社会人が受けるイメージの強い「TOEIC」ですが,2020年の入試改革の際はかつてのセンター試験に代わる英語の民間テストとして採用される未来もありえました。
ですが,後述するように参加表明を真っ先に取り下げる運びとなり,さらにその後,英語成績提供システム自体が見送りになってしまったこと記憶に新しいです。
とはいえ,TOEICが大学入試に使えなくなったわけではありません。
これまで通り,今でも総合型選抜や一般選抜を有利に進めていくために用いることができます。
ここでは,2020年度以降,TOEICがどのような形で大学入試に使われているのか,最新の情報をまとめてみることにしましょう!
TOEICと英語成績提供システム
もう5年以上前の話になりますが,2018年3月,TOEICの大学入試英語成績提供システムへの参加が認められました。
大学入試で英語4技能の試験をするのは入試センターではなく民間に任せようということで,TOEICもその1つになるはずでした。
もちろん,それ以前からTOEICを大学入試に活用することは可能だったのですが,2020年度からは,より大規模に用いられるという話になり,その実施日が近づくにつれて,多くの人の視線が新システムに向けられるようになっていきました。
それが,2019年7月に以下のプレスリリース(「大学入試英語成績提供システム」へのTOEIC® Tests参加申込取り下げのお知らせ(2019年4月4日取得))が公表され,多くの受験関係者が驚かされたわけです↓
本システムへの社会的な要請が明らかになるにつれ,それらに対応するためには,受験申込から,実施運営,結果提供に至る処理が当初想定していたものよりかなり複雑なものになることが判明してまいりました(~中略~)これ以上意思決定時期を遅らせることで,受験者の皆様をはじめ,保護者,学校関係者の皆様にご迷惑をおかけしないように,当協会といたしましては,「TOEIC L&RおよびTOEIC S&Wの大学入試英語成績提供システムへの参加申込を取り下げる」との判断に至りました。
通常「TOEIC」といえば600点とか750点といったスコアで語られるテストを思い浮かべると思いますが,それは厳密にはListening & Reading Test(L&R)のことを指していて,その名の通り「聞く」と「読む」の2技能しか測れません。
しかし,2020年以降の入試では英語の4技能をバランス良く養成することが求められるようになり,大学入試英語の成績判定に用いられるテストはL&Rだけでは不十分でした。
そこで,残りの「話す」と「書く」能力を測れるSpeaking & Writing Tests(S&W)も一緒に受けることで不満点を解消できる話になったのですが,L&RとS&Wが別々に実施されるという点が,大学入試センターとの協議を難航させてしまったようです。
平等性を期すためには同一のタイミングで試験が行われるべきであり,受験しやすいように料金や会場場所も考慮すべきとなると,元々の実施回数が年10回だったL&Rと年24回のS&Wでありましたし,S&Wの受験地が全国主要都市に限られる点が仇となりました。

なお,料金についても高額で,L&Rの受験料は7810円ですし,S&Wに至っては10450円もかかるわけです。
つまり,英語のテストだけで計18260円がかかることになり,これは大学入学共通テストの18000円(3教科以上受験で成績通知を希望しない場合)と同等ですし,英検S-CBTの9000円(当時の2級料金,現在は9700円)と比べても高額であることがわかるでしょう。
なお,S&Wでは受験者が回答した音源をアメリカのETSに送り,そこで複数の試験官が採点するなどの手間がかかるため,値段はそれでもギリギリまで抑えられていると聞きます。

実際,日本の運営元であるIIBC(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)が「今後,大学入試目的で受験する方が増えると,それに対応するための費用は増加し,厳しい状況が続く」と語っていました。
こうした諸々の事情により,社会通念上の「受験しやすさ」を満たせそうになかったというのが結論です。
大学入試で利用できるTOEICの種類
これは2022年度の大学入試で,TOEICスコアを活用している大学の数を示したものですが,調査した788校のうち42%にあたる332校がそれに該当していました(引用元:TOEICの大学入試の活用状況)。
なお,自分が近々受けるであろう大学が実際のところどうなっているかは,最新の受験要項を確認する必要がありますが,ここでは大学入試で使われる可能性の高い「L&R・S&W・TOEIC Bridge L&R」という3つのテストについてみていきましょう!
L&R
「L&R」は最も有名な,まさにTOEICの代表格で,普通TOEICと言えばこれを指します。
内容は2時間ぶっ通しでリスニング100問とリーディング100問の計200問を解く過酷なテストとなっていて,他と比べて受験者数は圧倒的に勝っており,その理由は社会人の英語力証明に使われているところが大きいのですが,大学入試においてもこのスコアを活用できる場面は多いです。
以下に実際の利用例を挙げますが,選抜方式や学部などの詳細は省いていることにご注意ください↓
実際のL&R利用例
国公立:東北大785点,神戸大750点,福島大480点,海洋大400点など
私立大:青山大700点,桜美林大550点,成城大520点,工学院大400点など
大学の中にはスコアが高くなるほど,加算される得点が多くなるところもあります。

