,特に乗り場を設けることがないためにバス停に移動する必要がなく,AIによる自動制御が働くので,事故の心配も皆無とのことです。
続いて紹介するのは,ロボットによる「ICT栽培」という,ビッグデータの恩恵を受けられる技術となります↓
これはまさにビッグデータが働き方に大きな影響を与えている好例で,農家がこれまでに培ってきた知識や経験をデータ化することで,未来の農家は過去のデータに基づいて栽培を管理できますし,出荷に至るまでの多くの煩雑な作業は簡略化されるでしょう。
昨今でも,AIに野菜の形やサイズを学ばせては,仕分けを自動化している農家もあるくらいです。
そちらの農家の話によれば,技術を導入する前は仕分け作業に労働時間の7割近くを割かれていたと言いますので,ICT栽培がどれほど作業の効率化に影響しているのかがわかります。
Society5.0で求められる人間の資質・能力
前章で語った未来は,自ら発案し,積極的にAIを生活に取り入れたからこそ実現できるものです。
Society5.0において各種技術と上手に付き合っていくためには,データを正しく扱える能力を備え,技術そのものの仕組みについてしっかり理解しておく必要があります。
ここでは以下の問題を使って,必要な資質・能力がどのようなものであるか考えてみましょう↓
Society5.0にまつわる問題
以下の条件とデータを基に,店のショーウィンドウ(SW)を作るための予算はいくらに設定すべきか答えてください。なお,半年でその費用を回収できる範囲内とします。
条件1:店の前を1日10000人が通る。
条件2:客単価は1200円,購買率は20%,利益率は50%とする。
データA:SW有の画像を解析したところ,入店率は15%と判明した。
データB:SW無の画像解析をしたところ,入店率は10%と判明した。
データAとBを比較すると,SWがあると1日に5%(500人)ほど入客数をより増やすことができるので,1ヶ月で約15000人の差になることがわかります。
これに客単価と利益率,そして購買率をかけてみましょう。
計算式は15000人×1200円×0.2×0.5=180万円となり,これがSWを設置したことによる,1ヶ月あたりの客数の押し上げによる粗利益となります。
よって,半年で1080万円の得になりますから,もし仮に1000万円をかけてSWを作ったとしても,半年あれば元は取れてしまうわけです。
ちなみに上の例は,画像解析AIを用いて来客予測を行っている老舗食堂が実際にやっていることを簡略化したものになります。

しかし,その際,どのような点をAIに分析させるかについては,あくまで使い手側の予測によるということを忘れてはいけません。
つまり,前提となる予測自体を間違ってしまえば,誤った結果が導きされることになります。
そして,その予測は単なる勘ではなく,経験や知識に基づいたものであるべきです。
その際に役立つ能力として「21世紀型能力」なるものが知られています。
次章で詳しくみてみましょう!
21世紀型能力について
国立教育政策研究所の教育課程の編成に関する基礎的研究報告書によると,21世紀型能力は基礎力・思考力・実践力の3つから構成されます。
基礎力とは,基礎的な読解力を中心とした言語スキルと,数学的な思考力に代表される数量スキルに加え,読み書きそろばんに次ぐ第4の能力として重要視されている情報スキル(情報活用能力の1つ)が含まれている点がポイントです。
そして,21世紀型能力の中核をなすのは思考力で,問題解決・発見力と創造力,論理的で批判的な思考力,そしてメタ認知と適応的学習力が含まれます。
社会を観察して,自分で課題を発見することが重要視されている他,誰かに言われたことを妄信的に受け入れず,自らの頭で考える姿勢も大切です。
前章で紹介した問題を解く際にも,この思考力が必要でした。
そして,その上に位置する能力が実践力で,これは社会や他者との関係を構築したり,自律にかかわったりする社会スキルのことを指しますが,実践力に関してまだ最適解は得られていません。
現時点での候補として,自律的活動・人間関係形成力・社会参画力・持続可能な未来づくりへの責任など,価値や意義といった概念が含まれる能力が挙げられています。
そして,これら3つの能力を高い次元で備えることで,Society5.0を生き抜く力が育まれるわけですが,学校で教える内容はこれらがベースとなることは確かです。
実際,学校という社会の中でも,教室外にある無数の現実問題を解決しないといけないわけで,例えば,実践力に分類される自律的活動力を育むために,校則を生徒が主体となって決めるような取り組みが挙げられます。
