まだコロナが流行っていない2017年頃の話になりますが,当時は勉強用のアプリが少しずつ教育界に受け入れられるようになった時代で,「反転学習(反転授業)」と呼ばれる勉強法について耳にするようになったのもこの頃でした。
実際,2017年の10月には,反転学習を取り入れた楽天の英語学習サービスである「Rakuten Super English」が本格的に開業し,世間を賑わせました↓
2023年においてはエストニアのLingvistのみが残っており,楽天のReDucateは2019年にサービスを終了する結末を迎えていましたが,あくまでビジネスとしては成り立たなかっただけであって,反転学習自体に非はありません(そもそも,科目が英語に限られるわけでもありませんし)。
そこで今回は,そんな反転学習のメリットとデメリットに加え,令和の時代における学習における注意点について,今一度考えてみたいと思います。
反転学習とは
そもそも「反転学習」という言葉を知らない方も多いかと思いますが,もともとは海外でflipped learningとして行われていたもので,日本がそれを後から取り込んだ形になります。
「反転」と付くからにはそもそも元となる学習の形があるわけで,それを反転させた学習スタイルを「反転学習」と呼ぶわけです。
従来の学習の流れについて思い返してみましょう。
これは今の大人が子どものときに行っていた勉強を浮かべればよく,
- 学校で先生に何かを習う
- 問題集を自宅に持ち帰って復習する
という内容のものです。
しかし,学習アプリを始め,オンラインの動画授業などの便利な教材を豊富に利用できるようになった現代において,新しい教育方法が誕生しています。
その1つが反転学習であり,そこでは
- 生徒が教材を使って未習範囲を独学する
- 学校で疑問点の解消や反復演習,発展事項を扱う
といった具合に授業スタイルが反転しているわけです。
さて,この反転学習,従来の学習法に比べて一体どのような変化を生むのでしょうか。
まずは次章で反転学習のメリットについて述べたいと思います。
反転学習のメリット
いくつか考えられる反転学習のメリットですが,一番大きなものは,自分で理解しようという自立性が養われることでしょう。
私は普段,塾で教えていますが,従来の方法で授業を行ってばかりいると,講師に依存しすぎてしまい,他の誰かに教えてもらうことなしに,自分では何もできない(しようとしない)子どもに育ってしまいます。
私たち講師は教えるプロですから,わかりやすく説明することはたやすいです。
学校で1週間かけて学ぶ範囲であっても,わずか2時間の授業で終わらせることは十分に可能で,確かに時間対効果(タイパ)は大変良いと言えるでしょう。
しかしその一方で,生徒は「誰かに習った方が簡単にすぐわかるのだから,自ら進んでわざわざ何かをしようとしなくていいや」と思うようになり,授業を受けたらそれ以上何かをすることは基本ありません(内容をわかりやすくするため,問題集については考えません)。
もちろん,反転学習でも講義動画をみて学ぶことをしますが,そこからがむしろ始まりとなる点が大きく異なります。
つまり反転学習では,予習の時点で重要なポイントを自らで発見しようとし,理解できなかった部分についてはどこがどのようにわからなかったのかまでを具体的に明らかにし,さらには実際の授業で質問や話し合うことまでしなければなりません。
質疑応答を行うことで,講師(他人)と意思疎通を取る時間も増えるわけで,自分の意見を正確にわかりやすく相手に伝える練習もできます。
このようなアウトプット中心の授業で培われるコミュニケーション能力というのは,教育改革の柱とも言える大切な能力であり,Society5.0においてますます問われるようになるでしょう↓
なお,授業で自分の意見を求められるとなれば,自分事のように捉え,教えられたことを必死で理解しようとする意識が高まります。
このような当事者意識といいますか,自分も話し合いに参加しないといけないという焦りが,本気度を高めて,従来の授業以上に理解度も高まるというものです。
反転学習のデメリット
逆にその反面,教材や教師の質が確保され,さらにはカリキュラムがちゃんとしていなければ反転学習はうまくいきません。
この学習スタイルで大切になってくるのは何と言っても予習段階ですから,そこでうまく立ち振る舞えるように指導することが重要です。
