今回は,日本数学検定協会が実施する「数学検定」について,その概要と受検する目的を中心にまとめていこうと思います。
第1回の試験が行われたのは1992年のことで,これまでに400回以上の試験が行われてきましたが,Society5.0の時代において数学はその重要性を増しており,たとえ文系の大学に進んだとしても教養として備えておくべきものです。
実際,解に至るための論理的な思考能力は日常生活における的確な判断に繋がりますし,社会に出てからデジタル化したサービスやプレゼンのための図表を作る際などに数学の知識を使います。
学生に身近なところだと,就職試験でも数学的な力が問われることになるはずです。
もっとも,そうした能力を測る検定は同協会が別の物を用意しているのですが,入試においても数検は利用できますし,小中高生が実力試しとして定期的に受検すれば弱点分野の把握ができる他,純粋に数学を勉強するためのやる気アップに役立てることも可能でしょう。
当記事で,数検により興味を持ってもらえたら幸いです。
数検の級と合格率について
数学検定には1~5級までの全部で7つの級がありますが,実際はその下に「算数検定」と呼ばれる6~11級やかず・かたち検定も同じ数が存在します。
「準」が付くのは準1級と準2級のみですが,各級の出題範囲となる学年は以下の通りです↓
数学検定 | 算数検定 | ||
1級 | 大学 | 6級 | 小6 |
準1級 | 高3 | 7級 | 小5 |
2級 | 高2 | 8級 | 小4 |
準2級 | 高1 | 9級 | 小3 |
3級 | 中3 | 10級 | 小2 |
4級 | 中2 | 11級 | 小1 |
5級 | 中1 | かず・かたち検定 | 幼児 |
ただし,目安となる学年はあくまで「そこまでに習った全範囲から出題する」的な意味にすぎないため,例えば数検3級の出題内容を詳しくみてみると,
- 中学3年レベル30%
- 中学2年レベル30%
- 中学1年レベル30%
- 特有問題10%
といった具合に,純粋に中学3年レベル以外の問題も見受けられます。
かといって,中学2年生までの内容しか学んでいない生徒が3級を受けて合格できるかというと,1次検定の合格基準が70%以上正解することとなっているため,突破できる可能性は低いです。
なお,数学検定には1次と2次があり,前者は計算技能検定,後者は数理技能検定ということで出題意図が異なっています。
簡単に言えば,1次検定で計算力を,2次検定で論理力を測定されるわけです。
特に後者は,問題の多くが記述式の問題であるところが特徴的で,証明問題に代表される論理的な書き方は数学ならではですし,マーク式問題とは一味異なります(テスト中に机上に出しておけるものも多少異なり,2次検定でのみ電卓や定規・コンパスの使用が認められています)。
先に合格基準について少し触れましたが,数学検定においては1次で70%以上,2次では60%以上が目安となっていて,最近の合格率は以下の通りでした↓
数学検定の合格率(2023年度)
- 1級は8.5%
- 準1級は20.9%
- 2級は32.3%
- 準2級は41.8%
- 3級は67.1%
- 4級は67.6%
- 5級は69.3%
年度によって多少の違いはありますが,合格率が10%以上変わるようなことはないため,問題は良質であると判断できます。
難しい級になるにつれて合格率は下がっていく傾向にあり,1級ともなると合格率が10%を下回ることも少なくありません。
なお,過去5年間の志願者数はどれも30万人以上となっていました(参考)。
私の塾に来ている中学生は学校で半ば強制的に受けさせられているとのことで,団体受験も多いのでしょうが,準1級~2級までの検定はほぼ毎月のように行われています。
確かに,個人で1級を受けたいとなれば,1年で受検できるチャンスは4月・7月・10月の全3回に制限されてしまいますが,準1級までなら提携機関が運営する会場を利用することができ,受験回数は多いです。
検定料は基本級ごとに異なる他,個人受検と団体受検でも異なります。
例えば2級だと個人受検が6500円で団体受検は5600円,準1級はそれぞれ7300円と6400円です。
上記料金も2024年に改訂されたばかりですが,日程も含めて,最新の状況は数検のHP上で確認するようにしてください↓
公式サイト
数検の受検目的について
数検は,入学試験に利用する他,弱点範囲を把握するためだったり,やる気アップに使われたりもします。
ここでは,受検目的について詳しくみていきましょう!
