2020年の高大接続改革では大学入学共通テストが注目の的でしたが,大学受験の前段階にあたる高校入試においても教育改革は同様に進行中だったわけです。
その一例として,都立高校入試の英語試験にスピーキングテストが導入されることが決まり,2022年の4月以降の中学3年生から実施されることになりました。
実際本日に至るまで無事に実施され続けてきたわけですが,当記事ではそのスピーキングテストの特徴や導入されるまでの経緯,さらには実際どのような出題がされるかについて,プレテストの内容などを中心に詳しくみていくことにしましょう!
中学校英語スピーキングテストとは
まず最初に,スピーキングテストの基本知識をまとめておきます↓
名称:中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)
対象:都内の公立中学校に通う3年生
監修:東京都教育委員会
実施:民間団体から公募
日程:11~12月
回数:1回
会場:都立学校や民間施設など
料金:無料
簡略化して「イーサットジェイ」と呼ばれることもありますが,これはEnglish Speaking Achievement Test for Junior High School Studentsの略です。
なお,2024年の1~3月からは中1~中2生を対象にしたテストまでもが別で実施されるようになり,それぞれ「ESAT-J YEAR1」・「ESAT-J YEAR2」と呼ばれています。
英語4技能のうち「話す」能力を測るためだけにテストが行われるわけですが,このとき英検の2次試験のようなものを想像するのは間違いです。
というのも,実施方法が対人による面接形式ではないからで,実際はタブレット型端末,イヤホンマイク,防音用のイヤーマフを使用して行うことになります。
これはつまるところ,生徒の解答がデジタル端末に録音・保存され,後日それが採点されるということを意味しており,TOEICのスピーキングテストが形式的には近いでしょう。
周囲の受験生が英語を読み上げる声がうっすら聞こえる中でのテストになるので戸惑う方は多いでしょうし,実際そのような苦情を寄せる方も現にいるのですが,周りの騒音が得点を大きく左右することはありません(1点刻みではなく6段階の幅を持って点数化されるからです)。
上のTOEICにおいてもその状態が普通ですし,あれだけ持ち物制限に厳しいETS(アメリカにある教育関連のテストを行う世界最大の非営利民間財団)が認めている実施方式なわけですから,これが国際的なスタンダードだと理解しておきましょう。
もっとも,世の中の声に応える形で中1・中2生のうちに似たテストが体験できるようになった昨今です。
次にテスト日程ですが,中3の2学期に行われるということで,本来であれば英語の能力が最も高まるであろう学年末の時期が良かったのでしょうが,それだと都立高校に結果を提出するには間に合わないため,「11月の第4土曜日~12月の第2日曜日にある休日か祝日」に行われることになっています。
有利・不利が出ないように1度しか試験は実施されませんが,病気で試験を受けられなくなった生徒のために予備日が設けられています。
スピーキングテストは手間がかかる分,費用も高くつくのが普通ですが,都内の公立に通う中学生であれば都が費用を負担してくれるため,受験料の支払いはありません。
本テストは,中学校の学習指導要領に記載されている「話すこと」が純粋に身についているかを問うことを第一の目的として行われますが,基本的な知識や技能があること以外に,思考力や判断力,表現力といった教育改革的な内容も問われることを覚えておきましょう。
一方,実施側は受験生のデータを分析することで,都内の公立中学校における「話すこと」の授業成果を把握して課題点を発見したり,高校入学以降のクラス分けに利用したりもします。
大学ではTOEFLやTOEIC Bridgeなどを新入生に受けさせてクラス分けをする話はよくあることで,今回のテストはそれに似たものを高校入試でやってしまおうという試みであり,入試問題ながら高校入学前に合格者の実力が把握できてしまうのですがら,高校側にとっても大変有益だということです。
実施するにあたって,以下のような民間団体の協力を得ることがすでに決まっています↓
- フィージビリティ調査は「日本英語検定協会」
- プレテストは「ベネッセコーポレーション」
- 本実施は2023年までは「ベネッセコーポレーション」
- 2024年~2028年は「ブリティッシュカウンシル」
日本英語検定は英検やTEAP,ベネッセはGTEC,ブリティッシュカウンシルはIELTSを主に行っているところです↓
なお,大学受験においてもこうした検定試験は利用することになるので,中学生のうちに慣れ親しんでおくに越したことはありません。
公平性や納得性を維持するためにも活用する試験は一本化することが望ましいのですが,昨今の様子を見る限りは無理でしょう。
今後も締結期間が終了するたびに激しい競争は起こることが予想されます。
次章では,スピーキングテストが導入されるまでのスケジュールについてみていきましょう!