S&W
次の「S&W」はコンピュータを使って受けるテストで,スピーキングではヘッドセットを使って自分の声を録音し,ライティングでは英文をタイピングして入力するのが特徴です。
指定されたテストセンターで受けますが,最初の20分でスピーキングを,後半の1時間でライティングを行い,途中に休憩はなく,用意ができた人から順に受けて早く終わった人から帰って行きます(集合時間は決まっています)。
かなり特殊な試験ですが,最近では英検S-CBTも似た方式を取るようになっていますし,L&RとS&Wの両方を求める大学が今後増えることになっても何らおかしな話ではありません。
スコアは10点刻みでそれぞれの技能で200点満点の,計400点のテストです。
実際大学入試に用いるにあたって,S&Wのスコアを2.5倍にして計算する場合もありますが,これはL&Rの満点と同じにする意図があります(厳密に言えばL&Rは990点満点なので,ほんのわずかにS&Wの方が配点にしめるウェイトが高くなりますが)。
また,S&Wのスコアの提出だけを求めてL&Rは不問とするような大学はありません。
どちらかと言えば,L&Rでは目標点が取れる人がS&Wの能力も問題ないことを示すためのものであり,基本的には英語4技能でもって評価される場合が大半であることを覚えておきましょう。
以下に過去の例を挙げましたが,国公立大のみS&Wはすべて2.5倍で計算しています↓
実際のS&W利用例
国公立:東北大1560点,筑波大1150点,千葉大1420点,東外大1560点など
私立大:法政大850点,工学院大575点,駒澤大700点,芝浦工業大790点など

Bridge L&R
最後の「TOEIC Bridge L&R」は,通常のL&Rよりも試験内容は簡単で,初・中級者の基礎的な英語能力が測定できるTOEICの弟分みたいな存在ですが,扱うテーマがビジネスシーンではなく,日常生活に寄った仕様となっているところが特徴です。
導入している大学の数こそ少ないですが,実は大学入試向きのテストだと言えるかもしれません。
リスニングを25分で50問,そしてリーディングは35分間で50問を解き,計1時間100問になりますので,長さ的にもより受けやすく,S&Wのテストもあります。
大学入試ではBridge L&Rのみしか受け付けないところは存在せず,通常のL&R以外にBridgeの方でも申し込めるよというスタンスです↓
実際のBridge L&R利用例
玉川大94点,杏林大85点,大東文化大69点など
大学入試にTOEICを用いるメリット
大学入試ではどちらかと言えばビジネス的な英語よりも学術的な英語を目にすることの方が多いでしょうが,TOEICを利用することにいくつかのメリットがあることも確かです。
ここでいくつか紹介しましょう。
受験での選択肢が増える
入学後もTOEICが単位として認められるところもあるくらいですから,入試でTOEICを利用できる大学があることは想像するに容易く,判定の際に有利に働いたり,出願資格に使われたりします。
基準点の例は先に示したので省略しますが,
- L&Rは500~650点
- S&Wは240点
を目標に考えておくのが良いでしょう。
もちろん,スコアが高いに越したことはなく,英語に力を入れている大学の場合では,L&R+S&Wの合計で1200点以上を求められることも少なくありません。
一般選抜の方が総合型や学校推薦型よりも求められるスコアが低い傾向にあり,もちろんそれ相応のスコアが求められることにはなるのですが,英語の試験を免除にしてくれる場合は特に,多様な勉強戦略を取りやすくなります。
例えば高2までに基準をクリアしてしまえば,高3で2科目だけに専念するだけで済むかもしれません(もちろん,大学入試英語で周りに大きく差をつけることもできるでしょう)。
将来的に役立つ
大学に入ってから,学生の英語能力ごとにクラス分けが行われることも少なくありません。
その際に用いられるテストはTOEFLや大学独自のものである場合も多いですが,TOEICであることもあります。
また,大学によってはTOEIC対策の講義が行われているところも少なくなく,先述した通り,単位として認定されることがあるかもしれません。
スコアは生涯有効であるため,将来的に就職活動するときにも役立ちます(この場合,直近の2年分などの条件が設けられることもあります)し,さらなるスコアアップを求めて勉強しようと思った際にも,一度TOEICを勉強した経験は生きてきます。
社会人になってからの昇給や昇進にも影響する可能性が大です。
といったわけで,将来的な役立ち度でみれば,高校生の段階から勉強し始めることにもメリットがあります。
まとめ
以上,大学入試英語成績提供システムについて触れた後,3つのTOEICテスト(L&R・S&W・Bridge L&R)がどのような形で2020年度以降の大学入試に活用できるかまとめてきました。
最後に,今回紹介したそれぞれのテスト内容について実施概要を箇条書きにしたのでご確認ください。
まずはL&Rテストについてです↓
- 年18回の試験日(都市によっては未実施月もあり)
- 全都道府県で実施
- 受験料は7810円(個人受験の場合)
- マークシート方式(PBT)
- 時間はリスニング45分,リーディング75分の計120分
- スコアはどちらも5~495点の5点刻み
続けてS&Wについてですが,
- 毎月実施
- 受験地の数は14
- 受験料は10450円
- テストはパソコンを用いたCBT形式
- スピーキングが20分,ライティング60分の計80分
- スコアはどちらも0~200点の10点刻み
のようになります。
最後,TOEIC Bridge L&Rについては以下の通りです↓
- 実施は年6回
- 受験地は全国23都市
- 受験料は4950円
- マークシート方式(PBT)
- リスニング25分,リーディング35分の計60分
- スコアはどちらも15~50点の1点刻み
大学入試英語成績提供システムの見送りにより,共通テストにおいては大学入試センターが作成した英語テストをしばらくの間は利用していくことになります。
共通テストについて詳しくは大学入学共通テストとは?センター試験と何が違うのを参照してください。
最後までお読みいただきありがとうございました。