中高一貫校である「巣鴨学園」は御三家に次ぐ名門男子校の1つですが,「硬教育」という教育理念に基づいて生徒を育てています。
今回はそんな巣鴨の建学の理念に学びながら,令和時代に生きる中高生が学生時代のうちにしておきたい成功体験の重要性についても考えてみることにしましょう!
巣鴨学園の基本情報
基本情報
学校名:巣鴨中学・高等学校(公式HP)
場所:東京都豊島区上池袋1-21-1
創立者:遠藤隆吉
創設年:1910年(巣園学舎)→1922年(巣鴨中学校)
偏差値:高校74(高校偏差値ナビ),中学55~64(四谷大塚)
「硬教育(努力主義)」の下,流行に流されず伝統や規律を重んじた教育を施しながらも,時代の流れに合わせた最先端教育の両方を実践している男子校です。
前者においては7月の遠泳や1月の寒稽古を通して身に付く内容も含まれていますし,後者の例として8月に海外のサマースクールに参加するようなことも行われています(ただしこれらは一部の生徒のみ)。
とはいえそのどちらにおいても,生徒からしてみれば,自身の可能性を信じて努力し続けることに変わりはなく,学校行事以外の勉強やクラブ活動も結局はこの姿勢を身につけていくことに繋がっているわけです。
巣鴨学園の部活動ですが,運動系のものは有名どころが揃っており,文化系のものだと同好会を中心に珍しいものがちらほら見られます↓
巣鴨の部活動
運動系:合気道,剣道,山岳,サッカー,柔道,スキー,水泳,卓球,テニス(軟式・硬式),バスケットボール,バドミントン,バレーボール,ハンドボール,陸上競技,野球(軟式・硬式)
文化系:囲碁将棋,ESS,折り紙研究会,科学技術,化学,合唱,カルタ,クイズ研究会,茶道,書道,写真,社会同好会,JRC同好会,吹奏楽部,数学同好会,生物部,地学部,鉄道研究会,美術部,物理
もっとも,私の塾に来ている小学生をみる限り,先ほど述べたような内容を自らが欲しているかというと微妙で,どちらかといえば親の方がしっかりと下調べをし,同学の教育理念や進学実績に納得した上で第一志望校に設定している印象です。
小学生のうちは大した先見性も持ち合わせていませんから,これで良いのでしょう。
中高一貫校は6年間もあり,周りの人と接触する時間も多くなるだけに,どの学校を選ぶかで子どもの能力値は大きく異なってくるわけです。
塾と異なり,生徒の人となりについて比較的よく知ることができますし,性別や学力が揃っているからこそできる指導もあるでしょう。
実際巣鴨学園では,次章で語るように一歩踏み込んだ指導が行われています。
もちろん大学以降でもその子の才能が開花させられるチャンスは十分にありますが,それが早いに越したことはないでしょう(社会に出る年齢までに開花していることが望ましいです)。
最近は将来医者になりたい子(子どもを医者にさせたい親)が巣鴨を志望することも多く,合格実績も高くなっています。
2023年における医学部医学科の合格者数は国公立大で22名で,私大まで含めると112名となっていました(卒業生は221名)。
結構な数の浪人生がいるため,現役に限るとそれぞれ8名と26名にまで減ってしまいますが,それでも2019年から現在に至るまで,一定数の生徒を医学部医学科に合格させているのは流石です。
これはつまり,現役での合格を目指す場合,学校のテストで上位5%に入っていれば国公立,10~20%で私立大の医学部に合格できる可能性があることを意味するので,目標とするにはわかりやすいでしょう。
志望者の数自体はクラスの3分の1以上です。
巣鴨学園の教育理念は硬教育
「硬い」という言葉にあまり良いイメージを持てない方もいらっしゃるでしょうが,正確な知識や論理を持った頑固者であってもぶれずに自らの考えを貫き通せば尊敬されるように,巣鴨学園が行う「硬教育」では,当たり前のことを流行に流されずにやることが基本理念となっています。
しかし,この建学の精神の真の目的が「努力することが報われて,何かを成し遂げる体験をしてほしい」という切なる願いであることは意外と知られていないのかも知れません。
ところで,硬教育の反意語として明治時代にアメリカから入って来た「軟教育」なるものが知られています。
これは現在多くの塾や予備校で行われていることに他ならないのですが,「物事を噛み砕いて,手取り足取りわかりやすく教える」という教育理念です。
尋ねたことを何でも教えてもらえるということは,一見とても良いことのように思えますが,他人の手を借りず,自分1人の力でなんとか理解するに至った際に特別な価値が生まれることも忘れてはいけません。
例えば,お坊さんが悟りを開くときのことを考えてみてください。
ここで師匠が悟りへの至り方を事細かに説明し,弟子がその通り実行して達成できたとしてそれに何の意味があるでしょうか。
もちろん実際は人に聞いたからといってできるようなことではないため,独力で師匠の言葉の意味を理解しなければなりません。
悟りに至ってから初めて,師匠の言葉の意味がわかることもあるでしょう。
そもそも,何かを初めて学ぶという経験は,人生においてたった一度しか経験できないことです。
そんな貴重な機会を簡単に他人にゆだねてしまってよいのでしょうか。
私には大変もったいないことのように感じられます。
「中学から高校にかけての6年間は,人としての土台部分を構築する上で大切な時期だ」というのは,多くの人が納得している意見でしょう。
この時期の学生は特有の吸収力の高さや記憶力,そして体力を誇るわけですが,それらをフルに使ってどんな困難も一人で乗り越えられるという自信を付けられたのであれば,将来生きていく上での大きな糧となるはずです。
世の中では恋愛が話題の中心に上ることが多いですが,上記内容を「青春」と呼んでしまっても全く問題ありません。
Society5.0に代表されるこれからの社会は予測困難なものとされていますし,その時代を生き抜く力を身に付けさせることは時代の要請にも合っています↓
次章では,巣鴨ならではの伝統行事についてみていきましょう!
