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GIGAスクール構想の現状と今後について

まもなく到来する「Society5.0」と呼ばれる社会においては,予測不能な状況が起きればICTを活用しては問題解決にあたり,各々が工夫を凝らしながら社会に参画していくことが求められるわけですが,そのためには十分な準備が必要です。

教育機関においては,そのための初めの一歩として,各自が情報端末を使って学ぶことを決めたわけですが,同時にネットワークの整備も必要となりますし,指導する側の資質や能力についても何らかの策を講じなければなりません。

加えて,これらの準備を実現するためには世間の理解が必要で,それなしには多くのお金や労力を費やすことはできないわけです。

そこで今回は,令和時代の学びを支える「GIGAスクール構想」を取り上げ,その概要や現状について理解する他,今後の状況についてもまとめてみることにしましょう!

GIGAスクール構想とは

GIGAスクール構想ですが,2019年12月19日に文部科学大臣を本部長とする「GIGAスクール実現推進本部」が立ち上がったことが始まりです。

GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allを略した言葉であり,日本語に訳すと「万人を対象とした,包括的かつ革新的な玄関口」といった意味になります。

その役割は学校が引き受けることになるわけですが,具体的に何をするかはさておき,これまでにない教育が行われることは確かです。

これを「令和の日本型学校教育」などと呼ぶこともありますが,ICT機器を利用することで,来るSociety5.0に対応できる資質・能力を育てるための試みとなります↓

令和の日本型学校教育

個別最適な学び:個々の子どもに合わせた指導やデジタルドリルの他,学習状況のモニタリング,最適な教材を提供すること,さらには不登校や障がいのある生徒の支援を目的とする。

協働的な学び:デジタル教科書を基本とし,グループで意見や回答の共有をしたり,遠隔儀中tを生かした他教育機関との連携を通した学びが可能。

校務の効率化:教員の研修や採点業務をどこからでも行えるようになる。

教育データの利活用による効果的な学びの支援:ビッグデータを分析することで蓄積される経験知をベテランから若手に円滑に引き継げる。

これまでの教育は教師が生徒にわかりきったことを半ば押し付ける形でそのまま教えるだけでしたが,令和からは教師は生徒のコーチとなり,批判的能力や挑戦的能力を育てる手助けをしていくことになります。

とはいえ,こういった試みは何も今回が初めてではありません。

実際,今より10年以上の昔である2010年の段階で「フューチャースクール推進事業」という同様の試みがすでに行われていたわけです↓

1人1台のタブレット端末であったり,ネットワークを使った情報共有が行われたりなど,GIGAスクール構想と似た内容も多かったわけですが,当時は学校が所有している機器を貸し出していたところは今や各家庭が端末を購入する形となり,ノートパソコンの普及も多くの自治体で広がりました。

簡単に言えば,従来の「読み書きそろばん」という基礎能力に,新しく「情報活用能力」が加わって昨今の教育改革におけるスタンダードとなったわけですが,後者がこれほどまで騒がれるようになった背景には,2018年のPISAのテスト結果が大きく影響したように思われます。

国際的にみて有意に順位が下がった日本の生徒の読解力を再度向上させるためにも,コンピュータの操作に慣れることが急務とされたわけです。

当時,ICT機器を使って生徒が何かする機会はあまりなく,家に帰って自主的に使うことがあっても,その目的は学習以外のSNSやゲームが中心だったわけで,CBTのテストもまだ稀だっただけにコンピュータで長文を読むことに慣れない日本の生徒がICTの扱いで最下位になるのも当然でした。

こうした背景を念頭におきつつ,次章から,GIGAスクール構想の進捗具合や今後についてみていくことにしましょう。

 

 

コロナ禍におけるGIGAスクール構想

PCルームの様子

GIGAスクール構想ですが,当初は2019~2023年度までの5年を費やす計画だったところを,コロナの影響があって一気に環境整備が進んだ結果,2021年度までに小学校と中学校,2022年度までには高等学校の準備が完了となったのは不幸中の幸いでした↓

休校となって増えたのが家庭学習ですが,従来であれば教科書やプリントを配るだけで良かったところが,GIGAスクール構想下ではそれだけとはいかず,同時双方向型のオンライン指導が注目を浴びました。