こうした活動は最近になって増えてきたもので,昔は先生の言うことが絶対のところがほとんどでした。
子を持つ親からすれば,学校で学ぶ内容はだいぶ変わってきたと感じられるはずです。
学習指導要領の内容については以下で詳しく語っているので,ここでは学校ver.3.0についてみていきましょう↓
学校ver.3.0とは
Society5.0において重宝されるのは,ICTやデータを最大限活用することができ,技術革新を様々な問題解決に繋げることができる人材です。
なるべく多くの優秀な人材を輩出するため,学校は従来の詰め込み教育を行うだけの場から,アクティブラーニングを行う学習の場へと変わる必要があります。
その学び場は「学校ver.3.0」と呼ばれ,
- 公正に個別最適化された学び
- 基礎的読解力,数学的思考力,情報活用能力
- 文理分断からの脱却
という3つの目標が掲げられているのが特徴的です。
そこでは,EdTechにICT,スタディログ,リベラルアーツ,STEAM教育などが重要な役割を果たすことになります。
小学校でのプログラミング教育必修化もそれを目論んでのものですし,しっかりとした目標があってそれに向かって歩んでいくわけですから,一連の教育改革は決して悲観する内容ではなく,むしろそういった教育を受けた子の将来を楽しみにしてくれるものと言えるでしょう。
以下では,現在,政府が特に力を入れているものの中から,
- 個別最適化された学び
- 協働的な学び
を紹介させてください。
個別最適化された学び
こちらは文字通り,個に応じた指導ということで,子どもの成長やつまずき,悩みを理解し,1人1人の興味や意欲に応じて指導または支援を行うことを意味します。
それにより,教師は子どもに知識や技能を確実に習得させ,思考力や自立心を育成することができますが,子ども側も自分の学習状況を把握し,主体的に学習を調整できるようにならなければなりません。
そして,そのときに役立つのがICTで,スタディログを始め,生徒指導のデータを共有したり,教師の負担を軽減(板書や採点を効率化)したりすることができます。
協働的な学び
ただし,上のような学び方をしていると孤立した学びに陥りがちです。
これは,友達の家に遊びに行って各々が別のゲームをやって解散になることや,夕飯で家族1人1人が別々に好きなメニューを食べているような状況に似ています。
これは個人でみれば問題ないのですが,社会生活として考えればふさわしいものではありません。
そこで,学校では探求的な学習(実験や実習)や地域での体験活動を取り入れることで,生徒は他者の価値を認めて尊敬できるようになり,協働的な学びが行えるようになるわけです。
かつての授業形態では活発な1人がずっと発言しているような場面も見受けられましたが,これからの時代は生徒全員の意見を授業に反映し,組み合わせて考察することが重視されます。
なお,これはクラスや学年を問いませんし,時間や場所の制約がなくなったことで,これまでは出会えなかった専門家や海外の人たちと協働することも可能です。
まとめ
以上,Society5.0の概要と,21世紀型能力,加えてその育成を担う学校の新しい学びについてみてきました。
今の子どもの7割弱は,今は存在していない職業に就くだろう
今後10~20年で半数近くの仕事が自動化される可能性が高い
このような話を10年前からすでに耳にしていましたが,その時点ですでに,世界時価総額ランキング上位に日本企業は入っていませんでした。
2025年時点で日本トップはトヨタ自動車の43位ですが,1989年は11位でしたし,上位トップ10に7つの日本企業が含まれていたことを考えると,30年で社会情勢が大きく変わることがわかります。
現在ランキング上位を占める企業を見てみると,マイクロソフト・アップル・アマゾン・グーグルなど,シリンコンバレーに本社を置くIT企業がほとんどを占め,今後は国内においてもIT人材の需要が高まっていくことが経済産業省の調査において予想されています。
そのような社会が到来した際,的確にAIなどを使いこなせるようになっていれば,大いに楽をして生活を送ることが可能ですし,
そのために必要な学びを今,自分は学校で学んでいるのだ
と子どもたちが考えることができれば,大変そうな授業も乗り切ることができるでしょう。
ただ単に道具としてAIを使うだけではなく,本質(仕組み)を理解し創造的に使えるようになれば,その子の未来は大変明るいものになります。
最後までお読みいただきありがとうございました。