2020年の入試改革の1つとして行われたセンター試験の廃止と共通テストの開始ですが,英語については4技能の実施を円滑にするため,いつかは各種資格・検定試験に置き換わることが予見されています。
しかし,有力と思われた大学入試英語成績提供システムは失敗に終わり,それに代わるものについても,当面の間,導入されることはありません。
とはいえ,資格・検定試験の結果を総合型選抜制度であったり特色ある入試形式だったりに利用できることに変わりなく,大学に合格するチャンスを広げてくれるでしょう。
当サイトでは,そうした英語民間試験の理解を深めるための記事をいくつか書いていますが,今回はその中から「IELTS(アイエルツ)」という試験について解説します。
IELTSとは
IELTSを「アイエルツ」と読めるようになることが,最初のステップかもしれません(笑)
これは「International English Language Testing System」の略で,「アイイーエルティーエス」などと呼んでも問題ないのですが,愛称なのでしょう,どこを見ても「アイエルツ」と書かれているので,後者の名称で覚えておきましょう。
世界では140を超える国で受験できるメジャーな試験で1.1万以上の組織が採用しているIELTSですが,国内では日本英語検定協会とブリティッシュカウンシルの2つが主に運営し,現在のところ,以下の16都市で受験することが可能です↓
IELTSの会場例
札幌・仙台・埼玉・東京・横浜/川崎・長野・金沢・静岡・名古屋・京都・大阪・神戸・岡山・広島・福岡・熊本
このうち,東京と大阪ではほぼ毎週実施され,コンピューターを介さないテスト形式も人気です。
次に,IELTSには,利用目的別に2種類のテスト(モジュールと呼ばれる)があることを理解しましょう。
一つは英語圏の大学などへの留学を目指す方に向けた「アカデミック・モジュール(AC)」で,もう一つは英語圏での移住申請(就労ビザ取得)を考えている方向けの「ジェネラル・トレーニング・モジュール(GT)」です。
一言で言うと,勉強用か生活用かという違いになりますが,大学入試に使えるのはACの方だけであることにご注意ください(リーディングとライティングの内容が異なります)。
IELTSは4技能がバランス良く判定される試験だと言われますが,多くの方に馴染みのある英検やTOEICを基準に考えていると,その違いに驚かれるかもしれません(TEAPとは似ています)。
主な特徴として,以下の内容が挙げられます↓
ILETSの特徴
試験内容:ライティング60分+リーディング60分+リスニング40分+スピーキング11~14分の約3時間
受験料:25380円
年間受験者数:世界で300万人以上。国内は数万人ほど
4技能すべてを測るため,試験時間は長く,そして受験料も高めです(こちらはコンピューターを介さないゆえの弊害です)。
東京と大阪では2日がかりの試験方式(東京2DAY・大阪2DAY)も存在しますが,その他の会場では基本的には1日で行われ,その場合の時間割は以下のようになります↓
IELTSのスケジュール
試験開始:9時頃
ライティング:9時20分~10時20分
リーディング:10時30分~11時30分
リスニング:11時40分~12時20分
試験終了:12時30分
スピーキング:13時~19時30分のどこか
各イベントの間に10分程度の空き時間が設けられているように見えますが,実際は配布・回収作業が入るため,スピーキング以外は実質ぶっ通しのテストです。
なお,スピーキングは,上に示した時間帯のうちのどこかを指定されることになります(6時間半も拘束されることはないです)。
チェックイン開始時間になったら受付に向かうようにしましょう。
なお,持ち物については極めて特殊な条件が付加されており,
- パスポートとそのカラーコピー
- 黒鉛筆(シャーペンは不可)
- カバーを外した消しゴム
- 無色透明な容器に入った水
以外は,荷物置き場に置かなければいけません。
また,眼鏡を付けている人はウェアラブルデバイスでないか確認される他,スマートウォッチの普及によるものなのか,いかなる時計も持ち込みが禁止されています。
これがグローバル基準なのでしょう。
もっとも,試験室にはティッシュと鉛筆削り,そして時計が用意されています。
試験範囲は,受験生の英語力が英語圏の大学(あるいは大学院)に入学できるレベルに達しているのかどうか評価するのに適した問題です。
IELTSのスコアについて
結果は1.0から9.0までのバンドスコアで示されます。
各技能ごとにスコアが出ますが,最も価値があるとされるのが「オーバーオール・バンドスコア」という名前の,いわゆる総合評価です(IELTSの試験結果はテスト13日後の13時にマイページから確認可能で,有効期間は実施日より2年間です)。
