中高一貫校である巣鴨中学・高等学校は御三家に次ぐ名門男子校の1つですが,「硬教育」という教育理念に基づいて学生を育てています。
今回はそんな巣鴨の建学の理念について学びながら,2020年以降に生きる中高生が学生時代のうちにしておきたい「成功体験の重要性」についても考えてみることにしましょう!
巣鴨中学・高等学校の基本情報
- 学校名:巣鴨中学校・高等学校
- 場所:東京都豊島区
- 創立者:遠藤隆吉
- 創設年:1910年(巣園学舎)→1922年(巣鴨中学校)
- 偏差値:73(高等学校),52~60(中学校)
「硬教育」という名の下,流行に流されず伝統や規律を重んじた教育を施しながらも,時代の流れに合わせた最先端教育の両方を実践している男子校です。
前者においては遠泳や寒稽古を通して身に付くような内容も含まれていますし,後者のためにイートン校のサマースクールに参加することも行われます。
ただし,小学生の子がこういった内容を意欲的に自ら求めているというよりも,親がしっかりと下調べをし,男女差の違いに合わせた教育や進学実績を理解した上で第一志望校に設定している印象です。
最近は医学部志望の子が塾に来ることが多いですが,確かに合格実績も高くなっています。
2020年の現役医学部医学科の合格者数ですが,浪人を除いた現役は国公立大で13名,私立大が40名となっていました(卒業生214名)。
重複もあるでしょうが,学校のテストで上位20%に入っていればどこかの医学部には入れるということで,目標も設定しやすいようです。
巣鴨の硬教育と軟教育
「硬い」という言葉からはあまり良いイメージを持てない方もいらっしゃるでしょうが,正確な知識や論理を持った頑固者であってもぶれずに自らの考えを貫き通せば尊敬されるように,巣鴨の言う「硬教育」においても,当たり前のことを流行に流されずにやることが基本方針となっています。
しかし,この建学の精神の真の目的が「努力することが報われて,何かを成し遂げる体験をしてほしい」という切なる願いであることは,意外と知られていないことかも知れません。
ところで「硬教育」の反意語として,明治時代にアメリカから入って来た「軟教育」というものが知られています。
これは,現在多くの塾や予備校で行われているのですが,「物事を噛み砕いて,手取り足取りわかりやすく教える」という教育方針です。
尋ねたことを何でも教えてもらえるということは,一見とても良いことのように思えますが,他人の手を借りず,自分1人の力だけで何とか理解に至ったときには特別な価値が生まれることが知られています。
例えば,お坊さんが悟りを開くときのことを考えてみてください。
ここで師匠が悟りへの至り方を事細かに説明し,弟子がその通り実行してできたとしてそれに何の意味があるでしょうか。
もちろん実際は人に聞いてできるようなことではなく,自分の力で師匠の言葉の意味を理解しなければ悟りには至れません。
悟りに至って初めて,師匠の言葉の意味がわかることもあるでしょう。
加えて,何かを初めて学ぶという経験は,そもそも一度しか経験できないことです。
そんな貴重な機会を簡単に他人にゆだねてしまってよいのでしょうか。
私は大変にもったいないことのように感じます。
「中学と高校の6年間は,人間の土台を構築する上での大切な時期だ。」というのは,多くの人が納得している意見でしょう。
この時期の学生は特有の吸収力の高さや記憶力,そして体力に優れますが,それをフルに使ってどんな困難も一人で乗り越えられるという自信を付けられたら,将来生きる上での大きな武器になるはずです。
世の中では恋愛が話題の中心に上ることが多いですが,上記内容を「青春」と呼んでまったく問題ありません。
Society5.0に代表されるこれからの社会は予測困難なものになりますし,その時代を生き抜く力を身に付けさせることは現代の要請にもあっています↓↓
それでは次章で,そんな成功体験を生徒に感じさせる,巣鴨の伝統行事について紹介しましょう!
