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教育現場でのICT環境の現状について

毎年,文部科学省のHPで最新の「学校における教育の情報化の実態に関する調査結果」を確認することができます。

そして,教育現場におけるICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)環境は,最近の教育改革における主要テーマの1つとなっていて,21世紀型の新しい学習スタイルの確立に直接影響を及ぼす可能性を秘めているわけです。

今回はそんなICT環境の現状について,

  1. 学校におけるICT環境の整備状況
  2. 教員のICT活用指導力

の2つの面からみていくこととし,どのような態度でもって現行の教育改革に向かい合っていけばよいのか考えてみることにしました。

とはいえ,まずはICTを用いた学びについてまとめておくことにしましょう!

ICTを用いた学びについて

ICT環境の整った教室

ICTは学校において「一斉学習・個別学習・協働学習」といった3つの学びに活用することができるとされています。

ICT環境が整うと,これらの恩恵を受けられるようになるわけですが,それぞれどういった特徴を持っているのでしょうか。

以下で詳しく,これらについて1つずつまとめていきたいと思います。

一斉学習

一斉学習とICTの関係

これまでに学校で行われていた授業形態と同じような印象を持つ方が多いと思いますが,ICT環境の整った中での一斉学習では,実際に教師が実演する様子を,電子黒板や子どもの持つ情報端末に映したり,カメラで動きを連写したものを使って説明したりすることも可能です。

私が子どもの頃はスライドで示すか,ビデオを流したりするなどしていたところですが,令和の時代においては,より鮮明にかつ素早く行うことができるようになりました。

面白いところでは,体育の授業で水泳やバスケットボールなどを行う際,自分の身体の動きを動画で確認し,画面共有されたお手本と見比べて課題を考えだしたり,物を放り投げた後の動きであったりをスロー再生できたりするところでしょう。

これは何も生徒だけのメリットに限らず,教師側からしても,生徒全員の動作を確認できることができますし(授業中に全員の動作を確認する余裕がないため),もちろん,「圧倒的な量でこれまでにない質の情報が得られる」という点でもICTの強みが生かされます。

最近では,SPLYZA Motionのようなアプリを用いて探求学習を行う小学校も存在しているほどです↓

こうしたデータをロイロノートなどを使って,仲間と共有して意見を出し合うようにすれば,それは高度な一斉学習になります。

以前,とあるTV番組で,前方に進む車から後方にボールを投げたとき,球速と車が進む速度が同じだと,空中にボールが止まったように見える様子を実験していたのですが,こうした面白い実験をICTを駆使して子どもたちに提供できれば,彼らも俄然,積極的に参加してくれるでしょう。

もっとも,これまで白黒でしか示せなかったものをカラーで提示できたり,大きく拡大して示したり,音声と文字をパッと提示できるだけでも教育的には有効なのですが,そのスピード感だったり解像度といった情報量(3次元で示すこともできます)が多ければ多いほど良いのは言うまでもありません。

 

個別学習

個別学習とICT

ICTは個別学習において特に有効です。

1人1人の習熟度や誤答の傾向といったデータを蓄積し,搭載したAIまたは教員がそれを上手に分析することで,各自に応じた課題を提示できるようになりますし,学習ペースも本人に合わせたものにできます

これは,いわゆる「個別最適化学習」と呼ばれるものですが,こうしたAIドリルが最近では一般家庭にも簡単に提供してもらえる時代になりました。

実際,教員側からしても,ドリル型の教科学習用コンテンツは重宝されているはずです。

昔は一部の塾や学校のみがその権利を買うなどしていて,資金力の差が教育格差を引き起こすことにも繋がっていたわけですが,今や安価に利用できるものも増え,上手く活用できているかはともかく,教材は周りに潤沢にあります。

なお,先の体育のアプリの話と似ていますが,PCなどを用いて発音を録音したり,書いたものを入力して残しておくことで,あとになって教員側が個別に評価することが容易になり,集めたデータを有効活用することも可能になるわけです。

ところで,上のアプローチは,英語の資格試験においてスピーキングやライティングを採点する際にも用いられており,デジタルデバイスの扱いに慣れておくことにも繋がります。

これは,国際的な学力調査において,日本人の弱点と考えられたことでもあるので,その対策も兼ねられる一挙両得なアプローチと言えるでしょう↓

英語繋がりだと,オンライン英会話を始めとする新しい学習スタイル(遠隔教育など)が,学校という場においても今後は積極的に取り入れられていくことが予想されますが,最近はネイティブ講師を画面の向こうに置き,英検の面接対策を行う学校などがニュースに取り上げられていました。

 

