現代の大学入試では,英語の4技能をバランス良く伸ばすことができた受験生ほど,周りよりも有利な条件で本番に臨むことができるようになっています。
そして,自分の英語力を客観的に判定してもらってさらにそれを大学側に証明するために,「英検2級」や「TOEIC800点」といった個別具体的な枠組みを超えた指標が用いられることになっているわけです。
表題からもお分かりの通り,その指標とは「CEFR」に他ならないのですが,今回の記事では既存の英語資格・検定と見比べながら,CEFRについての理解を深めることを主な目的としています。
また,実際の大学入試において,この指標がどのように用いられているかについても,いくつかの大学の例を基に考えてみることにしましょう!
CEFRと英語試験の関係
2020年度から開始された大学入学共通テストですが,当初の予定としては,英語の4技能(読む・聴く・書く・話す)の測定を民間の英語試験(英検やTEAPなど)に委託するはずでした。
しかし,いざ導入するとなった矢先に様々な問題が指摘され,入試改革の目玉とされていた英語成績提供システムは実現に至らなかったわけですが,そういった試験すべてに通じる共通の物差しとして「CEFR(セファール)」が大きく注目されるようになったことは確かです。
CEFRとは「Common European Framework of Reference」の頭文字を取ったもので,2001年に定められましたが,内容をまとめると「言語能力を評価する国際指標」となります。
さて,このCEFRを用いることで一体何がどうなるかですが,各種英語試験のスコアを,CEFRの定める6つのレベルのいずれかに置き換えることが可能になります。
文科省の当時の発表内容に最近の変更を加えて以下の対照表を作成しましたが,「英検準1級」や「TOEFLの80点」は,CEFRで言うところの「B2レベル」に相当することがわかるはずです↓
CEFR | ケンブリッジ | 英検 | TOEFL | TEAP | IELTS | GTEC | TOEIC |
C2 | 200以上 | 114-120 | 8.5-9 | ||||
C1 | 180-199 | 1級 | 95-113 | 375-400 | 7.5-8 | 1350以上 | 945以上 |
B2 | 160-179 | 準1級 | 72-94 | 309-374 | 6.5-7 | 1180-1349 | 785-940 |
B1 | 140-159 | 2級 | 42-71 | 225-308 | 5.5-6 | 930-1179 | 550-780 |
A2 | 120-139 | 準2級 | 135-224 | 680-929 | 225-545 | ||
A1 | 100-119 | 3~5級 | 260-679 | 120-220 |
なお,細かな数値(例えば英検のCSEバンドやTOEICのS&Wなど)について知りたい方は入試改革関連の記事から個別に確認してください。
ちなみに,新学習指導要領では,英語4技能の1つ1つにおいて「Can-do」と呼ばれる到達目標が設定されているのですが,学年別にCEFRを使ってまとめてみると,以下のようになります↓
学年別の到達目標
- 中学2年生までにA1レベル
- 高校2年生までにA2レベル
- 高校卒業までにB1レベル
上の3つ目に関して,厳密には「英語を専門としない大学2年生までにB1レベル」というのが目標に掲げられていますが,大学入試の英語で求められるレベルは年々高くなっているため,上のように考えているくらいがちょうど良いです。
「中学生ならば英検3級を,高校生は準2級または2級に合格せよ」と昔,先生に口酸っぱく言われた記憶がある保護者の方もいらっしゃるでしょうが,今ではCEFRを用いて「中学生でA2,高校生でB1に達せよ」というのが新しい目標となっています。
実際の英語力に関しての調査も行われており,文科省が実施した「英語教育実施状況調査」では,令和4年度において
- 中学生の49.2%がA1
- 高校生の48.7%がA2(21.2%がB1)
レベル相当の英語力を保有していることが判明しており,英語力は年々上昇してきています(目標数値は50%)。
なお,大学入学共通テストのリスニング問題でも,実際にA1からB1レベルまでの問題が出題されました。
もちろん,B1レベルの問題に全員が答えられることはないのですが,CEFRを意識して問題が作成されているという事実を認識しておきましょう。
英語の授業に結構な時間数をかけすぎているようにも思いますが,近年の教育改革においては「来たる世界のグローバル化に備え,ツールとしての英語を扱える人材を増やしたい」という国家レベルの戦略が優先されています。
そういった人材の養成所ともみなせる機関が大学ですから,そこで学ぶ以上,英語の習得は避けて通れません。
CEFRと大学入試の関係
大学入学共通テストが導入されてから,CEFRの高いレベルに到達することで大学合格のチャンスが高まったことは確かです。
とはいえ,共通テストが実施される以前から,英語の4技能が測定可能な試験会場には,高校生と思しき子の姿が数多く見受けられました。
というのも,個別入試においては,とっくの昔から英語4技能の入試への活用が始まっていたからです。