初回のスピーキングテストまでの日程
東京都中学校英語スピーキングテストを実施する前段階として,監修元の東京都教育委員会はテストの難易度がどの程度のもので,再現性や信頼性はあるのかなどのデータを取る必要がありました。
新型コロナウイルス感染症対策の影響で日程が変更されたものの,本実施までの道のりは順調でした↓
日付 | 実施内容 |
2018年8-9月 | フィージビリティ調査 |
2019年11-12月 | プレテスト |
2020年4月以降 | 確認プレテスト① |
2021年4月以降 | 確認プレテスト② |
2022年11-12月 | 初回の本実施 |
各種用語の説明ですが,「フィージビリティ調査」とはスピーキングテストの実現可能性や実施の意義,妥当性について調査・検討するために行われるもので,出題内容は後述しています。
2019年に行われた「プレテスト」は約8000人を対象に行われ,その結果をふまえて実施されたスピーキングテストが「確認プレテスト」と呼ばれるものです。
①こそ500人程度が対象でしたが,②は本番と同じ中3生全員(63721人)に実施した大規模なもので,本実施前の最終調整となりました。
そして,ついに実施となったわけですが,初年度のスケジュールは以下の通りでした↓
初回スピーキングテスト
2022年7月上旬~9月上旬:WEB申し込み
2022年11月27日(予備日12月18日):実施
2023年1月中旬(予備日受験は下旬):結果受取
受験者数は69529人で,実施時間については以下のようになりました↓
初回スピーキングテストの実施時間
12時15分~13時:入室
13時~14時5分:前半試験実施
14時25分~15時30分:後半試験実施
15時30分~15時40分:退出
ちなみに,生徒は前半試験か後半試験かのいずれかに割り振られます。
どちらか1回のみを受け,受けていない時間は待機するのは国家試験でも見られる方式です。
問題量ですが大問の数にして4~5題で,1人あたりの実施時間は15~30分と予定されていたのですが,本番もその枠内に収まっていました。
CEFRでいえばA2レベルまでを測定できる難易度となり,結果は絶対評価なので他人の出来に左右されないところも特徴と言えますが,確認プレテスト②と初回実施分のスコア分布を比べた結果は以下の通りです↓
平均スコアは初回の本実施が60.7ということで,一般的にはこれは理想的な数字とされています。
次回以降も同じ難易度になることを祈りましょう。
なお,中学校英語スピーキングテストの最新情報に関しては,東京都教育委員会のサイトから確認することができます。
次章では出題内容を確認してみましょう!
スピーキングテストの出題内容と対策
中学校英語スピーキングテストの出題内容についてですが,プレテストにおいては「中学校学習指導要領外国語編(平成20年9月)」に書かれている内容が基になっています。
以下に試験で問われるポイントをまとめたので確認してみてください↓
- 強勢,イントネーション,区切りを捉え正しく発音する
- 自分の考えや気持ち,事実などを聞き手に正しく伝える
- 聞いたり読んだりしたことについて問答したり意見を述べ合う
- つなぎ言葉を用いるなどの工夫をして話を続ける
- 与えられたテーマについて簡単なスピーチをする
1点目ですが,正しい音で発音できるだけでなく,強勢やイントネーション(声の調子の上げ下げ),そして区切り(文のまとまり)ごとに話すことも大切だという意味です。
次の2つ目ですが,自身の考えを伝えるために「声量」も重視されており,大切なところは強調し,また聞き手にとって分かりにくいと思われるところは,繰り返したり言いかえを行う必要があります。
3つ目は,テスト問題における場面設定に関わってくる内容です。
スピーチ,視聴覚教材,メール,ポスターや図表から情報を読み取って,教師や生徒と話し合うことが想定されています。
このとき,ただ内容を理解するのではなく,自分の感想や考えを伝えることを重視するようにしましょう。
4点目に関しては,つなぎ言葉以外にも「あいづち」や「相手へ質問する」などの工夫が求められています。
最後のスピーチについては,自分の意見や主張をわかりやすく述べることが大切です。
テーマの設定も重要で,自分が体験したことや夢,関心があることをテーマにすると話しやすいでしょう。
とはいえ,文字だけではイマイチ理解しづらいところがあるかと思いますので,次章で具体例を挙げながら見ていきたいと思います。
過去のスピーキングテストの出題例
ここでは,フィージビリティ調査とプレテスト,さらには初年度の問題をみながら,具体的な内容をみていきましょう。
フィージビリティ調査
スピーキングテストのひな型となるフィージビリティ調査は,都内の公立中学8校に在籍中の第3学年の全生徒1000人ほどを対象に,2018年の8月から9月にかけて行なわれました。
6校においてはタブレット端末やPCを用いて録音する形式でしたが,残り2校は比較検討のためか面接形式(対人)で行なわれています。