協働学習

協働学習とICT

私と同じような年代であれば,インターネットを使った調べものやプレゼンテーションの練習は,大学に入ってから初めて行ったという方も多いでしょう。

が,これからは高大接続ということで,より早期のタイミングから行うこととなりそうです。

グループに分かれて役割を分担し,情報端末を用いて同時並行で編集していくような,いわゆる「シェアワーキング」も協働学習の中に含まれます。

最近では,ドラマで流れるような曲を作る際にもこのような形式が取られていることを聞きました。

担当する音楽チームのメンバーが別の国に位置していることも珍しくなく,働く場所や時間を選ばないことは,新しい仕事形態の常識になりつつあります。

ところで,グループで協働作業することで,1人では得られないアイディアが浮かぶということも,多くの方が経験してきたことではないでしょうか。

ここまでに述べた内容の実例としては,アクティブラーニングの記事がわかりやすいです↓

 

 

学校におけるICT環境の現状

学校のPCルーム

それではいよいよ,学校におけるICT環境の整備状況をみていくことにしますが,何をもって状況を評価するかは,コンピュータや電子黒板,無線LANといった各種電子機器の整備率に注目します。

加えて,クラウドと接続するための高速大容量の通信ネットワークや個人ごとのアカウントも同じくらい重要です。

皮肉にも,コロナ禍がきっかけとなってこれらの整備が一気に進むことになったわけで,令和3年度の結果(令和4年3月1日時点。全国の公立学校が対象)をみるに,状況はかなり良いものとなりました。

1人1台のコンピュータ整備率

前章で挙げたようなICT学習を行うためには,学習デバイスとしてコンピュータが考えられます。

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ここでいうコンピュータとは,専用の教室にあるようなデスクトップ型のものに限らず,タブレット型のものも含み,こちらは低スペックなものでも授業に使う分にはそうそう困らないわけですが,安く手に入っても,生徒全員分となるとさすがに高額になってしまうわけです。

なお,理想はキーボード操作にも慣れておきたいところです(会社に入るとキーボードを多用しますし,CBTや大学の課題などもキーボードで入力します)し,家にも持ち帰って使えるということでChromebookが周りでは人気のように感じます。

ノートブックなので持ち運びができますし,Apple IDは個人情報の管理が難しいという観点で敬遠されがちだからです。

それでは,現在の公立では,生徒1人当たりにどのくらいの台数のコンピュータが用意できているのでしょう。

令和2年のデータでは「1台のコンピュータを約5人で使う」でしたが,2年後の令和4年には「1台のコンピュータを0.9人で使う(1人1台端末)」が実現できました

 

学校のコンピュータ数と生徒数の関係

実際,上の数字は学年がごちゃ混ぜになっている数字なのですが,詳しくみても,高等学校で1.4人で1台となっている以外はすべて1人以下となっています。

もちろん,端末が揃っても,ソフトや指導員の質も満たされなければ宝の持ち腐れとなってしまいますし,維持や更新に備える必要もあるわけで,まだまだ油断できない状況です。

各生徒が独自のアカウントを持っていなければ,データを収集しても意味を成しませんし,これからはその次の段階に存在する課題を解決していくことになります。

長期休暇の際に許可がいる学校や,フィルタリングや使用時間に制限を設けるかどうかといった議論はまだまだ始まったばかりです。

とはいえ,デジタル教材の導入(そして次に紹介する大型提示装置の導入)で,より良い授業が行えるようになった教員は多いと聞きます。

期待しておきましょう!

 

大型提示装置と無線LANが完璧に整備されている

黒板

電子黒板は,教員が教材を生徒に提示するために使われるのが主です。

普通の黒板と異なり,写真を拡大して見せたり,音声や動画も再生できるのが強みだと言えるでしょう。

実際,iPadを購入している人のレビューには,教員で実際の授業に(電子黒板などの投影用などで)使う予定だという方もいますし,カラフルで刺激的な画像は,子どもの興味や関心を高めるのに役立ちます。

文科省は平成30年までは電子黒板の整備率を調査していましたが,それ以降,プロジェクタやデジタルテレビも含めた「大型提示装置」の整備率を調査するようになりました。

そのため,データをこれまでとつなげて評価することはできないということで波線が入っていますが,以下のデータだと8割以上に整備されたということで,これは2年前の1.4倍です↓

効率学校における大型提示装置の整備率

1人1台のコンピュータ環境と大型提示装置はセットみたいなところがありますので,こちらもいずれは100%に近づくでしょう。

なお,普通教室における無線LANの整備率は,教室はもちろん校内で9割以上となっていて,さらに,そのスピードにも気を配っているようです(100Mbps以上でネットに接続できる学校が96.6%)。

以上のことから,学校におけるICT環境についてはここ数年でかなり理想に近づきました。

その他で気にすることとしては,学校からクラウドに接続するときの環境でしょうか。

ネットワーク整備の課題としては予算の確保が難しいところが指摘されていて,回線の容量が増えるにつれて料金の負担が高くなってきます。

その他,カラープリンタや実物投影機の配備も考慮すべき項目で,引き続き見守っていきましょう。

 

 

ICT環境における教員の質

Skillの文字

最後に,教員のICT指導能力についてみていきたいと思います。

教える側が「コンピュータが苦手」などと冗談でも言えなさそうな時代が到来したかと思いきや,実際はICT支援員が配備され,技術的な質問に答えることはもちろん,教員の研修も行ってくれるそうで,「教師が生徒と一緒にICTに慣れていく」方針で授業は進んでいくようです。