もちろん,当時それを難なく実施できた学校は多くなかったので,各家庭においても寝耳に水だったのですが,誰もが対応を余儀なくされたわけです。

そこで国は家庭における通信環境の整備にも予算を計上することにし,結果的に

  • 1人1台端末
  • 高速大容量の通信ネットワーク
  • いつでも使えるクラウド
  • 家庭での通信環境

が,最初の1~2年で一気に揃うこととなりました。

1人1台端末ではアカウントも1人1人別のものにすることが重要視され,ネットワーク状況に関しては,これまで集約接続していた学校も,直接学校からネットワークに接続することで高速化を実現したわけです。

それから月日は流れてさらなる整備が進み,以下にある目標はある程度達成されたと言えます↓

  • 学習者用コンピュータは3人に1~2台分ある
  • 教師1人につきパソコンを1台用意する
  • 大型提示装置は普通教室ごとに1台ある
  • ICT支援員は4校に1人を配備する

といったわけで,GIGAスクール構想における物理的な環境は比較的早く整うことになりましたが,それですぐ生徒がICTを上手く活用できるようになったかと言えば,まったくそのようなことはありません

今回の場合,教師側も新しい環境に馴染めていないわけです。

ICTの操作に習熟する必要があるだけでなく,ルールの決め方であったり(家に持ち帰らせてよいか,どの機能を許可するかなど),モラル教育や効果的な指導案の模索だったりと新たな課題が山積みで,絶対的な力を持ったベテラン教師についていけば何とかなる時代は終わったように思われます。

これからは,教師も生徒と一緒に学んでいく(場合によっては生徒に教えてもらう)ことが新しいスタンダードになることが予想され,実際,教師を対象にした研修会でも普通に言われていました。

というわけで,コロナ禍のときのGIGAスクール構想は,手探りで色々なことをとりあえずやってみる2年間でした。

生徒に限らず教師も慣れないICT端末を手に取り,生徒にタイピングスキルのような基礎的な内容を指導する一方で,自身は情報モラルに関する問題や持ち帰りまたは使用に関するルール作りについて考えることが多かったように思われます。

深い指導うんぬんの前に,解決すべき問題が山積みだったわけです。

教員間で機器を扱うスキル自体に差があった上,ネットトラブルは日常的に起こり,特に情報モラル教育の必要性が強く認識されたのがコロナ禍におけるGIGAスクール構想だったと言えるでしょう。

今やいじめや誹謗中傷の他,SNSを介して第3者と接触することが発端となって,犯罪に巻き込まれることも他人ごとではない時代になりました。

もちろん,犯罪を行う側の人間が悪いことは明らかなのですが,被害者側としても情報モラルや情報の授業などを通して防衛能力を高めておくことは必要です。

 

 

GIGAスクール構想の現状

ここでは授業スタイルの変化を中心に述べますが,学校では「デジタル教科書」と「学習支援ソフトウェア教材」の2本立てで指導が行われた結果,教師側は,

  • 生徒がイメージしやすい教材を提示
  • 教師から生徒ではなく双方向の授業
  • 学習履歴を残す
  • 生徒1人1人の考えを把握する

ことをしやすくなりました。

グラフや画像の解像度が良くなることで,情報量が増えて生徒が興味を持つ機会は増えるわけで,発表する人がいつも同じになりがちな授業(国語で多い)は少なくなります。

また,教師のICT端末には生徒全員の進捗状況が映し出されるため,多くの生徒の解答例を紹介できる他,指導の取りこぼしも起こりません。

学習履歴が残せることで,教師からの声掛けのようなきめ細やかな対応ができるようになったわけです。

一方で,生徒側も,

  • 調べ学習
  • デジタル技術を駆使した表現や制作
  • 自分に適した学びができる
  • 遠隔教育

の恩恵を受けられるようになりました。

調べ学習では検索作業がメインになりますが,ここで情報を選択することの重要性について学べるわけですし,画像や図表を挿入するといったデジタル的なアプローチに慣れ,文章作成やプレゼンソフトの使い方に精通すれば社会人になってからも役立つでしょう。

一昔前は大学生になってから教わっていたようなことも,今では高校卒業までに身に付けることができます。

同じ授業時間であっても各自が別々の内容を学習することになるため,教室を見渡せば,教師に個別指導される生徒や友達と協働して課題に当たる生徒,はたまた個別にドリルや調べ学習をしている生徒もいるわけです。

