毎年,文部科学省のHPで最新の「学校における教育の情報化の実態に関する調査結果」が発表になります。
教育現場におけるICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)環境については,2020年代の教育改革の目玉となるテーマの1つでもあり,21世紀型の新しい学習の成否に直接影響を及ぼす力を秘めているわけです。
今回はそんな,学校におけるICT環境の現状について,
- 学校におけるICT環境の整備状況
- 教員のICT活用指導力
の2つの面からみていくことにし,どのような態度でこれからの教育改革に向かい合っていくべきかについて考えてみることにしました。
ICTを用いた学びについて
ICTは学校において「一斉学習・個別学習・協働学習」といった3つの学びに活用することができます。
本題に入る前に,まずここでICTを活用した学びがどのようなものになるかについてまとめましょう。
一斉学習
ICT環境の整った中での一斉学習では,実際に教師が実演する様子を,電子黒板や子どもの持つ情報端末に映したり,カメラで動きを連写したものを使って説明することも可能です。
後者であれば,例えば体育のときの一連の動きであったり,物を放り投げた後の動きであったりをスロー再生するなどを指しますが,「圧倒的な情報量」という点でICTの強みが生かされることが容易に想像できます。
余談ですが,以前TV番組で,前方に進むトラックの中から後方にボールを投げたときに,その速度が同じだと空中に止まったように見える様子を実験していましたが,まさにLIVEで子どもたちの前で実演できれば,彼らに与える影響もそれだけ大きくなるでしょう。
もっとも,これまで白黒でしか示せなかったものをカラーで提示したり,大きく拡大して示すだけでも有効で,これはこれまでも結構な頻度で行われていました。
個別学習
ICTは個別学習においても有効です。
1人1人の習熟の度合いや誤答の傾向といったデータを蓄積し,搭載したAIがそれを分析することで,各自に応じた課題を提示できるようになりますし,学習ペースも本人に合わせたものにできます。
いわゆる個別最適化学習と呼ばれるものになりますが,こういったAIドリルが最近では一般家庭にも提供されるようになってきました。
なお,PCなどを用いて発音を録音したり,書いたものを入力して残すことができるので,あとになってからの評価も容易になります。
もちろん教師自身が,集めたデータを有効活用することも可能になるわけです(宿題をやっていないけれど家に忘れたことにするといった,昔流の言い訳はできなくなります)。
これは例えば英語の資格試験において,スピーキングやライティングの採点時に用いられるなどしましたが,それが普段の学校での学習に導入された点が大きいのでしょう。
オンライン英会話を始めとする新しい学習スタイル(遠隔教育など)が,これからは学校という場においても積極的に取り入れられていくこととなりますが,最近はネイティブ講師を画面の向こうに置いて,英検の面接対策を行った学校などがニュースに取り上げられることもあります。
協働学習
私と同じような年代であれば,インターネットを使った調べものやプレゼンテーションの練習は,大学で本格的に学んだという方も多いでしょう。
が,これからは高大接続ということで,より早期のタイミングから行うことになりそうです。
グループに分かれて役割を分担し,情報端末を用いて同時並行で編集するような,いわゆる「シェアワーキング」も協働学習の中に含まれます。
最近では,ドラマで流れるような曲を作る際にもこのような形式が取られていることを聞きました。
働く場所や時間を選ばないというのは,新しい仕事形態の1つでもあります。
ところで,グループで協働作業することで,1人では得られないアイディアが浮かぶということも,多くの方が経験してきたことではないでしょうか。
ここまでに述べた内容の実例として,以下の記事も参考にしてください↓
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教育改革が行われるたびに様々な学習法の名前を聞くようになるものですが,最近だと「アクティブラーニング」という言葉をよく耳にします。 これは社会人になってからも役立つ一生もののスキルになりうるもので,生徒が自ら学ぶ姿勢を身 ...
