今回は,1940年代から現在に至るまでの「各国の教育改革に関する歴史」を振り返ってみると同時に,21世紀に求められる学力とその実現のカギになる「EdTechの役割」についてまとめてみようと思います。
2020年度に行われた我が国における教育改革が,先進諸国のそれと同じ方角を向いていることを理解し,教育のもたらす未来について考えてみることにしましょう!
各国における教育改革の歴史

各国の教育について考える際,多くの国が一斉に改革を始めた終戦直後からみていくのが基本姿勢となります。
ここでは,アジア・アフリカ諸国(AA諸国)と先進国における歴史を中心に振り返ってみることにしましょう。
AA諸国における初等教育の整備
まずはAA諸国からです。
第二次世界大戦後,これまで植民地だった国が独立し,学校制度や教育制度が整備されました。
時期としてはアジアが1950年代,アフリカが1960年代になりますが,その数は100ヶ国に至るとも言われています。
1960年代には,UNESCOがアジア・アフリカ・アラブ・ラテンアメリカの教育制度の整備と支援計画を採択しました。
例えば,1960年に策定されたカラチプランでは,1980年までに約7年間の義務教育を実現することを謳っています(一般的に,初等教育は6~12歳の児童を対象とします)。
その他,1961年のアジスアベバプラン(アフリカ諸国が対象)や1962年のサンチアゴプラン(ラテンアメリカ地域が対象),そして1963年のベイルートプラン(アラブ諸国が対象)などにおいて,初等教育の普及が試みられました。
多くは無償で教育を実施することを目指しており,大変聞こえのよいものではありますが,治安が悪い国で,日々の生活すらままならない中で教育に意味を見出すことは難しく,国際的に協力して教育に当たることは重要ですが,「手くはいかなかった」というのが総評です。
先進諸国における中等教育の再編
一方,先進諸国においては,戦前からある程度確立していた教育を再編する動きが見られ,具体的には以下のような試みが行われました↓
- 義務教育期間の延長
- 初等教育から前期中等教育まで一貫して行う基礎教育の導入
- 入学資格や修業年数にバラつきがあった後期中等学校を簡易な学校制度に再編
例えば,1975年のアビ改革により,フランスの中等教育は「前期4年間のコレージュ+後期3年間のリセ」で行われるようになり,初等教育から合わせて「5・4・3年」の基礎教育が誕生しています(中等教育は12~18歳を対象とします)。
また,アメリカでは「5・3・4年制度」が導入されました。
参考のために詳細を載せておくと,以下の通りです↓
アメリカの初・中等教育の学制
elementary school(5~10歳):kindergardenから5年生まで
middle school(11~13歳):6年生~8年生まで
high school(14~17歳):9年生(Freshman),10年生(Sophomore),11年生(Junior),12年生(Senior)
ドイツではギムナジウムがこれに当たり,元々9年制だったものが今は8年制となりましたが,大学進学を希望する生徒が通う学校のことで,日本で言う「中高一貫校」のようなものです。
これらは今なお続いています。
多様性に配慮した教育政策の誕生
さて,このような学校制度改革により中等教育を受ける人の割合が増加してくると,次に必要となるのは多様性に配慮した教育政策です。
1980~90年代のアメリカでは,オルタナティブスクールやマグネットスクール,チャータースクール解放入学制,二重登録制度(高校生が大学の単位も取得できる)にホームスクーリングなどが登場し,居住地の学区に無関係で通学できるようになった他,高卒認定試験のための予備校が誕生したわけです。
時を同じくして,フランスでは「生徒の多様性に応じること」を掲げた教育政策(シュヴェーヌマン改革など)が,ニュージーランドでは統合学校や特性学校(公立と私立の中間的な教育を行う)が,そしてスウェーデンでは自由学校(公立と異なる独自の教育方針を持つ)が誕生しました。
学力重視の時代と21世紀型スキル
1980~90年代は学力が注目された時代でした。
というのも,経済や国際競争力に学力が影響していることがわかったからです。
アメリカでは「A national at Risk」と呼ばれる教育政策が喫緊の課題となり,今なお,アメリカの教育市場で最も影響力がある報告書の1つとして知られています。
それから30年以上が経過する間に,イギリスでは「The national curriculum in England」が2014年に実施され,AIやIoT,ビッグデータを含む第4次産業革命が追い風となり,市場は世界規模になった結果,職探しが難を極めています。
いずれにせよ,教養の有無,つまりは労働者の持つ教育スキルや知識が選別の基準となり,経済基盤=学力であるとみなされるようになったわけです。
そう考えると,2000年以降,OECDが発表しているPISAの結果に注目が集まったことにも合点がいきますし,これは今でも,各国が自国教育の成否を考える上での大きな判断材料とされています。
詳細はPISAとTIMSSの最新結果!日本の順位と対策はに書きましたが,教育で得た知識を世の中にどう生かすかという対応力を測定するPISAだけに,スコアが平均以下だったドイツでは「PISAショック」が起こり,逆に優秀な結果を残したフィンランドには各国がこぞって訪れるようになったわけです。
ちなみに,最近では「21世紀型スキル」と呼ばれる枠組みが登場し,これからの時代に身に付けるべき4つの能力が示されました↓