令和の生徒はICT端末を手にしたことで,楽しく授業を受けられ,より理解が深まり,マイペースまたは友達と協力しながら学んでいけるようになりました

仲間が音読するのをみんなが揃って聞くようなことはなく,デジタル教科書をクリックすれば済むようになり,あれほど恥ずかしかった英語の音読も今では自宅でAI相手に行うことができます。

図書館の電子書籍を1日貸し切って読むことができたり,デジタル教科書のおかげでQRコードを用いた発展学習が可能になったり書き込んだ内容をクラスメイトと共有したりと,個別最適化以外に協働的な学びにも取り入れられて便利です。

ちなみにデジタル教科書は小5~中3生を対象に以下のように提供されています↓

デジタル教科書の活用状況

令和3年度:全国の40%程度の小中学校に任意の1教科を提供。

令和4年度:英語は国公立は100%,私立は30%ほどに提供。その他教科は1教科に限り一部の小中学校に提供(算数や数学は約20%)。

遠隔教育においては,オンライン英会話や書いた英文の自動添削にスピーキング音声認識を利用できる他,大使館や企業,はたまた別の学校と共同で何かに取り組むことができるので,教師は自分の力でどうこうするよりも,担当者と繋ぐ手腕があることがより評価される時代になったわけです。

プログラミング教育については必修化も相まって,プログラミングサイトの利用者数はここ数年で何倍にも増えています(参考)。

また,2018年の低迷から4年後に行われたPISA(2022年)の結果,日本の生徒は好成績を修めました。

 

 

GIGAスクール構想の今後

ICT機器を利用する子どもとそれを見守る母

GIGAスクール構想の未来についても考えてみましょう。

2021年度からICTを活用した本格的な学びが開始されたと考えると,GIGAスクール構想の下で育った世代が教壇に立つのは早くても2033年になります。

この間,学校では少しでも多くの時間,ICT機器を使い,経験知を蓄えていくことが重要です。

また,2022年11月末に登場したChat GPTに代表される生成AIも情報活用能力の向上に欠かせません。

上手に使うためには,事実と推測,意見を区別できるクリティカルシンキングができることが1つ目のポイントになってきます。

ところで,周りを見渡せば,良い歳をした大人がネットで誰が書いたかわからない情報を鵜呑みにしては生活を左右されてしまっていることも珍しくありません。

ちなみに,私の友人の1人が社会人に向けた教育プログラムを販売している会社に勤めているのですが,一番需要があるのはクリティカルシンキングだと言っていました。

「自分が大学生の時に習った当たり前のことを,大の大人が必死に学ぶなんてね」などと毒づいていましたが,それだけ多くの人が情報についての扱い方を学ぶチャンスがなかったことの裏返しでもあるでしょう。

いずれにせよ,必要とされる資質・能力は中高生のうちからしっかり学んでおくべきです。

2つ目に重要なこととして,これからも様々なチャレンジが行われると思いますが,ICTを上手に活用できているかの検証はたえず必要となるでしょう。

先日,とある中学で,生徒の授業中の集中度をICT端末で読み取って教師が把握できるシステムの実施についてのニュースを目にしました。

個人的な意見にはなりますが,1回しか聴けない授業だからこそ,人は集中して受けることになるわけで,授業をLIVEでやることには特別な価値があります。

いつでも聞けるのであれば,ちょっとくらい聞き逃してもいいやとなるのが人間の性で,そうした油断が授業での理解度に大きな差を及ぼすことは私の塾での経験からも確認済みです。

身近なもので例えるなら,テレビの録画機能が利用できるようになったばかりに,いつか見られるからとただ撮り貯めていくだけで,一向にその数が減らない経験をすることになった方も少なくないのではないでしょうか。

自分がどのような力を身に付けたのかを自覚し,適材適所でICTを使えるようになるからこそICT機器を賢く使えることになるわけで,そのためには学ぶ側が自ら考えていなければなりません。

そのためにも,何か特定の科目というよりも,「探求」または「STEAM教育」と呼ばれる教科等縦断型の授業をより充実させることが重要になってくるように思われます。

学校の授業で学んだことが現実世界において役立つという経験も,大学まで引き延ばさずに中高生の段階からしておくことが必要でしょう。

この他,学校や自治体の格差問題も出てくるように思われ,校務の効率化に関してはまだまだ整備面での課題が残ってるところが多く,国が支援を拡充することになっています(参考)。