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ICT環境が整った学校とは
それではいよいよ,学校におけるICT環境の整備状況をみていくことにしますが,何をもって状況が良いとみなすかについては,コンピュータや電子黒板,無線LANといった各種電子機器の整備率が重要になってきます。
加えて,クラウドと接続するための高速大容量の通信ネットワークや個人ごとのアカウントも同じくらい重要です。
皮肉にも,コロナがこれらの整備を進めることになりましたが,ここでは理想と現実の間にどのくらいの乖離があるかについてまとめましょう。
1人1台のコンピュータ整備率
前章に挙げたようなICT学習を行うためには,学習デバイスとしてコンピュータが考えられます。
ここでいうコンピュータは専用の教室にあったデスクトップ型のものに限らず,タブレット型も含み,こちらは低スペックなものでも授業に使う分にはそう困らないということで,安く手に入っても,生徒全員分となればさすがに高額になってしまうはずです。
なお,理想はキーボード操作にも慣れたいところです(会社に入るとキーボードを多用しますし,CBTや大学の課題などもキーボードで入力します)し,家にも持ち帰って使えることが望ましいように思います。
それでは,現在の学校(公立の小学校から高等学校まで)では,生徒1人当たりにどのくらいの台数のコンピュータが用意できているのでしょう。
令和2年3月発表のデータによれば,現状は「1台のコンピュータを約5人で使う」ようです↓
とはいえ,上の数字は学年がごちゃ混ぜになっている数字で,詳しくみると小学校では1台を5.5人で使うということで多く感じますが,中学(4.8人),高校(4.1人)といった具合に学年が進むにつれて多少改善されていきます。
3年前から比べると,数字にして1人減った感じですが,それでもまだまだ十分な量が用意されているとは言えません。
教育改革がこれだけ騒がれている世の中においても,一気に整備が進んできていないことを考えると,コストや授業負担などの問題で,簡単に導入するには至らないのでしょう。
ですが,先述の通り,2021年の3月末までにほぼすべての自治体で端末の納入が完了します。
つまり,現在は1人1台タブレットの環境が整った状態です(発表はまだされていませんが)。
なお,それだけでは不十分で,各自が独自のアカウントを持っていなければ,データが意味を成しません。
みんなが「ゲスト」で使っていては後での分析もできないので,そちらに伴う整備ももちろん必要です。
大型提示装置と無線LANが完璧に整備されている
電子黒板は,教員が教材を提示するために使われます。
普通の黒板と異なり,写真を拡大して見せたり,音声や動画も表示できるのが強みだといえるでしょう。
実際iPadのレビューには,教員の方が,実際の授業に(電子黒板などの投影用などで)使う予定だという方も見受けられますし,カラフルで刺激的な画像は,子どもの興味や関心を高めるのに役立ちます。
2年前までは電子黒板の整備率を調査していましたが,今はプロジェクタやデジタルテレビも含めた「大型提示装置」の整備率を調査するようになりました。
そのため,データをこれまでとつなげて評価することはできませんが,大体数字を2で割ったくらいでしょう。
少しずつ増えてきてはいるようです↓
大体教室の6割が備えているようですが,1人1台のコンピュータ環境と大型提示装置はセットみたいなところがありますので,こちらもいずれは100%を目指すことになるでしょう。
普通教室における無線LANの整備率はかなり改善され,最近は5割程度(5年前の2倍)になってきましたが,学校内でみればWi-fi環境はほぼ全校に(9割)備わっており,実際にICTの授業に支障が出なければ問題ない整備率だと思います。
教員側のパソコン普及率については,1人1台は2011年頃からすでに実現されていますので,職員室にはWi-fi環境はほぼ間違いなくありそうです。
どのようなICTを使った授業をするのかわかりませんが,100Mbps以上の超高速インターネットは77.8%の学校に整備されており,30Mbps以上に限ってみれば96.2%となっており十分でしょう。
この他,学校からクラウドに接続することも大切です。
ネットワーク整備の課題としては,予算の確保が難しいところで,回線容量が増えるにつれ料金の負担が高くなってきます。
その他,カラープリンタ(学校に1台かそれ以下がほとんど)や実物投影機(3割程度)も配備が進むと良いですね。
ICT環境を生かせる教員の質とは
最後に,教員のICT指導能力についてみていきましょう。
