当記事は,過去に実施が予定されていた「大学入試英語成績提供システム」についてまとめたものです。
2020年(令和2年)度から始まった共通テストの枠組みの中で,英語4技能を適切に評価するために民間の資格・検定試験の成績を活用するという試みでしたが,共通テスト直前の2020年11月に本システムの導入が見送られることとなり,世の中を大いに騒がせました。
記述式の導入も併せて,実施が困難であると判断されたのが理由ですが,その後2021年7月の会見において,文部科学省大臣の口から本システムの廃止についての報告がされています。
ゆえに,この仕組みは砂上の楼閣となったわけですが,そうはいっても,大学入試英語成績提供システムがどのようなルールでもって活用される予定であったかを後学のために残しておくことは重要でしょう。

大学入試英語成績提供システムとは
大学入学英語成績提供システムとは,大学入試センターが設けるはずだった,大学入学者選抜における資格・検定試験の活用を支援するシステムのことを指したものです。
先述の通り,共通テストの導入と同時に開始される予定でしたが,今では廃案となっています。
主な構成要素は
- 英語成績データ確認システム
- 成績受理システム
- 成績提供システム
の3つです。
これにより,受験生は個々に発行されるコード(共通ID)と指名・住所が紐づけされた状態で管理され,試験実施主体(民間試験運営元)・入試センター・大学が彼らの成績情報をやりとりすることができるようになります。
もちろん,こんな面倒なことをせずに,これまで通り入試センターが英語の試験を実施してくれれば話は早かったのですが,英語4技能(特に「話す」と「書く」能力)を適切に評価するのはそれだけ難しいことなのでしょう。
共通テストの受験者数は2020年度のデータで53万人以上とされていて,彼らを対象にスピーキングとライティングテストを,公平を期すために同じタイミングで一斉に行うというのは不可能だということがわかったわけです。
ちなみに,この成績提供システムに採用される民間試験は複数種類が決まっていて(後述),受験生が入試センターに成績送付を依頼すると,スコアだったりCEFRのレベルや合否だったりを必要に応じて大学側に提供してくれるという話でした。
成績をまとめて管理してもらえるととても便利で,受験生に限らず教員側も,自分の生徒がどの試験を受けたのかがわかるわけです。
いちいち,生徒に詳細な得点を尋ねて回るのは面倒で,正確なデータを即座に得られることはメリットでしょう。
その他,目に留まった特徴をいくつか抜粋してみると,
- 共通IDを発行するために,現役生は在学証明書が,既卒者は住民票などが必要
- 在学者は学校が申し込み,既卒者は直接入試センターに申し込み,費用は無料
- 各種試験は4月から12月までの間に2回まで受けられる
ことが知られていました。
共通IDを複数発行されては困りますので,取得にはやや厳格なルールが設けられるべきですし,受験生の負担ができるだけ少なくなるように努めなければなりません。
3つ目に挙げた「2回まで受けられる」ことについてですが,同一の試験(例えば英検を2回)であろうと異なる試験(例えば英検とTEAP)であろうと,期間内に受けた最初の2回分しか成績として使えないという内容です。

それでは次章で,本システムに参加することが決まっていた試験についてまとめていきましょう。
英語成績提供システムの参加が決まっていた試験
英語成績提供システムでは,以下の要件をパスできた資格・検定試験が採用される予定でした↓
- 日本で2年以上の実績がある
- 英語4技能全てを偏りなく評価できる
- 4~12月に複数回,試験が実施できる
- 適切な検定料である
これ以外にも,CEFRとの対応関係が適切であること,内容が学習指導要領にマッチしていること,採点の質や情報の機密性に関する配慮などが求められた他,先述したように,入試センターが共通IDで受験生を紐づけ,速やかにデータ提供が行えることも要件に含まれていました。
結果として,以下の7つが実際に採択されています↓
補足ですが,例えば英検の従来型のように筆記試験と面接試験が別の日に分かれていたり,1次の筆記試験の合格者のみが2次試験に進めるといった形式では,スピーキングを受けない受験生も出てきてしまうわけですから,4技能を正確に測定できたことにはなりません。
そのため,上記試験はすべて入試改革用に修正が加えられ,例えば英検では,4技能すべての検定が1日で完結する形に変えられました。
こうした変更は今でも残っています。