例えば,学校に週に5日通っていても,1~2回しか行われない授業もあるでしょうし,時間にしてみれば120時間のうちの数時間にすぎません。
1つの科目でみると,授業がある日以外は何もないわけですから,予習に使える時間の方が圧倒的に長いことがわかります。
ですが,そんな膨大な時間があっても,何の工夫も凝らしていなければ,そんな自由時間もうまく使うことはできないでしょう。
いくら「予習するときは自分なりに工夫して頑張るように」などと伝えても,わかりにくい教材をやらせるようでは理解ができないでしょうし,難しかったりつまらなかったりすれば長続きはしません。
また,どのようなペースでどこまで学んだら良いのかを生徒にしっかり教えなければ,ちょっと動画を観ただけで「今日はもうお終い」などとしてしまうものです。
思考停止の状態でただ動画を眺めても勉強はしたことにはなるため,予習がうまくいっているかどうかを管理する作業も必要になります。
反転学習を成功させるためのポイント
「反転学習をうまく進めるためのポイント」は楽天の他,Z会やリクルートの教材から学び取ることができるのですが,以下の3つが主なものです↓
- モチベーションを維持する
- すき間時間を利用させる
- 大人が管理できる
1つ目ですが,モチベーションの維持に役立つのは楽しさであり,楽しいからこそ勉強は続くように思います。
もちろん,勉強して知識が増えることを喜べる生徒であれば申し分ないのですが,大体の子どもにとって勉強とは辛くて苦しいものです。
ですから,その苦しみに耐えて自分が成長したことを実感させ,「あー,頑張って良かった!」とか「やれば自分はできるんだ!」といった気持ちに至る必要があります。
そのため,基準を下げて褒めやすくしたり,自己肯定感を高めることを意識するようにしましょう↓
最近の子どもの勉強事情ですが,平日はやることが多すぎてまとまった時間はほとんど取ることができないようです。
そのため,学校の行き帰りのちょっとした時間や寝る前のわずかな時間,さらには週末を利用して効率良く学習しなければなりません。
こうした要領の良さといいますか,細々とでも日々触れる機会を意識的に増やすことが,反転学習を成功させるためのポイントです。
例えば,Z会の公立高校向けの教材だと,今は週に1時間の復習だけで学校の勉強についていけるように工夫されています。
ディアロやスタディサプリの教材は,持ち運びしやすいスマホやタブレットを用いて「すき間時間」に取り組める仕様です↓
その他,クラウド上に利用状態が記録できるため,保護者や担当教師が子どもの進捗状況を逐一確認できるため,親や先生と子どもの間には共通の理解が生まれることになります。
子どもが塾で頑張っていることを,親も管理画面を通して理解していることがより良い未来へとつながっていくわけです。
子どもの学習環境は変わっていくものですが,それに合わせて教師や親も意識改革を行っていくべきということを知りたければ,「教育ITソリューションEXPO」に参加してみてください。
私が参加した当時は,「タブレットは新しい文房具だ」としきりに言われていましたが,そこで紹介されるような真新しいサービスも積極的に使っていただけたらと思います。
おわりに
今ではすっかり反転学習の効果が認められ,自立的な生徒の育成と対話重視の教育スタイルを掲げる塾やサービスも増えてきました。
成果を上げているものの共通点としては,教師の質はもちろん,モチベーションの維持やすき間時間を意識した教材,そして親が子供の勉強の進歩状況を管理できるシステムがしっかりしていることが挙げられます。
逆に言えば,古い価値観にとらわれて,新しいICTを見向きもしないような塾やサービスでは,未来から目を背けた怠慢な経営をしていることが多く,できるだけ避けるべきです。
もちろんデジタルとアナログの間に埋まらない溝があるのも事実ですが(例えば紙の本とデジタルの本),それぞれの持つ特徴を生かした使い方をしては,その場に応じて使い分けていくことこそ,今後の社会でますます重宝される能力の一つではないでしょうか。
実際,コロナ禍まではデジタルが学習の中心となっていたもものの,最近はアナログも取り入れたハイブリッド型の教育が増えてきています。
是非,本記事で指摘した点を意識して,上手に反転学習と付き合ってみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。