上の画像は,そのバンドスコアに達した受験者が受ける評価内容をまとめたものとなります。
2015年のデータにはなりますが,日本人の平均スコアは5.8であり,一般的に大学は6.0~6.5を入学基準としているところが多いようです。
推奨年齢16歳以上の試験ではありますが,意識の高い人ばかりが受けているテストでもあるので,スコア的にはなかなかにハイレベルの争いになります。
ここで,IELTSのスコア(左)とCEFR(右)の比較もしておきましょう↓
- 8.0以上=C2レベル
- 6.5以上=C1レベル
- 5.0以上=B2レベル
CEFRについてまとめた記事もあるので参考にしてください。
それによると,英検で言う準1級合格レベルは,IELTSでみると5.5~6.0あたりに相当します。
先ほど挙げた平均スコアはこの範囲に収まっているわけです。
もっとも,留学先の授業についていくためには,そのくらいの英語力がないと目的を達成することは厳しいでしょう。
次章からは,実際の試験内容についてみていきますが,ここでは,ブリティッシュカウンシルの公式HPに載っているサンプル問題を使って,問題の傾向について分析しています。
以下の説明では問題の一部しか載せていないので,適宜下記のリンクを参照してください↓
リスニング問題の対策
- 時間:約30分(+10分の転記時間)
- 問題:40問
- 採点:1問1点の40点満点
- 日本人の平均バンドスコア:5.9
IELTSのリスニング問題ですが,選択式のものだけでなく記述問題も用意され,文法ミス以外に誤字脱字や語数オーバーも減点対象です。
音声は1度きりな上,訛りありの英語という点が,より難しさを増しています。
メモは自由に取れる他,質問を先読みする時間も与えられます。
出題内容ですが4つのパートから成り,後半に進むにつれて難度が高くなる傾向があるので注意しましょう。
- 日常生活における複数での会話
- 日常生活でのモノローグ
- 教育環境内での複数人の会話
- 学術的なテーマに関するモノローグ
Part 1
サンプルの最初にある問題は「用紙を完成させる問題」です。
名前や数字,日付や単位,さらには場所など,細かい点に注意して聞きましょう。
また,以下のように制限内の語数で答える問題があります↓
2語以内または数字1つ,あるいはその両方で答えるようにとの指示がありました。
質問を先読みし,特に最初の疑問詞に注目しておくのがポイントです。
Part 2
Part 2の例として載っているのは「選択肢の中から答えを選ぶ問題」でしたが,上の例ではカウンセラーのA~Cの中から適切な人物を選びましょう。
先読みに加え,問題文と同じ単語は音声にあまり出てこないので,同義語・類語に注意して聴くのがポイントです。
次の例は表を完成させる問題となっています↓
空所の語数制限を確認しておきましょう(上の問題では省略していますが,「2語以内」でという指示がありました)。
Part 2と4では1人の話者がしゃべります。
Part 3
Part 3ですが,サンプル問題の一つが上記です。
こちらは「文の空所を埋める問題」になっています。
音声内容に出てくる語句を使用して埋めていきますが,文法的かつ論理的に正しくなっていないといけないことに気を付けましょう。
例えば,to不定詞の後が原形になっているか,原因と結果などの論理関係が正しいことなどを確認します。
Part 4
最後のPart 4では,掲載されている全ての質問を先読みしないといけないところが特徴的です(途中に読む時間は見当たりません)。
上の問題は,複数ある選択肢から適切なものを選ぶ問題ですが,質問にあるキーワード(例えば present-orientated)に下線を引き,しっかりと待ち構えて聞くようにしましょう。
質問は放送で流れる順番になっていますので,あとは言い換え表現になっていないかだけ気を付けるようにすると,比較的解きやすくなるかと思います。
なお,今回の問題以外にも,5つの選択肢から2つを選ぶ問題などがありましたので,指示内容に注意するようにしましょう。
さらには,問題文自体において,図表,フローチャートの完成問題などが出題されることもあるので,最後に紹介する公式問題集などを使って,色々なパターンを学習してみてください。
リーディング問題の対策
- 試験時間:60分
- 問題数:40問
- 採点:1問1点の40点満点
- 日本人の平均スコア:6.1
IELTSのリーディング問題では,全部で3つのセクションがあります。
セクション1と2が13問,最後の文は14問で,難易度的にはセクションの3が一番難しいです。
時間は均等に20分ずつかけて解きますが,リスニングと異なり,答えを写す時間は設けられていないことに注意しましょう。
Section 1
文章は長いので,ここでは質問文だけ抜粋しますが,各パッセージに付き1つか2つの問題形式で出題されます。