ちなみに,文科省が公表している「国公立大学入学者選抜の概要」をみると,総合型選抜(かつてのAO入試)を実施する大学の数は年々上昇傾向にあります↓
全国公立に対して総合型選抜を実施している学校の割合は,令和6年度のものでも58.7%と半数を超えており,学校推薦型選抜においても96.6%と,軒並み高水準を維持していました。
そして,これらの書類審査の中に英語4技能を評価に含める大学は多く,その数は年々増えてきているというわけです。
このように最近は入試制度も多様化してきているものの,CEFRでB2レベル以上に達している高校生であれば,推薦型選抜に限らず一般選抜においても受験を有利に進めることができます。
例えば,以前私が受け持っていた立教大学志望の高3生で,英語が得意ではないけれど,国語と数学は得意だという生徒がいたのですが,彼女は英検2級を持っていたために,「グローバル方式による2教科受験(英語以外の国数で勝負できる試験方式)」を視野に入れた勉強計画が選択可能となりました。
多くの場合,英語4技能テストを利用する方が一般で受けるよりも有利な倍率で受験することが可能で,英語力が一定レベルに達していることが証明できれば,入試での英語が満点扱いになるなど良いこと尽くしです。
参考までに,2025年度の文化構想学部の募集要項を見てみると以下のようになっていました↓
B2レベル(英検準1級)にわずかに届かないくらいで,英語試験は免除です。
早い段階で準1級を取得してしまえば,後は残り2科目に集中するだけで済みます。
今年度の詳細については,受験予定がある大学のHPをみて個別に調べていただくことになりますが,「もっと自分に合った受験方法はないか」という視点で眺めてみることが重要です。
まとめ
以上,CEFRの説明と各種英語試験との関係性に加え,英語4技能をバランス良く伸ばしたことにより大学入試でプラスに働く例をいくつか紹介してきましたが,いかがだったでしょうか。
繰り返しにはなりますが,大学共通テストでは,CEFRで言うところのB2レベルに達していると,受験を有利に進めることができます。
また,その先にある就職や昇進を見据えた場合においても,英語ができると優遇されることに疑いの余地はありません。
社会人になってから,貴重な休日を好きでもない英語の勉強に費やすことは苦行でしかないでしょうから,英語を勉強できる環境が整った学生時代に,何とかある程度の基準に達しておきたいものです。
一度取った資格は永続的に有効なものもありますし,一度英語力を高めてしまえば,落ちてしまった後になって戻すことになってもそれほど難しくはありません。
逆に,これまでに取ったことがない成績を後になってから目指すというのは,よほどの意思がない限りは大変な苦行になってしまいます。
ところで,これまでの大学受験制度を見直してみると,「入試で問われるものしか勉強しない」というのが受験生の基本となる態度であり,学校の英語授業において,例えば外国人教師による英会話の授業や発音の授業は,悲しくも無駄な時間の一つとみなされていました。
質が悪いことに,実際に受験で勝利してしまう子というのは,そういう無駄な勉強を極力排斥し,自分の受験に関係ない教科はすべて内職にあて,学校に頼らず塾の勉強に徹した受験生であることが多かったように思います。
その結果,英語4技能のうち文法や和訳の能力だけが異様に高く,「聞く」と「話す」能力が低い大学生が誕生してしまう運びとなりました。
これが「受験英語は使えない」などと言われる理由に繋がってくるわけですが,最近の教育改革により,従来のCan-Doリストが見直されたりCEFRが採用されたりと,ようやく4技能が評価される時代になってきたのは喜ばしいことです。
特にグローバル化の対応に力を入れている大学であれば,入学前だけでなく入学後においても,英語の資格・検定試験は評価対象になりますし,将来英語力が問われる仕事に就きたい人にとってみれば,この時代の流れは大いに歓迎されるものではないでしょうか。
なお,英語教育は小学校から導入されるようになり,高校での到達レベルもより上がることが予測されています↓
高校でB2が当たり前となると,もはや教員はC1(英検1級のTOEIC945点)が当たり前とされる時代が来るのかもしれません。
最後に,英語はコミュニケーションのツールでもあるわけですから,やはり実際に英語で他人と意思疎通を図ることは重要です。
そのコミュニケーション能力が受験で問われるというのであれば,より一層,「聞く」や「話す」能力の必要性は増すわけで,学校の会話の授業も意味のあるものとされ,授業に耳を傾ける生徒が増えることにつながるのではないでしょうか。
もちろん,アウトプットはインプットよりも面白い体験となりがちですから,相乗効果で読み書きの能力も上がりやすくなるかもしれません。
とはいえ,「従来の日本の詰め込み教育の良い部分が失われてしまう」という意見もありますので,その問題も考慮に入れて,しっかり話し合って意見を出していかなければいけない問題でもあります。
いずれにせよ,切り替わり時期というのは色々と後手後手に回ってしまうものですので,世の中の流れに動揺することなく,普段から英語の4技能全てを高める勉強を心がけましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました。