小中学生個人の視点で見れば,自分さえテストの成績が良ければ心配することはあまりないような気もするのですが,「学校」という社会生活を営む場において,集団の学力レベルというのは授業の進行自体に大きく影響します。
例えば今通っている学校において,平均点がやたらと低いクラスが隣に存在するとしましょう。
もちろん学力と人間性に正の相関があるとは言いませんが,そういったクラスに所属するメンバーは授業への参加度合いが低いのは確かで,「あー,隣はバカなやつが多いなぁ」と他から後ろ指を指されてしまうものです。
そんなクラスはたまにあるから笑い話で済むのですが,それが周りに何個も多発しているような状況では恐怖しかありませんね。
さらにそれが1つの学校内にとどまらず,日本全体で見た場合にも起こってしまうようでは,もはや義務教育を掲げる意味もないでしょう(世界には義務教育がない国も多いです)。
義務教育が崩壊すると高度な社会を維持できなくなって困りますから,政府は毎年全国の小中学生の学力を調査し,自分たちの政策(主に学習指導要領に沿った施策)で上手くいっているところとそうでないところを洗い出しています。
そしてそのために行われるのが,
全国学力・学習状況調査(全国学力調査)
というわけです。
令和時代に生きる子どもたちは一体どのような学力の推移を示すのか,そして何が強みでどこに課題があると分析されているのでしょう。
本記事では,最新の結果を踏まえながら,これらについて見ていきたいと思います。
もくじ
全国学力・学習状況調査とは
まずは全国学力・学習状況調査自体の目的や実施状況についてまとめておきましょう!
文部科学省のHPに行き,最新の実施要項を確認すると,
義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し,教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図るとともに,学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善などに役立てる。さらに,そのような取り組みを通じて教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する
というのが目的のところに書いてありました。
これはつまり,実施することで,
「国民のみなさまに平等に義務教育を実施しています」
「お宅の学校は周りに比べて教育がうまくいっていないようですね」
「最近の子はこのような強みと課題を抱えています」
といった判断基準に使える重要な結果が得られることになりそうですね。
調査対象は日本全国津々浦々,私立公立なども問いません。
ただし対象となるのは小学6年生と中学3年生のみであり,それぞれが「小学生・中学生」の全体を代表していることになります。
なお,本学力調査は平成2007年から毎年行われてきており,詳細なデータは以下のページで確認できるので気になる方はアクセスしてみてくださいね↓↓
参考
肝心の調査内容ですが,毎年行われる「本体調査」に加え,年度によっては「その他調査(経年変化分析調査,保護者に対する調査など)」が追加実施されることもあります。
ちなみに令和2年度は上に示した3種類の調査が行われることが予定されており,次章で1つずつ見ていくことにしましょう。
調査内容について
本体調査
本体調査における科目ですが,読み書きそろばんを意味する国数の2教科が基本で,英語や理科などの科目がこれに加わる年もたまにあります。
調査は授業時間を利用して行い,小学生は45分,中学生は50分の制限時間付きでこれを解くことになるのですが,最近の問題は新学習指導要領に基づき,従来の「知識に関する問題」と「活用に関する問題」をうまく混ぜ込んで「生きる力」が測定できる構成になっているのが特徴です。
例えば国語では,3領域1事項(「話す・聞く」,「書く」,「読む」,「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」)を問う出題となり,マーク以外に短答式・記述式の問題形式を取りながら,さらには記述式の正解が1つとは限らないなどと工夫されています↓↓
算数であれば,「数と計算・量と測定・図形・数量関係」の4領域からの出題です。
小学生がよく抱く疑問に,「算数なんて勉強して,将来何の役に立つのですか」というものがありますが,いわゆる「数学脳」を持ち合わせておくことで,世の中をより多角的に分析できるようになるわけですから,今後の社会を生き抜くためにますます求められる資質能力だと答えてやってください↓↓
上で2つの事象にまたがっている局面(問題解決に向けて~,焦点化した問題を~)というのは,まさにSociety5.0に向かう世代が直面する状況に似ています。
AIと会話するための言語はもはや数字であるともみなせてしまうわけですからね。
その他アンケート調査もあり,学習意欲や勉強方法さらには環境などについて回答していくことになりますが,4択のマーク式とはいえ70問近くあるのでなかなかに大変です。
例えば中学生用の質問には,
- 国語の授業で学習したことは,将来,社会に出たときに役に立つと思いますか
- 学校の授業時間以外に,1日当たりどれくらいの時間,勉強をしますか
- 中学1,2年生の授業で,英語を聞いて(一文一文ではなく全体の)概要や要点をとらえる活動が行われていたと思いますか
といった意識調査めいたものがあり,生徒だけでなく学校側にもアンケートは行われます。
実施は4月中(令和2年の学力調査は4月16日)かつデータは速やかに公にされるので,各方面が改善にこれを役立てることは想像するに容易いでしょう。
経年変化分析調査
先のテストが学校間の比較であるのに対し,経年変化分析調査では過去と現在の学力を比較します。
これは平成25年度に初回が行われ,2回目が平成28年度,そして令和2年に行われるものが3回目となりますが,比較できるよう問題はどの年度でも同じです(ゆえに公開されません)。
なお,この調査は全児童が対象ではなく,1~2%で抽出された学校(対象学校)のみとなるものの,時間にして小学生は45分,中学生は50分と本体調査同様,本格的なものとなります(とはいえ対象学校の中においても国語だけ,算数だけ,英語だけの学校などと割り当てられるので比較的に負担は軽くなっています)。
科目は小学生が国語と算数,中学生は国数に英語が追加され,4技能にわたる出題と記述式問題(スピーキングは5分の口述式)になるとのことです。
公開されている問題の中では,次のような小数の計算問題であったり,
次の4つの式で●は0でない同じ数を表しています。計算の答えが●より大きくなるものを1から4の中からすべて選びなさい(1:●×1.2,2:●×0.7,3:●÷1.3,4:●÷0.8)
国語では,
「鳥とは違う」とありますが,ここでいう「鳥とは違う」カモノハシの特徴を次の1から6までの中から3つ選びなさい(1:足が四本,2:足に水かきが付いている,3:身体は獣毛でおおわれている,4:卵を生む,5:仔は乳で育てる,6:大,小便と卵の出る所が同じ)
といった問題の正答率が低いと聞きます。
保護者に対する調査
保護者に対する調査は,家庭状況と学力等の関係について,経年の変化を把握・分析するためのものです。
経年変化分析調査を受けた児童の保護者が対象なので,同じ5~6月のタイミングで行われ,児童の成績は家庭状況や保護者の教育への意識調査と結び付けられるための資料として扱われることでしょう。
質問内容としては,「え,こんなことまで聞かれるの」というものも多く,当てはまるからといって必ずしも子どものためになっているわけではないのですが,子どもを教育する側からすれば非常に参考になる質問が多いように見受けられます↓↓
世帯収入が子どもの学力と関係しているのはもはや周知の事実となりましたが,その出どころに関係したのもこの調査です。
こちらの内容に関しては大変興味深いので,別に記事にしたいと思います。
学力調査の結果
以上の内容で実施される全国学力・学習状況調査ですが,大体3ヶ月ちょっと経過すると,結果が公表されてきます。
余談ですが,調査対象の児童数を見ることで,国立・私立・公立に通う児童の割合がわかるわけで,令和元年の場合ですと,
- 小学生:0.5%・1.2%・98.3%
- 中学生:1.0%・7.2%・92.8%
のように,中学受験で1割弱が私立や国立に進学するものの,9割以上は公立に通っているのは興味深いデータですね。
それでは以下で,小学生と中学生の結果を別にしてまとめていきます(現在は令和元年度の結果のみですが,これから毎年更新していく所存です)。
小学生の場合
国語の平均正答率は,
- 話す・聞くこと:72.4%
- 書くこと:54.6%
- 読むこと:81.8%
- 言語文化と国語の特質に関する事項:53.7%
となりました。
試験の難易度的に「できる・できない」のボーダーは70%あたりに設定されていることを考慮すると,
書く能力と言語関連の能力に課題あり
の状態です。
書くことを問う問題に,公衆電話の必要性を調査した結果をふまえ,「必要だ」という主張を裏付けるための根拠を「必要な場面があること・便利な使い方や特徴があること」の2つを使って70字程度で書くものがありましたが,正答率は30%を切っていました。
その他,同音異義語の漢字を文中で正しく使えているかみるための問題も6割以上の児童が間違えており,
「今回の調査を通して知ったことを多くの友達に伝え,公衆電話についてかんしんを持ってもらいたいと思います」の下線部を正しい漢字にせよ
というのがその例となります。
これは文脈を把握しないといけないので,最近流行りの「読む」力の欠如も原因の1つかもしれません。
一方算数はどうかといいますと,
- 数と計算:63.3%
- 量と測定:53.1%
- 図形:76.8%
- 数量関係:68.5%
と,図形以外はおおむね低いことがわかります。
例えば以下の問題は「数と計算」に関する理解を問うためのものですが,右に載せられた計算の仕方をもとに,除法(わり算)について言える性質を記述するものです↓↓
すでに引き算に関して,同様の例が与えられているので,「わられる数」「わる数」という単語が思いつかないということはありません。
真似して書けばいいから簡単かと思いきや,この問題の正答率は3割強と低いものでした。
また,アンケート結果としては,国語と算数への関心は年々増加傾向にあり,勉強するのが好きだと回答した小学生の方が正答率が高い傾向にあるようです。
中学生の場合
次に中学生の結果をみてみましょう。
まずは国語からですが,
- 話すこと・聞くこと:70.6%
- 書くこと:82.8%
- 読むこと:72.7%
- 言語文化と国語の特質に関する事項:68.2%
とおおむね合格点が取れていると思います。
ですが,問題によっては正答率が低かった問題も存在するので課題がないとは言えません。
例えば「言語文化と特質の領域」における出題に,新聞を読んで,住所を探して宛名を書くようなものがありましたが,この正答率が低かったです。
封筒を書かなくなったことも影響しているでしょうね。
次に中学数学ですが,全体的に正答率は低めで,
- 数と式:64.4%
- 図形:72.9%
- 関数:41.7%
- 資料の活用:56.7%
となりました。
中でも,「関数」の問題で,式やグラフを用いて2つの総費用が等しくなる使用年数を求める方法を説明する問題は35.6%の正答率でした↓↓
Bは本体価格が10万円で年間の電気代が11000円,Cは15万円の6500円でした。
なお,令和元年には英語の調査もありました。
調査された領域の正答率は,
- 聞くこと:68.3%
- 読むこと:56.2%
- 書くこと:46.4%
- 話すこと:※参考値
とすべてが低水準になっています(話すことに関しては参考値扱い)。
特に目立ったのが,概要や要点をとらえる問題で,すべて文中に書かれていた内容であっても,書き手が最も伝えたいことを選ばなければなりませんでした↓↓
こういった問題は大学受験でも出てきますからそもそも難しいのでしょうけど。
そして,正答率がわずか1.9%だったのが以下の問題で,
参考にする資料などはないので完全に自由に書けるのですが,文法や語彙に問題があったり,論理展開を示す語句の使用がうまくできない中学生が想像以上に多かったため,自分の考えをうまく論理立てて書けなかったことが原因のようです。
現に,以下のような問題を4割強の中学生が間違えてしまっています↓↓
なお,参考値として調べられたスピーキングに関しても,次のような問題に答えられたのは10.5%の生徒のみだったそうで,そもそもリスニングの時点でわかっていないので,話す段階にすら進めない中学生が多かったようです(スクリプトは実際見ることはできません)↓↓
令和時代の課題と対策
このように見てくると,まぁなんとなくですが,令和時代に生きる小中学生が間違えやすい問題の傾向というのがわかってきたように思います。
もちろん究極は自分の子どもに,違う年度の学力調査をコピーしてやらせてみて,結果を分析するのがよいのでしょうが,それにはやはり分析する目が必要です。
そこで,簡単ではありますが,これまでにわかってきた課題と対策について最後にまとめておくことにしましょう。
普段から,次のような事柄に注意して学習するようにすれば,また結果も変わってくると思いますので,是非整理してみてください。
小学生の対策
読むこと:図鑑や事典を読む際に,目次や索引などを活用できるようになるのが課題。まずは目次と索引が何なのかを理解し,自分の目的や状況に合わせて正しいページを参照できるようになる必要がある。図鑑などを与えるのはもちろん,調べもの学習も有効でしょう。さりげなく料理本を使って誘導することもできそうです。
話す・聞くこと:インタビューの前に「何のためにするのか,どのような情報を聞き出したいのか」を明確にし,話の展開に沿って質問の仕方を考えたり,相手の意図を捉えるところに課題があるとのこと。こればかりは会話の機会を増やすしかありません。駅員に○○への行き方をたずねるのもいいですし,とにかく大人相手に何かを尋ねる経験を積ませるのがいいでしょう。
書くこと:報告する目的に応じて,理由や例の挙げ方を工夫し,論理的に自分の考えを伝えられるようになるためには,書く練習を積みつつ接続詞の使い方なども学ぶ必要があります。
伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項:文脈を理解して正しい漢字をあてるのができない小学生が多かったとのことで,漢字辞典を使用したり,同音異義語を使い分けた短文作りをするのが一番。
数と計算:数は小数含め扱えるように。計算に関して四則演算のルールやその他性質を見出せる能力は良問の演習を通して学び取るしかありません。良い教材に取り組みましょう。
量と測定:場面の状況を解釈し,数量の関係に着目し筋道を立てて考え,さらにはそれを数学的に表現処理し,得られた結果から判断する高度な能力が求められます。こちらも演習中心。
図形:構成要素や性質に着目し,観察眼を養う必要があります。幼少期からブロック遊びをさせておくと空間把握能力も身に付いて良いとされます。
数量関係:複数の資料の特長や傾向を関連付け,1つの資料から判断できない事柄についても判断する点に課題。こちらもそれ用の問題がないと対策できません。
より確実な対策として,以下のサービスを利用するのがおすすめです↓↓
おすすめサービス
中学生の場合
読むこと:文章の展開に沿って情報を理解し,内容を捉えることに課題がある。中学生であまり時間を取れる生徒は少ないのですが,やはり読書を勧めます。その他,週に2・3回でも国語の文章問題を解いてみるのも良いですね(国語は勉強しなくてもある程度読めるわけですから対策をおろそかにする子が多いです)。
話す・聞くこと:話愛の話題や方向はわかるものの,それを踏まえて自分の考えを持つことができていない。部活や地域の少年団のような活動に参加し,話し合いの場数を踏むことで意見を持てるようになります。他の意見を持つ人と触れ合うと勉強になりますが,多感な中学時代ですので,無理強いは禁物。
書くこと:自分が伝えたいことの根拠を資料から抜き出して書くことに課題がある。対策としては,記述式の国語の問題を多く解くことが意外と近道です。
伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項:さすがに封筒の書き方を教えるというのは変ですので,こちらは何か間違えた問題が出てきたときに復習する程度で良いでしょう。あとは書道の授業で筆の扱いを習いますが,そこでの学びを大切にすることも対策になります。
数学全般:こちらは小学生以上にそれ用の問題を解くことでしか対策になりません。平均点がより低めに出ているのは,国語以上に普段の生活で対策がしにくいからでしょう。令和時代の教育改革に対応した良質な問題を解くことを心がけてください。
アンケートの結果から,好きな科目であれば平均点も高く出る傾向にあることがわかってきました。
そのためにはわかりやすく教えてもらって,テストの点数を上げてしまうことが一番です。
そういった意味で英国数のいずれも動画で学べるスタディサプリは万能型だと思います↓↓
おすすめサービス
全国学力調査で判明した事柄というのはあくまで集団の傾向ではありますが,それらをしっかり把握しておくことで,個人レベルにおいても,例えば各家庭の教育方針などに活かしていけると思います。
そして多くの個人が自身の学力アップに励むことで,日本児童の学力が上昇し,最終的に社会全体の人財の価値が向上すれば最高ですね。
今回は国内における全国学力調査を取り上げましたが,大規模な学力調査で世界的なものにPISAやTIMSSが知られています。
これらの結果についても,是非参考にしてみてくださいね↓↓
最後までお読みいただき,ありがとうございました。