もっとも,教員の習熟度が高まるに越したことはなく,文部科学省の本調査においては,教員のICT活用の指導力を,

  1. 教材研究・指導の準備や評価・校務にICTを活用する能力
  2. 授業にICTを活用して指導する能力
  3. 生徒のICT活用を指導する能力
  4. 情報モラルなどを指導する能力

の4つの点から調べています。

Aは,教育効果を高めるための計画ができるか,ネットやCD-ROMでの情報収集に加え,プレゼン能力やデジタル独自の評価ができるかが問われました。

ネットや校内ネットワークを活用し,必要な情報の交換や共有化を図る能力もこちらに含められています。

学校に通わせる親の側からすれば,どのような様子で自分の子どもが学校生活を送っているのかが気になりますし,教員間での情報共有も欠かせません(引継ぎやベテランからの技術伝達に用いることも可能です)。

Bでは,資料を効果的に提示でき,生徒の興味・モチベーション・理解を助ける工夫ができるかを自己評価します。

CとDについては後で考えることにして,まずは結果を見てみましょう↓

教員のICT活用指導力の状況

上記は令和4年3月の結果ですが,令和2年と結果を比べてみた場合,Aは86.7%→87.5%,Bは69.8%→75.3%,Cは71.3%→77.3%,Dは81.8%→86.0%とすべて増加しています。

令和2年の結果だと,Bは減少に転じたので意外に思いましたが,ここ最近で再び上がってきました。

Dは昨今ニュースで騒がれていることもあり,相変わらず徹底されているように感じます。

色々な権利(肖像権や著作権など)や常識に加え,犯罪に巻き込まれない立ち振る舞いや個人情報とセキュリティーについても深く学ばなければいけませんが,最近はそういったものの目をかいくぐるような事案が次から次に出てきています。

悪いことをしている側(大体は大人)を教育すべきなのは当然で,子ども側に罪はないのですが,自己防衛は必要です。

なお,Cの調査質問としては,以下のようなものがありました↓

児童生徒のICT活用を指導する能力

この質問は教員を対象に行われたものですが,逆に生徒側の目線になってみれば,

  • コンピュータの基本操作を覚える
  • ネット上の情報を取捨選択できる(ネットリテラシー)
  • ワードやエクセル,パワーポイントを上手く使える
  • 意見交換や話し合いにコンピュータやソフトウェアを活用できる

といった能力が,今後の時代において求められるということを意味しています。

前章と本章の内容に関しては,GIGAスクール構想の記事も参考にしてください↓

 

 

まとめ

カフェで相談する教員たち

以上,教育現場におけるICT環境の現状と今後の課題を中心にまとめてきました。

2020年度はコロナの時代となり,ICTの整備が急速に必要となりましたが,その結果,2022年度には大きな改善を見せました。

すでに1人1台端末や無線LANの整備は理想に近いものが実現され,もちろん大型提示装置は100%を目指したいところですが,現在は次の段階に目を向ける状況となっています。

それは例えば,これらのICT環境を前提に,どの有償コンテンツを採用すべきかであったり,デジタル端末の保管をどうするかという問題もまだまだ存在するでしょう。

加えて,教員が指導する用の端末は1人1台でなかったり,ICT支援員の助けを必要だと感じる教員も多いようです(支援員の配備は4校に1人が目標です)。

生徒側としては,学校の授業時間よりも自宅で過ごす時間の方が長いわけですから,多忙な日常の合間を縫っては,子ども自らICTを上手に扱えるように学んでいかなければなりません。

スマホゲームやSNSなどの悪い面ばかりが強調され,ICTの効果を信じられない人がたくさんいる時代ではありますが,ICTで育った子どもたちが納得させる結果を出すことで,周りの見る目は変わってくるでしょう。

最近では,現に将棋の藤井聡太さんの活躍で,AI相手に将棋を学ぶことが見直されたように思います↓

弟子・藤井聡太の学び方の表紙
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意外なところにICTの大きな可能性は眠っているので,最近のデジタル化政策にいまいち賛成できない方であっても,禁止事項を増やして遠ざけるのではなく,上手な使い方を身に付けさせるようにしましょう

教員任せではなく,保護者も生徒本人に協力していくことが大切です。

なお,今回紹介した調査結果については過去のものも含めて,文科省のHPで確認できます。

最後までお読みいただき,ありがとうございました。

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スタディサイトの管理人

通信教育の添削や採点業務に加え,塾や家庭教師を含めた指導歴は20年以上になります。東大で修士号を取得したのははるか昔のことですが,教授から「ここ数年で一番の秀才」と評されたことは今でも私の心の支えです。小学生から高校生にまで通ずる勉強法を考案しつつ,気に入って使っているスタディサプリのユーザー歴は6年を超えました。オンラインでのやり取りにはなりますが,少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです!

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