サンプル問題では上記画像のような「情報を特定する形式の問題」が確認できますが,真偽だけでなく,「判断できない」という第3の選択肢もあるので気を付けましょう。
今回はリスニング範囲でも見られた多項選択問題がありますね↓
今回紹介したどちらも,実際解く際にはスキャニング(ざっと素早く読む)を行い,関連する部分の情報だけ精読してサッと掴めるようにする戦略がベストです。
Section 2
これは「特徴マッチング問題」に分類されるもので,パッセージの内容について書かれた文に合致する選択肢を選ぶ問題ですが,質問の順番がパッセージ内の順番通りではないので,各cortexの特徴について理解して答えるようにしましょう(選択肢のAが脱落していますが the reptilian cortexです)。
リーディングには今回のcortex(大脳皮質)のような専門用語も出てきますが,それらの意味を正確にそれと理解できていなくても設問自体は解けるようにできています(今回は「脳に関連する何か」と分かれば十分だと思います)。
Section 3
これは「情報マッチング問題」に区分される問題で,各内容が示す機能(例,説明,定義,理由など)についての問題文がどのパラグラフに記述されているか選ぶ問題です。
ちなみに同じアルファベットを2回以上使えるときは,問題に「1回以上使っても良い」と書いてありました↓
これは「筆者の見解や主張がパッセージの内容と合致するか否か答える問題」です。
真偽問題のところと同じように,「判断できない」という選択肢があるので注意しましょう↓
サンプル問題の最後は「要約を完成する問題」です。
このようにパッセージの語句を使って空所を埋める以外に,リストから選ぶ形式もあります。
語数制限や文法に着目すると答えが選びやすくなりますので,各パラグラフの主旨に沿って適切な語句を選びましょう。
ライティング問題の対策
- 時間:60分
- 課題数:2問
- 採点:4つの評価基準で採点。Task 2の方が配点が高い。
- 日本人の平均スコア:5.3
Task 1は約150語であるのに対し,Task 2は250語程度以上の制限付きで解答を作成します。
時間はTask 1に20分,Task 2に40分かけるのが基本です。
なお,採点は,
- 質問に適切に答えている
- 論理的な一貫性がある
- 語彙力
- 文法力
の4つを評価基準とし,「1.0~9.0までの0.5点刻み」で行われます。
最後にそれらの合計を4で割って平均を出し,それがライティングのバンドスコアになるというわけです。
アカデミック・ライティングのテスト形式の場合,Task 1と2で求められるのは以下のようになります↓
- グラフや図のデータを分析し,文字で説明しますが,与えられた情報の中から重要な情報を選択し,図表を見ていない人にわかるように体系立てて説明する
- あるトピックに対し自分の意見を述べるが,英文エッセイ形式で論理的に説明する
Task 1
まずはTask 1のサンプル問題を見てみましょう。
グラフは1つしか表示しませんでしたが,こういった棒グラフの問題は,数値の差を比較しながら説明するのがセオリーです。
いきなり書き始めずに,まずは分析して構成(パラグラフの数やアウトライン)を決めるのに3分。
書くのは15分程度にとどめ,最後に見直しの時間を作るのが原則です。
以下が解答例ですが,下線を引いたのが,見えている方のグラフの分析に当たります↓
上の解答の構成としては,
- トピックの紹介(20語)と要約(30語)の50語で序章を書く
- ボディーはグラフの数に合わせて調節し,全部で120語に
- 結論を最後に書いて完成
です(結論はなくてもよいです)。
Task 2
Task 2は社会的・一般的なトピックが与えられ,何について書くのが明示されているのがわかるかと思います。
その後に指示文が続いていますので,どんな内容を含めるのか把握してください。
今回は「最近における人の価値の判断基準について賛成か反対か明示」した後で,「その理由について,自分の経験などの具体例を挙げながら説明する」ことが求められています。
こちらも書く流れはTask 1のときと同じで,
- 準備(5分)→書く(30分)→見直し(5分)
のように時間を使いましょう。
英文のエッセイの構成も,先の課題1と同様です↓
- イントロダクション(50語)
- ボディー(100語のものを2つ3つ)
- コンクルージョン(40語)
注意点としましては,Task 2においてはしっかりと結論を書くようにして下さい。
その他,細かいところとしては,
- I thinkなどの多用をしない
- 接続詞や関係代名詞のthatなどを省略しない
- 各パラグラフで言いたいことは1つにする
ことに注意しましょう。
ライティングの対策としては,学校の先生など,誰か他人に見てもらうのが一番です。