実施時間は20分程度で,準備時間を含めても50分以内に完了するテストでした。
実施結果が良好だったため,本番でもこのような出題になることが予想され,実際にそうなりました。
2つの問題セットが用意されていたのですが,ここではセットAの出題内容をみていくことにしましょう(セットBとは問題内容が異なります)。
質問は全部で6問となり,前半では以下のような英文が流れましたが,当然ながら受験者は以下の印刷文を目で確認することはできません↓
簡単な質問に短文で答えるものですが,第3問において入力端末のボタンのYesかNoのどちらを押すかによって出題が変わるあたりはまさに「機械」的な出題です。
問われる内容は前章で述べた5つのポイントのうち2つ目(自分の考えを言う)が問われていますが,受験者の緊張をほぐす目的も当然あるでしょう。
黙らずに何かを話すことができればOKです。
しかし,第4問からはいよいよ本格的な出題となります↓
こちらではポイントの1つ目(強勢やイントネーション)が問われていることが明らかです。
舞台は学校なので,身近に起こり得るシチュエーションだと見なせるでしょう。
上の問題では,以下のような原稿を黙読して音読することになりました↓
ここでは書かれた英文をただ音読するだけで,そのあとに質問が続くわけではありませんでしたが,続く第5問と6問は実に入試問題らしい出題で,もちろん難易度は高めです。
第5問ではイラストを見て,ある日の班行動を振り返ります↓
いわゆる3コマ漫画を作る感じですね。
こうしたものは起承転結を考えて作るものですが,3コマしかないので,1コマ目に起承を詰め込み,2コマ目で転,4コマ目で結を述べれば良いでしょう。
各コマで1文ずつ言えればとりあえずはOKですが,ポイントの4つ目(つなぎ言葉を用いる)を評価されていることをお忘れなく(SoやHoweverを使うのがおすすめです)。
第6問の指示は以下の通りでした↓
完全に5つ目のポイント(スピーチをする)が問われている問題ですが,「話すことの例」が提示されている分,難易度は下げられています。
ちなみに,これまでの問題すべての解答例は以下の通りとなっており,どの程度の解答が作れればよいのかの目安にしてください↓
とはいえ,これは中3生向けのテストとして見れば「簡単」です。
実際の平均点は80点となり,高得点層が多い結果となってしまいました。
とはいえ,学びが多いテストでもあり,最初の取っ掛かりとしては相応しい出題だったと思います。
本試験では得点分布が広範囲に及び,平均点は60点くらいになるのが理想的なので,実際はこれより難しくなることを覚悟しておきましょう(実際,難易度調整が今後の課題として挙げられていました)。
一方で,出題内容については適切で,テストの信頼性も高く判定試験としての機能を果たしているという結果も出ています。
機器の使用についても心配されていましたが,操作に困難を感じた受験者は少なかったようです。
プレテスト
次に2019年(令和元年度)に行われたプレテストの構成をみていきたいと思います。
同じ感じだと飽きてしまうかと思いますので,こちらは動画をみてみましょう↓
4つのパートごとの構成は以下の通りでした↓
パートA | 音読問題が2問 |
パートB | 質問に答える問題が4問 |
パートC | 物語を作る |
パートD | 自分の意見と理由を発表する |
これはその後行われた初回の本試験とほぼ同一の内容になっています。
出題内容についてもう少し詳しくみていくと,パートAは40語前後の英文を音読する問題でした。
準備時間と解答時間はともに30秒ありました。
パートBはイラストに関する質問に答える問題でしたが,準備・解答時間がどちらも10秒しかないので,即座に対応する必要があります。
英会話では黙ってしまうことが最悪とされるので,反応の俊敏さも重要です。
話題は留学生の案内からチラシに対するものまでと多様でした。
パートCは4コマのストーリーを自分で考えて話すもので,英検2級の面接などでよく目にするタイプの問題でもありましたが,30秒で準備し40秒で解答します。
パートDの問題では「ナイトルーティン」がテーマとなっていて,自分が普段していることとなぜそれをするかについて,準備時間が1分の解答時間は40秒で答える内容でした。
こうした準備時間や解答時間も初回に行われた本試験と同一です。
その後,確認プレテストが2回行われましたが,内容に大差ありませんでした。
令和4年度本試テスト
本試テスト(本試験のこと)ですが,Part AはNo.1とNo.2からなり40語前後の英文を音読しますが,準備時間と解答時間がそれぞれ30秒ありました。
DoやBe動詞で始まるものと異なり,WHで始まる疑問文の文尾は下げることに注意してください。
その他の注意点としてはnotのところをやや強めに読むくらいでしょう。
Part Bですが,問題数は最も多く全4問となるものの,準備・解答時間ともに10秒と短かったです。