教える側が「コンピュータが苦手」などと冗談でも言えなさそうな時代が到来したかと思いきや,実際はICT支援員が配備され,技術的な質問はもちろん,最近は研修依頼もこなしているようですし,「教師が生徒と一緒にICTに慣れていく」方針で授業は進んでいくようです。
もっとも,教員の習熟度が高まるに越したことはなく,文部科学省の本調査においては,教員のICT活用の指導力を,
- 教材研究・指導の準備や評価・校務にICTを活用する能力
- 授業にICTを活用して指導する能力
- 生徒のICT活用を指導する能力
- 情報モラルなどを指導する能力
の4つの点から調べています。
Aは,教育効果を高めるための計画ができるか,ネットやCD-ROMでの情報収集に加え,プレゼン能力やデジタル独自の評価ができるかが問われました。
ネットや校内ネットワークを活用し,必要な情報の交換や共有化を図る能力もこちらに含められています。
学校に通わせる親の身からすれば,どのような様子で学校生活を送っているのか気になるところですし,教員間での情報共有も欠かせません(引継ぎやベテランからの技術伝達に用いることも可能です)。
Bでは,資料を効果的に提示でき,生徒の興味・モチベーション・理解を助ける工夫ができるかを自己評価します。
CとDについては後で考えることにして,まずは結果を見てみましょう↓
ちなみに3年前の結果と見比べると,Aは増加,Bは75.0%からの減少,Cは66.7%からの増加,Dはほぼ同じ値となっています。
Bは教員自身とても関心が高そうに思っていたのですが意外でした。
Dは昨今ニュースで騒がれていることもあり,相変わらず徹底されているように感じます。
色々な権利(肖像権や著作権など)や常識に加え,犯罪に巻き込まれない立ち振る舞いや個人情報とセキュリティーについても深く学ばなければいけませんが,最近はそういったものの目をかいくぐるような事案が次から次に出てきています。
どちらかというと悪いことをしている側(大体は大人)を教育すべきで,子ども側に罪はないんでしょうけれども。
なお,Cの調査の質問としては,以下のようなものがありました↓
この質問は教員を対象に行われたものですが,逆に生徒側の目線になってみれば,
- コンピュータの基本操作を覚える
- ネット上の情報を取捨選択できる(ネットリテラシー)
- ワードやエクセル,パワーポイントを上手く使える
- 意見交換や話し合いにコンピュータやソフトウェアを活用できる
といった能力が,今後の時代において求められるように思います。
前章と本章の内容に関しては,GIGAスクール構想の記事も参考にしてみてください↓
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GIGAスクール構想と情報モラルの学び方について
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まとめ
以上,教育現場におけるICT環境の現状と今後の課題を中心にまとめてきました。
2020年度はコロナの時代となり,不本意ながらICTの整備も急速に改善しつつあります。
これまでに明らかになった,タブレットの導入の限界や,新しい学びの形ゆえの指導に関する難しさがこれで大きく解決の方向に進んだことでしょう。
ちなみに今回紹介した調査結果については過去のものも含めて,文科省のHPで確認することができます。
ICT環境の整備にまつわる予算は巨額になることもありますし,それらを保護者が負担するBYODという考え方も議論されているほどです。
いずれにせよ,生徒は学校の授業時間より自宅で過ごす時間の方が長いわけですから,前章の調査で指摘された内容をもとに,多忙な日常の合間を縫っては,子ども自らICTを扱えるように学んでいってほしいと思います。
特にスマホゲームやSNSなどの悪い面ばかりが強調され,ICTの効果を信じられない人がたくさんいる時代ですが,ICTで育った子どもたちが納得させる結果を出していけば,周りの見る目も変わってくるでしょう。
現に将棋の藤井聡太さんの活躍で,AI相手に将棋を学ぶことが見直されたように思います。
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今回ですが,今を時めく棋士である藤井聡太さんの師匠が書いた「弟子・藤井聡太の学び方」という書籍をレビューしてみようと思います。 本書を通して,将棋界で活躍でする天才に備わっている資質や能力を学ぶとともに,さらには彼の身近 ...
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意外なところにICTの大きな可能性は眠っているので,禁止禁止で遠ざけるのではなく,上手な使い方を身に付けさせましょう!
教員任せではなく,保護者も生徒本人に協力していくことも大切です。
最後までお読みいただき,ありがとうございました。