入試に利用する
数検は多くの高等専門学校や高等学校,中学校,そして大学や短大,専門学校で入試優遇制度の対象になっています。
公式サイトをみると,2022年7月調べで全国1090以上の中学や高校,全国530以上の大学や専門学校で利用されていると書かれていました。
高校入試において中学生が加点を望む場合は,先に示した表からもわかるように,数検3級以上が評価対象となっている学校が多く,理想は準2級以上です。
というのも,いわゆる中高一貫校に通う場合,公立中よりも数学の進度が早くなっているからで,中3で高1内容に入ることも珍しくありません。
ちなみに,以下の画像は都内の一部高等学校の入試における数検活用の例ですが,内申に加点される学校が多く,準2級と3級とで明確な差を付けているところが多数派となっています↓
内申点に1点が加算されるところもありますが,学校の成績で評定を2から3に上げるのであればまだしも,評定が4の教科を5に上げることは本当に難しいものです。
なので,難しい私立高校を受けようと思う生徒ほど数検を利用する恩恵は大きくなるように感じられますし,数学IAまで中学のうちに学んでおくことは入試問題を解くときにも役立つでしょう(国公立と異なり高校範囲の出題も見られるため)。
次に大学入試においてですが,高校入試と比べて受験生の数学力に格差がより生じやすくなり,実際,評価対象となる級の幅も広いのですが,数学IIBまで学んだ生徒は2級に,数学IIICまで学んだ生徒は準1級に合格しているのが通常です。
もっとも,高校生レベルともなると,数学オリンピックに出場経験のある生徒も競争相手になってくるため,総合型選抜の自己アピールの参考資料となるくらいで,どちらかといえば後述する弱点把握の目的で勉強している間に合格していることの方が多いように感じます↓
弱点分野を把握する
数検を受検する目的として「弱点分野を把握すること」を挙げるのは大変理に適っていると言えるでしょう。
問題は良質で,計算や作図,統計や証明といった実用的な技能だけでなく,記述式問題で論理構成力を測ることもできる数検です。
実際,文部科学省の「高校生のための学びの基礎診断事業」にも認められました(例:準2級と3級)。
前章では述べませんでしたが,2級以上に合格すると高等学校卒業程度認定試験(かつての大検)の数学科目が免除になります。
なお,数検を受検すると「個別成績票」というものを受け取ることができるのですが,そこには各項目における得意・不得意がコメントとともに記述されているのが特徴です↓
特に,全体の正答率が高いのにもかかわらず自分が間違えてしまったもの(上記画像では赤色で塗られた「平方根」や「空間図形」の単元)は,学校で配られている問題集などを使って別個に学び直しておきましょう。
やる気アップに役立てる
数検は細かく級が分かれているので,どのレベルからでも始められて,各自が自分の実力にあった目標を設定できるところが強みです。
費やした努力は「合格証」という形になってしっかり報われるので,やればできるという達成感は自己肯定感のアップにつながり,後の人生にも良い影響を与えると言っても過言ではありません。
数検の公式サイトにおいて合格者の体験談を読むことができますが,
合格できて嬉しかった
というコメントと,
問題を解く中で数学の楽しさに気が付きました
というコメントは,多くの受検者の間で共通しています。
大人になってから数学をやり直す人たちの中でも数検は人気のようで,何歳になっても挑戦しようとする姿勢は美しいものです。
私の周りにおいても,祖父が晩年になってからユークリッド原論を読み始めていましたが,純粋に興味本位で学ぶだけでなく,数検合格をモチベーションに学んでみるのも面白いのではないでしょうか。
まとめ
以上,数検の出題範囲や合格率の話から始まり,受検する目的に関して,入試利用や弱点の発見,さらにはやる気アップに役立てることについて詳しく述べてきました。
数検は合格することで入試優遇措置などで恩恵を受けられる他,数学が得意になることで,数字を介した物の分析ができるようになります。
数学を通して論理力が磨かれるからか業務処理のスピードが上がるからかわかりませんが,就職試験で有名なSPIを例に出すと,数検の準2級の問題と74%が共通だということです。
なお,もし勉強法に悩むようでしたら,小学生は以前記事にしたRISUというタブレット教材を利用することで先取り学習がしやすくなる他,より他教科に対応できるスタディサプリのようなオンライン教材も独学する際に使いやすいと思います。
人が歳を重ねた後に頼れるものは,これまでの人生で培った「論理」に他なりません。
そのことを,まさに今回の数検の勉強を通して感じ取ることができるでしょう。
最後までお読みいただいた方,大変ありがとうございました。