なお,国は指導員の不足に関して「AI教育プログラム認定制度」のようなものを始めており,大学や高専において年間目標50万人で数理やデータサイエンスに明るい人材を育てることを決めていることも忘れてはいけません。

 

 

StuDX Styleについて

StuDX Styleで紹介されているICT活用事例

1人1台の端末をどのように使っていけばよいのかについては,先のフューチャースクールではないですが,すでに導入していて久しいところに習うか,良く知った人物に教えてもらうことが一番です。

これまでに上手くいった事例をまとめているのが「StuDX Style」というサイトで,これは全国の教育委員会や学校も利用しています。

GIGAスクール構想では,文字入力やクラウドを使う操作スキルであったり,情報を収集するスキル,さらには分類したり比較するための思考スキルだったりが求められますが,学習習慣を身に付けることや情報モラル教育も必要です。

学習態度の変化につきましては,これまでは学校で端末をいじっていれば済んでいたところが,これからは文房具のようにいつでもクラウド上からアプリを使って記録を残すことが普通になってきます。

自宅でICT端末を使って,AIドリルや授業の課題を行う機会も増えるでしょう。

いつでもみんなで繋がることができるような場合,わからない相手に教えてあげたり,友達の意見を取り入れて,協働して課題を発見・解決したりすることも期待されています。

このように,各方面での価値観が変わりゆく時代においては,子どもも教師も親も新たに学ぶ必要があるわけで,そこで役立つのがGIGA StuDXにある活用事例集です↓

ICT活用の概要と準備する道具

こうした事例は教師が自身の指導に生かすためのものが中心ですが,以下の作業は子どもがいずれ学ぶことになるため,家庭において日頃から実践しておくに越したことはありません↓

基礎的なスキル例

Web上で誰かに意見を聞く,情報を多様なメディアから集める,作り方や方法を動画で学ぶ,シミュレーションで試行する,未知の用語の意味を調べる,書かれたものや映像を撮る,グラフや図などにまとめる,同一のファイルを複数人で同時編集する,学習を記録する,作品や記録を音で残す

こういったスキルが,いずれはWebアンケートの作成や調査(分析行為),ランキング付けや他人の答案を採点する(評価行為),研究発表や業務の設計や管理(創造行為)へと繋がっていきます。

なお,先のサイトを運営するのは文部科学省ですので,信頼できる内容であることについては言うまでもありません。

時間が経過するとともに,良い事例が次々と生まれては追加されているので,是非チェックしてみてください。

 

 

まとめ

以上,GIGAスクール構想についての概要と,環境や指導面の現状と今後,さらには実際に行われている事例を紹介するサイトについても紹介してきました。

従来型の学校教育しか知らない大人からすれば,生徒が教科書とノートで学ぶ以外に,パソコンで学習を振り返ったり,私語を慎むどころかにぎやかに授業が行われたりすることに驚いたかもしれません。

前章で紹介したStuDX Styleに関しては,家庭においても実践しやすく参考になることも多いように思いますので,それこそ,保護者が子どもと一緒になって学んでみると令和らしい学びになるかと思います。

また,地域によっては教師がすべての内容を知っているわけではない授業が行われたり,クラウドとという馴染みのないものを相手にすることに不安を覚えることもあったりするかと思いますが,そこは授業観や学習観の変遷期ということで目をつぶるようにしてください。

これからの時代,とりあえずやってみることは重要です。

新しい時代かつ個別最適化された方法で,生徒たちがICTの恩恵を目いっぱい享受できる指導が行われ,多様な他者を相手にとって深い学びが実現されることを祈っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

  • この記事を書いた人
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スタディサイトの管理人

通信教育の添削や採点業務に加え,塾や家庭教師を含めた指導歴は20年以上になります。東大で修士号を取得したのははるか昔のことですが,教授から「ここ数年で一番の秀才」と評されたことは今でも私の心の支えです。小学生から高校生にまで通ずる勉強法を考案しつつ,気に入って使っているスタディサプリのユーザー歴は6年を超えました。オンラインでのやり取りにはなりますが,少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです!

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