上の画像底部にある4つの要素に支えられ,上部にある以下のような能力を高いレベルで習得することが期待されています↓
- Life & Career Skills
- Learning & Innovation Skills
- Information, Media & Technology Skills
- Key Subjects & 21st Century Themes
これら能力の獲得にはEdTechが大きな役割を果たしますが,次章で各国におけるEdTechの学力向上策についてみていくことにしましょう!
世界でEdTechが果たす役割

EdTechとは教育テクノロジー(Educational Technology)のことですが,以下のようなPISA型能力を向上させるのに役立ちます↓
- 言語,シンボル,テキストを相互作用的に用いる能力
- 知識や情報を相互作用的に用いる能力
- 技術を相互作用的に用いる能力
「相互作用的に」という文言が共通していますが,わかりづらいので具体例を挙げてみると,エクセルを使って図表作成をしたり,情報リテラシーがあったり,プログラミング能力だったりがそれに当たるわけです。
EdTechをどのように教育に役立てるかですが,世界の国々はさまざまな向上策を打ち出しており,例えば「情報・コンピュータ教育」に関しては以下のようなものが知られています↓
各国のEdTech活用例
イギリス:1995年のNational curriculum改訂時に「情報」の教科を必修化したとともに,2014年には「コンピュータ」に名称を変更し,プログラミング学習を開始した。
韓国:2017年度から,初等学校の5~6年の「実科」において,ソフトウェアやプログラミングについて学ぶことを規定した。
ニュージーランド:2018年度からデジタルテクノロジーを指導内容に追加した。
スウェーデン:2018年から教科横断型のデジタル関連教育を開始した。
欧州委員会:2013年にOpening Up Educationを発表し,若者のデジタルコンピテンシー促進を目指している。
多くは2010年代の試みであり,教育改革に熱を入れているのは日本だけに限らないどころか,日本のずっと先を行っています。
これ以外に「デジタル教科書」であったり「バーチャルスクール」や「全米教育テクノロジー振興計画」など,同様の学力向上策が打ち出されており,アメリカの教育改革事例についてはアメリカに学ぶSTEAM教育を読んでみください。
まとめ

ここまで,戦後における各国の教育の歴史から始まり,経済や国際競争力に学力が果たす影響や,21世紀型スキル習得のためにEdTechが果たす役割についてまとめてきました。
これからの時代はPISA型能力が高く評価され,義務教育で得た知識を現実社会に運用する能力が問われるようになります。
日本の教育が時代の要請に沿ったものとなり,国際的に注目される成果の1例となることを期待していますが,経済産業省の提唱する未来の教室が好例です。
なお,今回の記事を書くにあたり,文部科学省が2018年に設置した総合教育政策局から,調査企画課外国調査官(併)国際教育統計専門官であられる岸本睦久氏の講演内容を参考とさせていただきました。
以上,参考になれば幸いです。