英語成績提供システムで民間試験を受けるときの注意点
大学入試に関わるあらゆる試験は,高校の学習指導要領に準じた出題になりますので,特に余計な範囲までを学習する必要はありません。
ですが,大学によっては使える資格・検定試験が異なる可能性があるため,受験予定がある複数の大学で広く使える試験を受けることが1つ目の注意点です。

これは,英語成績提供システムに限らず,大学入試全般に当てはまることだと言っても過言ではありません。
2つ目として,学習者との相性の問題があり,試験によって対策が立てやすいものと立てにくいものがあるわけです。
対応している問題集の数でみても,受験者数が多い試験はその分,色々な種類の参考書が出ています。
なので,高校3年生になるまでにお試し感覚でいくつか受験しておき,試験殿相性をチェックしておくのが理想でしょう。
英検は今後も根強い人気を誇るでしょうが,都内の高校だと,最近はTEAPも宣伝を兼ねたキャンペーンが積極的に行われるようになっています。
私がTOEICのS&Wのテストを2019年に受けた時,会場には多くの高校生が来ていましたが,先述したように本システムをいち早く辞退することになったため,あの場で受験していた学生の中には複雑な心境になってしまった人がいるかもしれません。
とはいえ,「振り回されてしまった」と嘆く高校生が私の周りに少なかったのが救いです。
僻地に住んでいる高校生だと,試験会場が遠すぎることも問題で,これもまた本システムを見送る原因の1つとなりました。
公平な受験機会を提供するという観点から,各種試験の受験料も重要でしょう。
英語成績提供システムの実施スケジュールについて
ここでは,英語成績提供システムのかつての導入スケジュールについてまとめています。
日程は上記のように発表され,共通IDの発行は「集中発行申込期間(2週間)」と「追加発行申込期間(7ヶ月強)」の2つが期間として設けられていました。
とはいえ,現役生は学校経由で申し込むことの方が多かったでしょう。
その場合,高2の12月における約1週間が該当期間でした(2019年の12月2日~10日)。
続けて,共通IDが送られてきますが,高2の冬(1~2月)には届きます。
IDの追加発行申込期間の受付分については,入試センターが受理してから30日以内に送付されるとのことで,高3になったら4月から12月の間に共通IDを記入して試験を受けることになっていたはずです。
試験を受けたタイミングごとに成績を確認できる時期が変わってきますが,以下のように3つの受験期間が設けられていました↓
- 期間A:高3の4~7月
- 期間B:7~9月
- 期間C:8~12月
前章で述べたように,2回受験した方が,良い成績の方を使えるので有利である他,できるだけ遅い時期に受ける方が勉強期間が長くなって良い結果に結びつくように思われますが,他の勉強との兼ね合いもあります。
加えて,どの大学も「基準点」というものを設定していて,それさえクリアしてしまえば細かい点数まで見られないのが現状なので,早めに動くことにもそれなりの利点があると分析していました。
こうした受験期のスケジュール管理は,受験の成否を占う立派な勉強法の1つです。
現行の共通テストについては大学入学共通テストとは?センター試験と何が違うのをお読みください。
まとめ
以上,2020年度に実施されるはずだった大学入試英語成績提供システムについて,その概要と採用予定があった各種民間試験について紹介するとともに,どのような点に気を付けて受ける試験を決めればよいかについて考察してきました。
最後,日程についてもまとめましたが,受験戦略をどうするか以外に難しいところはなさそうです。
IDの発行など,現役生であれば高校の方が全部やってくれるので特に問題は生じませんでしたが,詳しく触れなかった検定料や,大学の募集要項を実際に目にしてみると,実施困難であることがわかってしまったわけです。
今回まとめた内容は文部科学省のサイトで一部を確認することができます。
最後までお読みいただきありがとうございました。