最初の3問は聞かれた質問に答えますが,設定場面についての説明がある上,質問内容も英語で書かれているので,聞かれている内容をいち早く把握して適切な英語に直しましょう↓
4問目は逆に自分の方から質問をする問題で,開園時間が書かれた動物園のお知らせに対して,他に知りたいことを英語で尋ねるものでした。
Part Cでは4コマ漫画を作ります。
3コマよりもこちらの方がわかりやすいですね。
準備時間が30秒しかないのに対し,解答時間は40秒あるので,キーワードからストーリーを復元する練習を積みましょう↓
見た目通りではありますが,得点に差がつくのはパートCとDになります。
創造力や要領の良さも問われる出題です。
最後の大問となるPart Dは全1問ですが,70語くらいからなる英語の音声を2回聴き,それに対する意見と理由を述べていきます。
準備時間は1分,解答時間は40秒なので,説明しやすい意見と理由を1つずつ考え,詳しく丁寧に述べるのがコツです。
今回は,海外姉妹校の生徒から,「日本では昼に皆が同じ給食を食べるが,生徒にとってそれでよいか,別々のものを選べる方がよいか」について質問されているという場面設定でした。
日本語でまともな答えを言えないようでは,それを英語にしたところで理解されることはありません。
一発勝負なテストなだけに問題との相性が出てきてしまうのが玉に瑕ですが,ダメそうなら最小限の得点を狙う方針に切り替えましょう。
例えば上の問題だと「給食が美味しいと元気になるので,好きなものを食べたい」などと言えれば御の字です。
逆に,いける確信が生じるようであれば完璧な回答(学校における給食は栄養バランスが優れているし,準備する側は同じものを一度に作れて効率的であるため,同じ給食を食べる方が良いなど)を言えるように準備してください。
中1~中2のスピーキングテストの内容
中1~中2生向けのスピーキングテストについても最後に少し触れておきましょう。
2024年12月にサンプル問題が公開され,2025年1~3月に実施されます。
試験会場は自分の通う中学校で全員参加です。
試験範囲は2学期までに学んだ内容ですので,そこまでに教科書に出てきた英文法の例文を暗記しておくことでほとんどの問題に対応できます。
試験では英語を話すことになるわけですから,和訳を見て英語を言う練習が効果的です。
ただし,中学2年生ともなると中1内容ができることは前提となっている関係上,短期間でできるようにはならないことを覚えておきましょう。
とはいえ,中3生と比べると使える英語のバリエーションに制限があるわけですから,評価基準はより簡易なものとなっています↓
- 意思疎通ができているか
- 適切な英語を使えているか
- 伝わる英語を話せているか
出来が悪かったからといって高校受験に直接悪影響が出るようなことにはなりませんが,良い点が取れるに越したことはありませんし,中3になって突然順位が入れ替わるようなことも起こりづらいです。
日ごろからスタディサプリやポケット語学を使って対策しておいてください↓
スタディサプリ ポケット語学
まとめ
以上,東京都の中学校英語スピーキングテストについてのまとめでした。
試験回数や料金の配慮に加え,さらには採点官を複数人採用するなどの工夫がみられ,プレテストも慎重に行われた結果,公平性や客観性に優れるテストになりました。
タブレット端末を用いて回答することにはなりますが,オンライン学習に慣れていれば扱いに困ることはありませんし,中1や中2の試験を真面目に受けていれば問題ありません。
出題内容は中学生の興味に応じたもの(活動報告や自分の意見を発表するもの)がほとんどとなっており,実用的であるところも評価できるでしょう。
初回の難易度は理想的なものでしたので,今後も,普段から頑張っている学生とそうでない子の結果がしっかりと差になって表れてくる出題となることを期待します。
なお,本テストの協力団体の1つに日本英語検定協会(英検)が選ばれていたことからも,対策として英検の勉強をすることも十分に考えられるわけです。
確かに2次試験に向けての勉強はしにくいのですが,先に挙げたスタディサプリの英検対策講座などで勉強しておくと役立ちます(参考までに,中学生の到達目標は3級~準2級です)。
加えて,英検の級取得者となれば高校入試の際に加点されるかもしれません(以下は入学者選抜の実施要項の例です)↓
大学入試でも英検取得者(こちらは2級~準1級)は英語試験が免除になったりと良いこと尽くしですし,1次試験対策のみをしていても英語力全体を底上げしてくれます。
特に目標が定まっていない中学生は,早めのうちに英検対策をしておくのがおすすめです。
なお,今回の記事内容は,あくまで「都立」の高校入試におけるスピーキングテストの実施内容についてまとめたものですが,将来的には他都道府県においても同等の試験が実施される可能性があります。
決して他人事とは思わなことです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
将来を決める足掛かりとなる高校受験,早めの対策で乗り切っていきましょう!