スピーキング問題の対策
- 試験時間:11~14分
- 採点:4つの評価基準
- 課題:3パート
- 日本人の平均スコア:5.6
試験官とマンツーマンの面接形式で,テストの内容は録音されます。
こちらもライティングと同じ数の評価基準があり,具体的には,
- 流暢さと一貫性
- 語彙
- 文法
- 発音
の4つです。
自分の意見をしっかり伝えることが最も大事ですが,説得力を持たせるためには理由や具体例を続けて会話を広げていく姿勢が必要になります。
試験官が止めるまでしゃべって構いません(止められるのは,内容に問題があったからではなく,単純に質問ごとに制限時間があるためです)。
とはいえ,簡単な意見を言えれば良いので,わかりやすく相手に伝えることを第一に心掛けましょう。
試験官は,こちらの答えによって態度を変えないことが現場のルールとなっていますが,こちらが笑顔でいるに越したことはありません。
質問の意味がわからなかったら,繰り返してもらうか,違う言い方をしてもらいましょう。
見当はずれな答えを返してしまっては点数になりません。
Part 1
Part 1では,家や家族,勉強や趣味,日課や子供の頃にしたことなどが問われます。
「はい」と「いいえ」だけでなく,少なくとも2文はサポートセンテンスを加えましょう。
理由や具体的な経験を付け加える以外に,冗談を言うのも立派なコミュニケーションです。
Part 2
Part 2では試験管からトピックカードと書くものを渡されるので,1分間かけて喋る準備をします。
メモを見ながら2分程度しゃべりますが,終わるとスピーチに関する質問が1つか2つあります(上記画像のRounding off questionsがそれです)。
メモの作り方ですが,トピックを書き出した後で,You should say:の後に書かれた,5W1Hに関する答えを簡単にメモしておきます。
1分しかないので,単語くらいしか残せません。
上の例ですと,
- トピック:important things
- Where-from my parents
- Whenーmy 12 birthday
- What forーto play
- Whyーto be relaxed,forget my problems
などとメモしておくことで,以下のような回答ができるかと思います↓
最後の質問は,これまた2~3分程度で15秒弱で答えます。
Part 3
Part3は抽象度が高い質問で,難易度が高いです。
試験官は受験者の答えを聞いて,発言内容に応じたディスカッションを展開しましょう。
特に,質問文自体の文法や構文が難しいことが多いので,よく理解してから話始めることを忘れないでください。
大体1問に30秒,50語が目安になります。
トピックとしては,Part 2で聞かれたものをさらに発展させたものになり,例えばPart 2で「最近観た面白い映画」について聞かれたら,Part 3では「映画が私たちの生活で占める位置について」や「映画鑑賞の変化について」聞かれることが予想されます。
自分の意見をまずはしっかりと述べて,その理由や具体例を続けて答えましょう。
比較する場合も,「今と昔」のように時間的な対比を持ち出す他,「ある人はこう言うけれど,自分はこう思う」といった比較の仕方もあります。
その他の評価基準についてですが,語彙はともかく文法面では時制や3人称単数-s,冠詞に注意することです。
簡単なようにみえますが,意外と間違って話してしまうことが多いように思います。
発音もそうですが,スピーキングにおいては普段から英文に触れ,とにかく話す練習を積んでいることが大切です。
まとめ
以上,入試改革が進むにつれてますます注目が高まる英語資格・検定試験の中から,IELTSについて詳しく解説してきました。
試験対策については,まずは公認問題集を使って練習を積み,それでも足りなければ追加購入していくのが現実的です。
また,リスニングやリーディング以外のライティングやスピーキングに関しては,普段からの対策がしにくいところなので,例えば前者については,アカデミックなエッセイの書き方について学んだ後で,自分の書いたものを誰かに添削してもらうことが重要だと結論付けました。
試験ではその型に倣って書いてしまえば,意外と点数が取れるはずです。
そして後者のスピーキングについては,ある程度の時間をかけなければ正しい発音が学べませんし,何より話す練習は日ごろからしておかないと,すぐに口をついて英語が出てくるなんてことはありません。
とはいえ,練習相手を見つけるのは大変ですので,IELTSを専門に教えられる講師の揃ったスクールを利用するのが理想です。
歴史のある対策校として,都内近郊に在住の方だとバークレーハウスがあります。
短期間で一気に実力を伸ばして,良いスコアを残しましょう!