成功体験をすることの重要性
巣鴨では大体5月頃に大菩薩峠越え強歩大会が行われます。
この大会はもうすでに50年以上の歴史があり,校長曰く「苦労や努力の後に感激が得られることを生徒に知ってもらう」という思惑があるそうです。
自らの力で何かに成功するという体験を,中1から高3までが全員参加で学ぶわけですから,とても大規模なイベントとなります。
歩くことになる距離は「圧巻」の一言で,
- 中1:20.9km
- 中2:26.0km
- 中3:26.0km
- 高1:27.0km
- 高2:33.9km
- 高3:34.5km
となっていました(2018年の例)。
配布された栞に目を通すと注意事項がやたらと多く,スマホは持っていけません。
しかしその分,安全面には極めて配慮がされている印象です。
- 行き:21時に上野公園集合→…→中央高速→勝沼インター→塩山北中(0時)
- 帰り:翌日11時に青梅出発→圏央道→…→大塚(16時)
といったコースをバスで行きます。
実際歩くのは真夜中の1時30分から約9時間ですが,最初それを聞かされたときは「おいおい正気か」と耳を疑いました(笑)
全員懐中電灯を手にして,以下の地図にあるような範囲を歩きます↓↓
万歳三唱はさておき,途中の小屋でカップラーメンを食べるのが毎年恒例です。
もちろんこの行事だけで身体が強くなることはないですし,ケガをする生徒も出てくる可能性はあるでしょうが,達成感は確実に得られますしそれが感激へとつながっていきます。
こういったことは通常の教科学習では得られにくく,OBをもボランティアとして巻き込む大きな学外行事を通して初めて実現できるものです。
しかしその効果は抜群で,ここでの体験に味を占め,学生が何かに努力しようという気持ちを促しては成功への意欲が喚起されることになります。
最初に語ったように,巣鴨ではこの他にも遠泳や寒稽古といった行事もありますが,そちらは強制ではないですし(中1の遠泳は必修ですが),費やすことになる時間もこの強歩大会よりずっと短いです。
もちろん,「巣鴨の教育=各種イベント」というわけではありませんが,こういったことを学校全体を巻き込んで行っているところに,巣鴨の教育理念の一端が伺えるのではないでしょうか。
まとめ
以上のことを踏まえ,巣鴨の教育方針からみえる「中高生のときに経験しておくべきこと」についてまとめてみると,以下の2点になるかと思います↓↓
- ただ受け身で教わることに満足せず,自ら努力し試行錯誤を繰り返しては,自分の可能性に気づくこと
- 実行するのに困難を伴うことを経験し,達成感のような目に見えない何かを確実に得て感激へとつなげること
これは巣鴨生に限らず,2020年以降に生きる中高生も大いに参考にすべき考え方でしょう。
前者はまさにアクティブラーニングそのもので,積極的で深い学びにつながりますし,後者からは共感や思いやり,さらには母校愛といった,社会に出ていく上で特に必要とされるものを学び取る経験ができます。
その他,教育改革に関係する内容として,「英語をうまく扱える,高度な4技能を備えた生徒よりも,深みのある内容を話せる生徒の方が評価されるはずだ。」というのが,巣鴨の校長先生の意見です。
ここでふと,学生時代に能や狂言のような日本文化を観に行かせられたり,修学旅行先が歴史的な都市であったことについて考えてみましたが,こういったものにも,自国に詳しくなることで外国人に対する自分なりの意見を持てるようにする意図があったのかもしれません。
最後になりますが,自らが努力し,試行錯誤という失敗体験を反省につなげては潜在能力が開花するまで努力し続けるのは,とにかく時間がかかってしまうのがネックです。
ですが,それをせずに学生時代を過ごして大人になってしまえば,その後そういった経験を積むことは難しくなってしまうでしょう。
そのためにも,あれこれ思いを巡らせたり失敗する時間を無駄とはみなさず,とことん真面目に勉強することで,自ずと今後社会を生き抜くための資質や能力が身に付くということを本記事の結論とさせていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。