巣鴨学園が教える成功体験の重要性
巣鴨学園では大体5月頃に大菩薩峠越え強歩大会が行われます。
大菩薩峠と言えば中里介山の長編小説が有名ですが,この学校行事もすでに50年以上の歴史があり,堀内不二夫校長曰く,「苦労や努力の後に感激が得られることを生徒に知ってもらう」という思惑があるそうです(文芸春秋2018年3月号など)。
自らの力で何かに成功するという体験を,中学1年生から高校3年生までが全員参加で学ぶことになるわけですから,とても大規模なイベントだと言えます。
歩く距離はまさに「圧巻」で,2018年の例ですと以下のようになっていました↓
- 中1=20.9km
- 中2=26.0km
- 中3=26.0km
- 高1=27.0km
- 高2=33.9km
- 高3=34.5km
昔は50km以上あったとも聞きますが,それでも20~35kmという山道を歩くのは大変なことです。
配布された栞に目を通せば注意事項がやたらと多く,スマホは持っていけません。
具体的には以下のルートをバスで行きます↓
大菩薩峠強歩大会の日程
行き:21時に上野公園集合→…→中央高速→勝沼インター→塩山北中着(0時)
帰り:11時に青梅発→圏央道→…→大塚着(16時)
実際歩くことになるのは深夜1時30分から約9時間ですが,最初にそれを聞かされたときは「おいおい正気か」と耳を疑いました(笑)
全員が懐中電灯を手にして,以下の地図が示す範囲を歩きます↓
万歳三唱はさておき,途中の小屋でカップラーメンを食べるのが毎年恒例です。
もちろんこの行事だけで急に身体が強くなることはないですし,ケガをする生徒が出てくる可能性もありますが,達成感は確実に得られますし感激にも至ります。
こうしたことは通常の教科学習からは得られにくく,数十人ものOBをもボランティアとして巻き込む一大イベントとするからこそ初めて実現できるものです(伝統無しには真似できません)。
しかもそれが毎年行われるわけですから,これは鍛えられますね。
苦労の度合いが大きいほどその効果は抜群で,ここでの体験に味を占めた生徒は何かに努力しようという気持ちが促されては成功を欲するようになっていきます。
最初の章で述べたように,巣鴨学園ではこれ以外にも「巣園流水泳学校」や「早朝寒稽古」といった行事もあるのですが,それらは強制ではないですし(中1の遠泳は必修ですが),費やすことになるエネルギーも強歩大会と比べればずっと少ないです。
もちろん,教育のすべてが学校行事を介して施されるわけではありませんが,こうしたことを学校全体を巻き込んで行っているところに巣鴨学園の教育理念の一端を垣間見ることができます。
まとめ
以上のことを踏まえ,巣鴨学園の教育理念からみえる「中高生のうちに経験できること」をまとめてみると,以下の2点になると思われます↓
- ただ受け身で教わることに満足せず,自ら努力し試行錯誤を繰り返しては自分の可能性に気づく
- 実行に困難を伴うことを経験し,達成感のような目に見えない何かを確実に得ては感激する
これらは巣鴨生に限らず,令和の時代を生きる中高生は大いに参考にすべきものと呼べるでしょう。
前者はまさにアクティブラーニングそのもので,積極的で深い学びに通じるものがありますし,後者からは共感や思いやりさらには母校愛といった,社会に出ていく上で特に必要とされるものを学び取る経験ができます。
その他,教育改革に関係する内容として「英語を上手く扱える高度な4技能を備えた生徒よりも,深みのある内容を話せる生徒の方が評価されるはずだ」ということも巣鴨学園の校長は述べているわけです。
ここでふと,私が学生だったときに能や狂言のような日本文化を観に行かせられたり,修学旅行先が歴史的な都市だったりしたことについて考え直してみたのですが,これら行事も,自国に詳しくなることで外国人に対する自分なりの意見を持てるようになってほしいという意図があったのかもしれません。
最後になりますが,自らが努力し,試行錯誤という失敗体験を反省につなげては潜在能力が開花するまで努力し続けることには長い年数が必要です。
ですが,それをせずに学生時代を過ごして大人になってしまえば,その後そういった経験を積むことは非常に難しくなってしまうでしょう。
そのためにも学生時代は,あれこれ思いを巡らせては失敗する時間を無駄とみなさず,とことん真面目に勉強するで,自ずと今後社会を生き抜くための資質や能力が身に付けるようにしてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。